第18話 ライモンジム〜華麗なるカミツレ〜
「みんなおはよう!朝だそ!」
機嫌が滅茶苦茶良い俺はいつもより大声でみんなを起こす。
「んん…。レイ…朝から元気ですね…。」
「おはよーレイ!やっぱり元気が1番だね!」
「うぅん…。レイ…俺が夜行性なの知っているだろう…?勿論嬉しいのは分かるが…。」
「おう。レイおはよう!ホントに良かったぜ。お前が元に戻れて!」
みんなが様々な返事をした。
俺の嬉しさが溢れ出ているのに気付いたみんながだるそうに(ライとフィルは喜んでいるようだが)答える。
別に今日位いいだろ?俺のリンクが復活したんだからな!あ〜はっはっは!
「「うるさい」ですよ」
ルナとラックがそれぞれ文句を言う。
「悪いな。2人はもう少し寝ててもいいからな。」
流石ははしゃぎ過ぎたな…。反省だ。
「今日はここのジムでバトルをするのでしょう?だったら、その前に軽く準備運動をしなければいけませんし、起きますよ。」
「そうだな。」
ルナとラックもベッドからもそもそと這い出てきてくれた。
やっぱり話せるって、いい。
話せないと気持ちが通じてない気がして。
それに、話せると楽しい。
「そうだよね!わたしもレイと話せて嬉しいよ!」
フィルが心を読んで、俺に飛びつきながら言う。びっくりしたが何とかキャッチできた。
「フィル、危ないぞ?お前にはサイコキネシスがあるのは分かっているけど今度からは気を付けてくれよ?」
軽く叱ると彼女は、ぷんぷんと言っている。これは遊ばれてるな…。やっぱりフィルには色々とかなわない…。
ギアステーションの周りをジョギングした俺達はポケモンセンターへと入る。みんなは平気そうだが、俺はもうへとへとだ。これは本気で体力増やさないといけないな…。
「おはようレイ君。その表情から察するに、元に戻れたのね?」
「はい!昨日ようやくいつも通りの調子まで戻せました。これもアスコさんと仲間達のおかげですよ。この恩はいつか返します!」
受付のアスコさんが爽やかな笑顔で聞いてきたので、俺も笑顔で返す。
アスコさんには本当に助けられた。俺が力の制御が出来なくて落ち込んでいる時には励ましてくれた。
力の制御が出来るようになってきて衣食を忘れる程、力を使いまくっていた時はホテルまで来て弁当を持ってきてくれた。
この恩は返さなきゃいけない。というか返さなきゃ俺の気が収まらない。いつか絶対返す。
「とりあえずみんなの調子を診ておこうか?」
「あ、お願いします。」
やっぱりアスコさんは気が利くいい人だ。
今日のジム戦の相手はモデルもやっているカミツレさんという人だ。電気タイプの使い手なので麻痺対策をしておかなければならない。
とりあえず先鋒のライにはクラボの実を持たせておくとして…。あとは麻痺治しも5個程買っておこう。
よし!準備は出来た。あとはみんなを待つだけだ。
念のためシミュレーションもしておこう。電気技で1番面倒臭いのは電磁波だ。それをいかに避けるか…それが勝負の分かれ目だろう。
「レイ?大丈夫ですか?」
「うおっ!何だ…ルナかぁ…。」
どうやら随分と深く考え込んでしまっていたようだ。ルナ達が戻ってきたのに全く気付かなかった。
「ごめん。ちょっと考え事してた。」
「みんないつも通り大丈夫そうだよ。頑張ってね!」
アスコさんが励ましてくれた。あぁ。そうだ。俺はあんまり考えないで突っ走った方が強い!
アスコさんに礼をしてジムへと向かう。楽しみだ!
ライモンシティの東側にある遊園地、その奥にジムはある。少し前まではジェットコースターがあるジムだったのだが、今はモデルが歩くようなステージのある所に移設した。
ジムに入る。すると観客の歓声が大音量で響く。というか客多過ぎ!恥ずかしいわ!
