第22話 再戦ホドモエジム〜レイとルナの絆の力〜
「起きろよレイ…。ケケケ。」
何だ…?起きねえな…。だったら…。遊ぶしか…ねえよなぁ…?
「フィル〜。起きろぉ〜。」
「んん…。分かった…。起きるよ。ってきゃぁぁぁ!」
俺の顔面が間近にあったことに驚いたフィルがサイコキネシスをぶっ放つ。その力が俺もろとも、もみくちゃにする。
やっぱり凄く楽しいなぁ…!レイの仲間になってよかったぜぇ…。
「うう…。おい朧…?朝からふざけるなよ?」
へっ…!やっと起きやがったか…。
「起きねえレイが悪いんだよ…。」
「よ〜し分かった!だったらお仕置きな?」
お仕置きぃ…?どんなのだ…?おもしれえので頼むぜぇ…!
俺が次の悪戯を考えてると、レイが俺の足をガシリと掴んで逆さまにする。
「で…?それからどうすんだぁ…?」
「こうするんだよ!」
俺の両足に紐が巻かれた。そしてレイはハンガーに2つの紐を固く結ぶ。
「逆さ吊りってかぁ…?」
「ああ、そうだよ。しばらく反省してろ!本当にもう…。毎朝毎朝…!」
レイは俺が浮遊出来る事を知っててこうした。優しいねぇ…。ま、それがあいつのおもしれえとこなんだけどなぁ…!
さて、しばらくぶら下がってるかぁ…。こうやって振り子みてえにユラユラすんのも楽しいしなぁ…。
………
「ああ…、ひっどい目に会った。」
毎朝何かやらかすからな…。朧は。
「ご、ごめん…。レイ。」
「フィルが悪いわけじゃないよ。」
これは全て朧のせいだ!今更ながら仲間にしたことを少し後悔している…。根はいい奴なんだがなぁ…。
「はぁ…。とりあえず朝飯食うか。」
ネガティブな発想を消し飛ばすために別の話題に変える。
「そうですね…。」
ルナの答えにみんなも頷く。さて、あいつの分も何か買っていこう。
最近食ってないしサンドイッチ食おうかな…。
「ただいまー。って、は…?」
ホテルに帰って来た俺は予想以上の状態に苦笑いするしかなかった。
だって朧が瞑想のポーズで振り子のように揺れているんだぜ?しかも不気味にケケケと笑っている…。何かの心霊現象かよ…。
「おい朧…?何…やってんだ?」
「朧…何してるんですか…?」
俺とルナがジト目で聞く。マジで気持ち悪いぞ…?
「あぁ…?見ての通り遊んでるだけだぜぇ…?あ…。そうだった…。こりゃあお仕置きだったなぁ…?遊んでわりいなぁ…。ケケ…!」
ちょっと頭に来たなぁ…。よし、やろうか。
「フィル?あの振り子お化けをサイコキネシスで固定してやってくれ。それとルナ。お前は辻斬り出来るように構えててくれ。」
「まあ、当然だよねえ。」
フィルが振り子お化け(朧)を空中に固定する。
「ケケ。悪かったよ…。許してくれよぉ…。」
彼は謝るが、ケケと短く笑う。反省してないな…。
「最初から謝ってればいいものを…。本当にもう…。」
俺は言葉とは裏腹に笑顔で言う。朧がいると何故か楽しくなる。
「さて、みんな。もう1度ヤーコンさんと戦おうか!」
この楽しい気持ちのままジムに挑む。そうすれば俺もみんなも、そこまで緊張せずに戦えるはずだ。
「頑張りましょうね!」
「今度は負けないよ!」
「楽しんでいこうか。」
「頑張るしかないな!」
「仕方ねえなぁ…。手伝ってやるよ…!別にレイのためじゃねえけどなぁ…。」
みんながそれぞれ気合いのこもった言葉を発するが、みんなは笑顔だ。朧はツンデレみたいなことを言っている。
「ほら…。さっさと行こうぜぇ…?さぁ…。出発進行…!ケケ…。」
朧は待ち切れないようで俺の頭の上でボスンボスンと跳ねてから左肩に座る。ここが彼の定位置となってしまっている。
朧が仲間になってくれてから毎日が更に楽しくなった。
彼だけが俺に乗るのは不平等なのでフィルを右肩、ライは頭の上、そしてラックは抱きかかえる。ルナはこの前、俺が背負ったので今日は隣を歩いてもらう。
ホテルを出た俺達は楽しく話しながらジムへと向かう。すれ違う人は皆、びっくりして撫でてもいいかと聞いてくる。みんなに聞くとルナ以外は別に大丈夫らしいので触らせる。朧を触った人達はみんな彼の悪戯の餌食になってしまっている。飛び上がるほどびっくりする人達に謝ってから、朧に軽くデコピンする。ちなみに、ゲンガーである朧は実体がある。もちろん実体を無くすことも出来るが、朧は大体実体がある状態で過ごしている。
悪戯をし続けた朧の額(?)が腫れることもなくジムに到着した俺達は中へと入る。
「あ、あなた…レイ君ですよね?」
びっくりしている受付の人に名前を呼ばれた。何で知っているんだ?
