第21話 自分の弱さ〜影の中の三日月〜
みんなをアスイさんに預けた俺は、変なオブジェがある場所のベンチに座った。
ヤーコンさんは強かった。けど1番の敗因は、俺だ。俺はみんなに依存してた。俺自身の弱さをみんなの強さで無理やり隠してきた。
「俺、何やってんだろ…。馬鹿だなぁ…。」
けれどメッキはいつか剥がれる。それが今回の結果だ。
「はぁ…。馬鹿だなぁ…。」
(お前は馬鹿じゃないぜぇ…。)
あぁ…。俺相当疲れてるんだな。自分が言った事とは反対の事が聞こえた気がする。
気にしちゃ負けだ。俺の弱い心が何か言ってるだけだ。
ポケモンバトルはトレーナーとポケモン達の強さが合わさる事で初めて成立する。たからみんな強さの歯車に俺の弱さという不純物が混入したらどうなるか。
答えは簡単だ。歯車全体の動きが悪くなって、最悪止まってしまうかもしれない。
だから…
「俺は強くならなきゃいけないんだ。」
強く…強く…。
「お前は強いぜぇ…。」
「うっわああ!」
俺の影から突然何かが出てきて喋り出した。じゃあさっきの言葉もこれが…?
「ふぃ〜…。やっと出て来られたぜぇ…。はじめまして、だなぁ…。レイ…?」
濃い紫色をした体。不気味に光る目。ニタリという言葉がぴったりな、三日月形に笑っている口。
つまり、こいつはゲンガーだ。
「何でゲンガーが俺の影から!?」
ゲンガーは命を吸い取る対象の影に潜むと言われている。もしかして…俺、命吸われた…?
「最初はな…美味そうな人間だと思ったから影に入ってたんだがなぁ…。しばらく様子を見てたら、お前らがあまりにも楽しそうだったからよ…、話してみてえって思ったんだよ…。」
ゲンガーはニタリ笑いを崩さずに語る。何か語尾が凄い響いてる。ゴーストポケモンだからか…?
「でもよぉ…。お前、この時間帯ずっと屋内にいるだろぉ…?だから今まで出て来られなかったんだよ…。寒気を起こしたりして気付かせようとしたんだがなぁ…。」
ゲンガーの表情が困ったような感じになった。
「いつから…俺の影にいたんだ…?」
「ケケケ…。お前とルナが出会った時からだなぁ…。」
ぶっ…!ホットモーモーミルクを吹き出してしまった。そんな前からいたのかよ…!怖すぎる…。
「で…?俺と話した感想は?」
「あぁ…。やっぱ俺の直感は正しかったようだぜぇ…。俺をお前の仲間にしてくれや…。」
ニタリ笑いが通常のゲンガーが口を閉じ、真剣な表情で言った。珍しい。ゲンガーは本気で俺の仲間になりたいと思ってくれているらしい。
素直に嬉しい。嬉しいけど…。
「俺、弱いけどいいのか?みんなの強さにあやかるズルい奴だけど…いいのか?」
そう言った瞬間。
左頬に衝撃を感じてベンチから落ちた。そして頬が凍る程冷たい。
「お前やっぱ馬鹿だったなぁ…。仲間の気持ち全く分かってねえんだなぁ…!」
少し怒気を含んだ声の主を見ると、三日月が逆向きになったゲンガーの右手が冷気で覆われている。『れいとうパンチ』だ。
「ほれ…。あっちを見てみろよ…。お迎えだぜぇ…。」
ゲンガーが指差す方向を見るとみんなが走ってきていた。
「みんな…。」
「レイ!探しましたよ!何故私達に何も言わずいなくなるのですか!?」
「そうだよ!凄い心配したんだよっ!」
「レイ…悩みがあるなら何故俺達に相談してくれないんだ?」
「レイ…。流石にこりゃねえよ。急にいなくなるのはもう止めてくれよ…。」
みんなが怒りと心配をぶつけてくる。
「レイ君ごめんね。伝言を伝えた途端に走っていっちゃって…。」
「いえ…。悪いのは俺ですからアスイさんは悪くないです。」
アスイさんが申し訳なさそうに言うが、俺が全て悪い。
みんなの気持ちを理解していなかった。特別な力があるのにみんなの言葉だけを聞いていた。
だから負けたんだ。
バトルで、こいつはこういう奴だからこう戦わせるのがいい。
そんな風に勝手に決め付けて…。
気持ちを考えずに…。
まるでプラズマ団じゃないか。
自分自身に反吐が出る。
「みんな。ごめん。俺…変わるよ。もうみんなに心配掛けない!だから、先に白い橋の向こうで行って待っててくれないかな?」
そう言うとみんなはやれやれといった感じで戻っていく。俺はアスイさんに少しの間みんなを見ていてもらえないか聞いたら、快く引き受けてくれた。感謝しかない。
「ゲンガー。もう一度聞くけど…本当に俺の仲間になりたいのか?」
「くどいねぇ…。もう一度言う必要、あるかぁ…?」
ゲンガーは口角をさらに上げて言う。
なるほど。分かったよ。
「分かった。それじゃあこれからよろしく。名前は…
朧とかどうだ?」
「いい響きだなぁ…。分かったぜぇ…。俺は今日から
朧だ…!よろしくなぁ…。」
ゲンガーは満足そうに頷いて、俺の頭の上でボスンボスンと跳ねる。ゲンガーの体重は結構重かったはずだが、重さは殆ど感じない。加減してくれているらしい。
30分程、ゲンガーの
朧と2人で話し込んでいた。彼は今まで俺達が体験してきたこと全てを知っていて旧知の仲のように話すことができた。
「ところでよぉレイ…。お前あいつら待たせてんじゃねえのかぁ…?行かなくていいのかぁ…?」
「あ…。サンキュー
朧。話し込み過ぎたな…。」
時間をしっかりと覚えていてくれた彼のおかげで2度目のお説教タイムは防げた。
朧を仲間に加えてから1週間。ゴーストタイプである彼の特徴を借りて、ライの地面タイプ対策を完成させた。明日はいよいよヤーコンさんにリベンジする。俺も頑張る。それしかない!
ちなみに
朧は毎朝フィルを脅かしているので朝の目覚めはとても悪い…。