第20話 ホドモエジム〜ヤーコンの実力〜
俺達は今、ホドモエジムへ来ている。目的は勿論ジム戦のためだ。
昨日会ったヤーコンさんの気迫は凄まじいものだった。それに強かった。プラズマ団2人を相手に1体のポケモンのみで勝ってしまった。相性的には不利だったのに、だ。
俺達は今までのどのジム戦よりも緊張している。季節は冬に差し掛かっているのだが汗が出てくる。
みんなを見るとやはり緊張している。特にライは渋い顔になってしまっている。それもそうだ。ヤーコンさんは地面タイプの使い手。地面タイプは電気技を受け流してしまう。しかも打たれ強い。つまり、ライのスピードを活かした軽い攻撃ではびくともしないということだ。
「みんな。準備はいいか?」
「はい。」
「うん。」
「ああ…。」
「……。」
みんなは返事をしてくれたが緊張している。
ジムの中へ入る。すると、ガイドーが相変わらず大きな声で説明をする。やっぱり煩いなとは思ったが、少し緊張が解けた。
悩んでいても仕方ない。戦ってみないと何も分からないのだから。今悩んでも意味が無い。
軽くため息をついて頭をリセットする。みんなが心配して俺を見てくるが笑顔で、大丈夫と言うと少し笑ってくれた。
緊張は伝染するって言うけど、やっぱり本当だったのか。
リフトの降下ボタンを押して地下へと降りる。さて、やりますか!
このジムはジムトレーナーを倒すとライトが付いて他の道が見えるようになる、という仕組みだ。俺はルナとフィルを交代しながら戦った。ルナには剣の舞で自身の力を高めてもらいながら、フィルにはサイコキネシスで相手を空中に固定しながら、どちらも有効打になる。
5人と戦った時、ようやくヤーコンさんがいる所まで辿り着いた。ルナとフィルは相当消耗してしまっているので凄い傷薬で細かな傷を治す。
「やっと来たか小僧。遅いぞ。」
ヤーコンさんが昨日と同じ険しい顔で腕組みしながら言った。やはりものすごい気迫だ…!
「お、お待たせしましたね。さ、バトルお願いします。」
「緊張してるのか。緊張はお前さんのポケモン達に伝わるぞ?」
もっともな事を言われた。深呼吸をしてからもう一度、お願いします!と言う。
「ふん。いい目だ。休日出勤だ!ドリュウズ!」
「ルナ、フィル少し休んでくれ。いくぞ!ラック!」
「ああ!」
ルナとフィルが今回のキーパーソンなので少し休憩しておいてもらう。
「いくぞ。岩砕き!」
「ラック。いつも通り呪いだ!」
ラックはいつも通り呪いで自分を強化していく。何だか影を纏うスピードが早くなっている。
ドリュウズは固そうな爪を振り下ろす。鈍い音が響いたが殆ど効いていない。
「チッ…。小細工か…。ならばドリルライナー!」
「ラック、もう一度呪いだ!」
ラックは呪いを最大限引き出して準備万端だ。
ドリュウズは爪と爪を合わせ、高速回転しながら突っ込んでくる。まるで弾丸だ。ラックの影とドリュウズが衝突する。ギャリギャリと耳障りな音が響く。よく見ると影を貫通しかけている。
嘘だろ!?まさかラックの防御を突破してくるのか!?
やがて完全に貫通してしまいラックは一撃で戦闘不能になってしまった。
「ふん。俺には小細工など通用せん!」
ラックをボールに入れているとヤーコンさんが大声で言う。これは戦法を変える必要があるな…。
「ライ!頼むぜ!」
「え?俺か!?」
呼ばれるとは思っていなかったライが驚愕の表情で俺を見る。頷いてやると嬉しそうに飛び出る。
「ほう?電気タイプでドリュウズに挑むのか。いい度胸だ!ドリルライナー!」
「ライ!あれ、頼むぞ!」
秘策発動だ!
「あれ?ああ、あれか!分かった!」
『あれ』とは昨日の夜、2人で練習した地面タイプ対策の戦法だ。
ライが飛び上がり、10万ボルトを放つ。ドリュウズに直撃するが全くの無傷だ。
だがそれでいい。閃光が残っているうちに電光石火で走ってドリュウズの後ろへ回り込み、捨て身タックル。電光石火で捨て身タックル。それをとてつもないスピードで繰り返す。ドリュウズはほんの少しずつダメージを負っていく。上手くいってるようだ!
「ちょこまかと…!地鳴らし!」
ヤーコンが叫ぶと、地面がゴゴゴと音を立てて震える。ライはバランスを崩し倒れてしまう。当然ヤーコンさんはその隙を見逃す訳がない。ライはドリルライナーで戦闘不能になってしまった。
固い…。ならば!
「フィル。あまり休めてないだろうが頼む!」
「うん!頑張る!」
キーパーソンの1人、フィルだ。
「フィル!サイコキネシス!」
「地鳴らし!なっ…!」
フィルがサイコキネシスでドリュウズを空中に固定した。そのため地鳴らしが出来ないどころか身動きも取れないはずだ。
「捨て身タックルだ!」
「小賢しい…。今だ!角ドリル!」
角ドリル!?マズい!回避させなければ!
「フィルっ!急いで回避だっ!」
俺の指示も空しく角ドリルは直撃。フィルは地面と高速回転する角との間に挟まれ一瞬で戦闘不能に。
「ごめん…。フィル。本当にごめん…」
これは俺のミスだ。俺が真正面から突撃させたから。
「レイ。くよくよしている暇はありませんよ。まだ私がいます。頑張りましょう!」
こんな時にいつも励まして背中を押してくれるルナ…。本当にありがたい。
「ふぅ…。行こうか!ルナ!」
「はい!」
最後はルナだ。行こう…!
「シザークロス!」
「サイコブレードだ!」
いつもの十八番、サイコブレードで決める!
そう思ったのだが…ドリュウズの意外な素早さでのシザークロスで戦闘不能になってしまった。
「え……?」
「ふん。もう終わりか。」
呆れたようにため息をつくヤーコンさん。
「お前さんのポケモン達は強い。だが、肝心のお前さん自身はどうなんだ?」
鋭く言い放ったヤーコンさんの言葉が心を抉る。
俺は急いでポケモンセンターへと駆け込み、受付のアスイさんにみんなを預けた。俺の表情を見て察したアスイさんは治療が終わったらみんなをホテルに連れていってくれるらしい。本当にありがたい…。
俺の弱さ…。考えよう…。