「そうですが…何かご用でしょうか?」
「ジムリーダーのヤーコンから話は聞いてます。今回はジムトレーナーとの勝負は免除されます。頑張ってくださいね。」
ヤーコンさん…俺達がもう一度ここに来ることを見越してたのか…。俺は受付の人に礼を言い、リフトで地下へと下りる。
「ふん。ようやく来たか。」
リフトの前で腕を組んで俺達を睨み付けているヤーコンさんが言う。相変わらず厳つい…。
「自分達なりの戦い方を見つけてきました。リベンジさせてください!」
「…来い。」
俺の表情の変化に気付いたのか、ヤーコンさんは歩いていく。俺は急いで付いていき、バトルフィールドで対峙する。
「早速だが休日出勤だ!ドリュウズ!」
「ライ!頼むぜ!」
ヤーコンさんはこの間と変わらず強敵ドリュウズを繰り出した。俺はライに先発として出てもらった。
「地鳴らし!」
「10万ボルト!始めるぞ!」
俺の声に頷き激しい電撃を浴びせ掛けるライ。
電撃で舞った砂埃が治まるとそこにはライの代わりに朧がいる。彼は
「なっ…!?」
「へへ…成功だ!地面にいないから地鳴らしは失敗ですよ!」
これが俺達が思いついた地面タイプ対策だ。朧は浮遊する事ができるので地面タイプの技は当たらない。だからライに電撃を打ち逃げしてもらい入れ替わる。
単純だけど最初は必ず引っかかってくれる。そう信じてやってみた。
「ふん…。少しはマシになったな…。出勤だ!ゴローニャ!」
「朧、シャドーボール!」
ヤーコンさんはゴローニャに入れ替える。
朧はいつもの笑顔よりさらに凄い笑顔になり赤い目が光る。すると周囲に無数の黒い塊ができて、ゴローニャに向かって飛んでいき小さい爆発音が連発する。
ゴローニャは戦闘不能に…。
「うっそぉ…。」
ならなかった。
ゴローニャには特別頑丈なものもいる。ヤーコンさんのゴローニャもそうなのだろう。しかし、素早さなら朧の方が圧倒的に速い。次の一撃で倒せる。
「よし!朧、シャドーボールだ!」
「ぬう…。ストーンエッジだ…。」
当然こちらの方が早く攻撃できてゴローニャは戦闘不能になる。
「だったら…出勤だ!フライゴン!」
あの時のフライゴンだ!これは手強いだろうな…。
「朧、まだ行けるよな?」
「当たり前だろぉ…。まだまだこれからだぜぇ…!」
朧はまた俺の頭の上でボスンボスンと跳ねる。フィールドに戻ってくれよ…。
「フライゴン!大文字だ!」
「朧!ヘドロ爆弾!」
先に動いたのは朧だった。シャドーボールよりも大きい紫色の塊をフライゴンへとぶつける。すると毒液が飛び散ってフライゴンは毒に侵される。
「よしっ!」
思わず声が漏れてしまったが毒を食らってくれたのはすごく大きい。
だが、朧にも大文字の炎が直撃して大ダメージを受ける。
「大丈夫か!?」
「ケケ…。まだ…大丈夫だぜぇ…。」
朧はふらふらになりながらも答える。本当に限界ギリギリのようだ。だったら…
「朧!交代だ!頼むぞラック!」
「岩雪崩!」
ふらふらと戻ってきた朧が地面に座り込んだのを見て、ラックが素早く前に出る。
そこにフライゴンの岩雪崩が降り注ぐがラックは余裕そうだ。なら…
「ラック少しの間耐えていてくれないか?その間に朧の回復をしたいんだが。」
「ああ、分かった。何とか耐えてみせるよ。」
少し無茶なお願いをしたな。後で謝らなきゃな…。
バトルを確認しながら朧の応急処置をする。凄い傷薬を火傷の箇所を重点的にスプレーする。そしてチーゴの実も食べさせて火傷も治す。
「ケケ…。すまねえなぁ…。みっともねえ姿さらしちまってよぉ…。」
「いや。お前は頑張ったよ。少し休んでろ。」
珍しく落ち込んでいる朧を励ましバトルに戻ろうとしたその時…
フィールドから黒い物体が飛んできた。その物体は壁にぶつかりながらもゆっくりと立ち上がろうとするが力尽きてしまった。
「ラック!大丈夫か!!」
「す、済まない…レイ。耐え切れ…なかった。」
黒い物体、ラックは一歩も動けないようで呻くような声で俺に謝る。
違う。
ラックが悪い訳じゃない。俺が全て悪いんだ。何故俺はラックを捨て駒のように扱ったんだ…。今の俺は最低だ。
変わるんだ…。変わらなければいつまでも一緒のままだ!
