第19話 ホドモエの跳ね橋〜ホドモエシティへ〜
「起きろー。ライ〜。」
ライに声を掛けながら、体を揺する。
「…うっ!」
あまりに起きないのでもう少し強く揺すると電撃を食らってしまった。全身が痺れる。
マズい…!体が痺れて声が出せない!
(お〜い!フィル〜!)
1ヶ月の特訓という名の作業で出来るようになった念話でフィルに助けを求める。
ちなみにまだ、サイコパワーが高いフィルとしか出来ない。
「ん?なあに…って、どうしたの!?大丈夫!?」
すぐに気付いてくれたフィルが近寄ってきて、異変に気付いたらしく走ってくる。
(一応大丈夫だよ。ライの寝言ならぬ、寝電撃を食らっちまって痺れたんだよ。フィル、俺のバッグからクラボの実を取ってきてくれないか?)
「うん!分かった!ちょっと待っててっ!」
サイコキネシスでバッグをごそごそやり始めたフィルが中身をぶちまけている。
(焦らなくていいから散らかさないでくれ〜。)
「う…ん…。おはよ…ってレイ!?まさか…!」
やっと起きてきたライが自分がやってしまったことに気付いて大慌てで肉球を俺にくっつける。すると、段々と痺れが取れてくる。
これはライの特性、蓄電だ。蓄電はその名の通り、電気を吸収して溜めることができる特性だ。
「本当に悪かった!」
ライがひれ伏すかのように謝ってくる。
「大丈夫だって。ただ痺れただけなんだから。別に怒ってもないしな。…ほらな?」
さっきからずっと目をうるうるさせながら謝り続けているライに優しく言って抱きしめてやる。
「もし…捨てられたら…どうしようって思った…。」
ライも早とちりか…。笑うしかない。
「あのなぁ…。1度仲間にした奴を捨てるほど俺はクズじゃねえよ。なぁ、みんな?」
とりあえず、誤解(?)を解くためにみんなに聞く。
ルナは当たり前ですね、といった感じで尻尾をふりふり。
フィルは何言ってんの?レイがそんな事する訳ないじゃんと言って尻尾でライをぺちぺちとはたく。
ラックは何も言わないが俺のあぐらをかいている足の上に座り込み、ライをじとーっと見つめる。
「そうか…。俺、レイのこと勘違いしてた。ごめん。ありがと。」
「いや、誰にだって勘違いはあるさ。気にすんなよ。じゃ、みんな。ホドモエシティに行こうか!」
びっくりはしたけど、そんなことで仲間を捨てるなんて出来る訳がない。むしろ、麻痺状態のポケモン達の気持ちが分かって良かった。流石にポジティブ過ぎるかな?
近寄ってきたみんなの頭を撫でながら言う。みんなも異論はないようなので、ホテルをチェックアウトして、アスコさんに旅立つことを伝えた。アスコさんは最後まで、応援してるよ!と励ましてくれた。
これは何としても恩返ししなければ!
アスコさんに、また来ますと伝えていよいよ5番道路へ。
5番道路へ出た俺達は砂嵐が起きていないことに心底ほっとした。あれはもうこりごりだ。割と本気で。
移動販売の車が止まっていたので様子を見てみるとパンを売っていたので全員分勝った。タイプ別の色があって「炎パン」や「格闘パン」など、種類が豊富だった。毒々しい色の「毒パン」など明らかにヤバそうなものまであるが、全て誰が食べても無害で同じ値段だ。
俺は普通のパンと悪パン2個、エスパーパン、電気パンを買いみんなに渡す。他の人達の邪魔にならないように道のはじっこに寄ってパンを食べる。俺のは普通のパンで普通に美味い。
「おお…!何だか不思議な味ですが、美味しいです。」
「うん。何故かは分からないが美味しいな。」
「わたしのは少し甘いよ!」
「おおお!?何かピリピリしてるぞ!」
みんなも美味しいと言っているので良かった。
「みんな。ほんの少し分けてくれないか?俺のも分けるからさ。」
流石に味付けが気になるので聞いて見るとみんなが2つ返事で分けてくれた。
「何だこれ?この悪パン本当に不思議な味だな…。それに電気パンはピリピリする…凄いな。エスパーパンはほんのり甘くて普通に美味い。」
とにかく、全部美味い。買って正解だったな。みんなが食べ終えたのを確認してホドモエの跳ね橋を渡る。
「おい。そこのトレーナー!この橋の上は強い風が吹くからポケモンはボールに入れてやれよ?」
橋の管理人のような人が俺を見つけて注意してくれる。
ルナ以外をボールに入れて、このアブソルはボールには入れていないと伝えると安全は保証出来ないがそのままでいいと言ってくれた。だったらまた背負って行けばいいな。
ルナを背負って橋を渡る。ルナはもう嫌がらなくなった。むしろ、背負ってやるとすぐさま俺の右肩に頭を乗せて嬉しそうに尻尾を振る。トレーナーとすれ違うとびっくりして、大丈夫?と聞いてくる。何が大丈夫じゃないのだろうか。
風も強くなく、気持ちいい。
「いい風ですね…。」
ルナが目を細めながら言う。
「そうだなぁ…。久々だよな?気持ちいい風吹いてるのって。」
風が強いって言ったの誰だっけ?嘘付かれたな…。
「ん?ルナ?…って寝てんのかい!」
返答がないことを不審に思った俺がルナを見ると、少し笑いながら眠っている。
おいおい。いくら朝が弱いからってここで二度寝するか…?赤ちゃんかよ…。
笑いながら橋を渡り続けると、すれ違った短パン小僧と呼ばれているトレーナーからルナを触ってもいいか聞かれるが勿論ダメだ。
ルナはまだ少し人が怖いのだ。寝ているときに知らない誰かが触ったら、パニックになっててしまうかもしれない。
ルナは尻尾を振り続けている。手に当たりまくって結構痛い…。楽しい夢でも見ているのだろうか。
そういえば…ルナとフィルを捨てたトレーナーは今どこにいるのだろう…。そろそろあいつにダブルバトルで勝負を挑みたい。勿論ルナとフィルのペアだ。
2人を捨てたことを後悔させてやりたい。そして絶対に謝らせる…!
「………ん?あっ!ごめんなさいレイ…!寝てました…。」
10分程経ってようやく橋の終わりが見えてきた頃、ルナが起きた。
「おはよ。別に謝らなくてもいいよ。いい夢見れたか?」
「夢?多分見ていませんよ?」
見てなかったのか…。というか手が痛い。尻尾で『おうふくビンタ』されまくってたからな…。
とりあえずルナを下ろして、みんなをボールから出す。
何かオブジェが立ってるけど気にせず行こう…っておい。
「カオリ…お前何やってんだよ…。」
「ふえ…?何ってこのオブジェ何だろうな〜って思ってるだけだよ?」
結構先にホドモエシティに着いたはずのカオリが何でオブジェの前に立ってるんだよ。
「それじゃあね〜。トト行こ!」
オブジェの上を見ているとトトが乗っていて、カオリに呼ばれると彼女に向かって急降下。ボスンと音を立てて、走っているカオリの腕の中に着地する。
「何がしたかったのでしょうか?」
「俺に聞かれても…。」
ルナに質問されたが、そんなのは俺が聞きたい…。
「何だあいつ?」
首を傾げるライ。うん。みんなそんな気持ちだぞ。
「と、とりあえずホテル行こうか…。」
「そうですね…。」
「フライゴン、岩雪崩!」
「嘘だろ…。」
「2人で戦ったのに負けるなんて…。」
白い橋の上でプラズマ団の下っ端2人とこの街のジムリーダーのヤーコンさんが戦っていたので観戦していたのだが、圧倒的だった…。
相手はフライゴンの最も苦手とする氷タイプのツンベアーとバニリッチだった。
相手は凍える風や氷の息吹で的確に弱点を突いてくるのだが全てかわし、岩雪崩の連打で勝ってしまった。
何より凄かったのは気迫だ。ヤーコンさんもフライゴンも、絶対に勝てるという自信に溢れていた。
「あ、あの!」
気付いたら声をかけてしまっていた。
「うん?何だお前さんら?」
「明日、ジムに伺います。バトルお願いします!」
遠くから見ていると分からなかったが結構厳つい顔で一瞬たじろぐがすぐに持ち直して言う。みんなもヤーコンさんの目を見つめている。
「面白い小僧だ。明日のバトル、楽しみに待っててやる。俺を失望させるなよ?」
「はい!」
俺は獰猛な笑みを浮かべるヤーコンさんに笑顔で返す。すると、もう一度面白い小僧だと言って帰っていった。
とりあえず、明日に備えて早めに寝たいのでさっさとチェックインして部屋へ入る。
そしてライだけを別室に呼んで、みんなが寝静まったら秘密の練習をしようと約束した。
さて、宣戦布告もしちゃったし頑張ろう…。