「…ラックごめん。俺はもう馬鹿なことはしない!」
「レイのせいじゃ…ない。自分を…追い詰めるな…!」
俺の決意を勘違いしたのだろう。ラックがふらふらになりながらも俺に寄ってくる。
だが俺はラックを軽く撫でてボールに入れて、フィールドに意識を戻す。
「ふん。やはり何も変わっとらんな…。」
「いえ。今…変わりますよ。頼む。ルナ…!」
「はい…!」
俺はみんなを勝たせたい。
みんなを笑顔にしたい。悲しそうな顔は見たくない。
だから…。
変わるんだ。
俺は…強くなるんだ…。
……………
私は前回、何も出来ずに負けてしまいました…。そして今もレイは焦ってしまい、負けそうになっています。
私が何とかしなければいけません。
私は変わらなければなりません。
私が…強くならなければ…。
2人の思いが重なった時、彼らは金色の光に包まれた。温かい光だ。
しばらく漂っていた光は彼らの目の前で収束して、2つの球体になった。
「嘘だろ…!まさか…。」
この2つの球体。俺には心当たりがある。
メガストーンとキーストーン。
それにメガストーンの方はアブソルナイト。つまりはルナのものだ。
メガストーンとキーストーンはポケモンと人間、互いの強い思いが重なった時に現れる。ということは…。
「ルナ?お前も…強くなりたいのか…?」
「…はい。」
ルナはゆっくり、力強く頷く。
俺は本当に馬鹿だ。
俺は強くなりたいと思った。
しかし、それはルナも同じだった。
なら答えは…1つだ。
「よし…。行くぞルナ!メガシンカ!」
全力で叫ぶ。
すると、キーストーンとアブソルナイトが強い光を放ち、ルナが青白い光に包まれる。そして光が収まるとルナは翼の生えた姿に変化していた。
「これが…メガシンカ…?」
ルナは変化した自分の体を見て驚きまくっている。俺も驚いている…。何と言えばいいのか分からないが…とにかく滅茶苦茶格好いいんだ!
「ルナ、行けそうか?」
「はい!行けます!」
ルナは即答する。大丈夫そうだな…。じゃあ…行くか!
「ルナ!辻斬りだ!」
「地震だ。」
ルナは走り出す。しかしそのスピードはいつもの比ではない。あっという間にフライゴンに接近して斬り伏せる。
「まさかメガシンカを発現させるとはな。見くびっていたようだ。休日出勤だ!ドリュウズ!」
来たな…ドリュウズ…。絶対に倒す…。
「ルナ!最大威力のサイコブレード!」
「ドリュウズ!シザークロスだ!」
先に動いたのは勿論ルナだ。とてつもない長さのサイコブレードでドリュウズを斬り捨てる。ドリュウズは戦闘不能になった。
「なるほど…。お前さんとポケモン達の心はしっかり繋がっているようだな。ほれ、ジムバッジだ。受け取れ。」
「うお…っと。ありがとうございました!」
ヤーコンさんはドリュウズをボールへと入れながらバッジを投げ渡す。俺はそれをギリギリで受け止め、礼を言ってからジムの外へ出る。
「あぁ…。少し寒いけど気持ちいいな…。」
「そうですね。それにしてもメガシンカ、凄かったですね。自分の力の限界が見えなくなる程強大な力でした。」
ルナは真顔で言ってから。
「でも、レイと一緒に戦っていると強く感じられて…良かったです。」
俺の目を見て、笑いかけてきた。
やっぱり俺は…弱いままだった。