そして、俺の緊張を遥かに追い越して緊張の極限にいるポケモンが1人。
「ちょっ…!人多過ぎじゃねえか!やっべえ…。俺の緊張ががが!」
え〜…最後、壊れた機械のようになっているのが…ライだ。
「ライ!!深呼吸!!」
「あ!?ああ!分かった!」
俺はわざと大声でライを呼ぶ。それに驚いたライは急いで深呼吸した。
そのおかげで少し緊張がほぐれたようだ。
「ライ。今日は頼んだぞ。お前なら緊張しないで自分の力を出せば勝てるぜ!」
「あ、ああ…!分かった!」
少し緊張しているようだが大丈夫そうだな。
ステージを進んでいった俺達は2人のジムトレーナーに勝負を挑まれたが、ライの素早さで速攻で倒した。恐らく俺の仲間の中で1番潜在能力が高いだろう。
スポットライトが俺達を照らす。そしてその奥からきらびやかな衣装に身を包んだカミツレさんが現れ会場がとてつもない歓声に包まれる。
「あなたがチャレンジャーね。クラクラしちゃう戦いぶりね。さあ、こっちへ来て。」
「よろしくお願いします!」
「まずは…エモンガ、スポットライトの中へ!」
「ライ。頼むぜ。」
カミツレさんはエモンガを繰り出した。空を飛ぶ相手は少しキツイ…。
「ライ。速攻だ!電光石火!」
「エモンガ、かわして電磁波!」
エモンガはライの高速攻撃をひらりひらりとかわして電磁波で麻痺させてきた。だが、すぐにクラボの実を食べて回復する。
「なるほど。麻痺対策はばっちりなのね。だったらエモンガ、10万ボルト!」
「…っ!電光石火だっ!」
俺の油断が一瞬の隙を作ってしまいライに直撃してしまう。そのせいで体が痺れて電光石火が遅くなってしまう。
「今よ。放電!」
その隙を見逃してくれる訳もなくライに近付き、バリバリと凄い音を出しながら放電するエモンガ。そしてまともに食らってしまうライ。
「えっ…!?」
「嘘でしょ!?」
放電をまともに浴びたライが青白く光る。進化だ…!
イーブイは遺伝子が不安定で周りの環境に影響されて進化すると言われているが、こんな極端な状況で進化するのか…!
俺達とカミツレさんは完全に固まってしまった。
やがて、光が収まり見えてきたのは釣り目で黄色い体毛を持ったポケモン。サンダースだった。
うん。だろうな…とは思ったよ?でも、まさか電撃で進化とはね。それにしても超カッコイイ!
「これは…わたしの方がクラクラしちゃいそう!」
「カミツレ様がいつもより楽しんでいる!?」
「カミツレ様が本気で楽しんでいたのって相当昔だったような…?」
カミツレの興奮した声に驚きが隠せないジムトレーナーの2人。
「レイ!俺、進化できたぞ!」
麻痺から復活したイーブイ改めサンダースのライが嬉しそうに走ってくる。って速過ぎだろ!サンダースはイーブイの進化形の中で最も素早いと言われているがさすがにまずい!そう考えているうちにどんどん近付いてきて、俺の腹に激突した。
「ぐふっ…。」
「うあ!すまんんんん!」
ライの突進で俺の体力はほとんど消し飛んだ…。危うくフルリバースするとこだった…。まあ…進化したばかりだから仕方ないか…。
「ライ、まだ行けるか?」
「おう!まだまだ元気だ!」
そう言うと電光石火でステージをとんでもない超スピードで走り出す。
ザ・技の無駄遣い。
「凄いわ。まさか進化の石を使わずにサンダースに進化するなんて…!それにその速さ…規格外ね…。クラクラしちゃう。エモンガ、電光石火!」
「ライ、もう1度気を引き締めろよ!電光石火!」
電光石火のぶつかり合い。だが、ライが圧倒的な素早さでじわじわと削りエモンガは戦闘不能となる。
「電気タイプ同士の対決。これほどクラクラするものはないわ。ゼブライカ、スポットライトの中へ!ゼブライカ、ニトロチャージ!」
「ライ、ハイパーボイスだ!」
ゼブライカは炎を纏い素早い体当たりをしてくるがライの凄く響く大きな声の振動でふらふらになってしまい、ライに当てることができなかった。
「ゼブライカ、二度蹴り!」
「ライ電光石火でかわしまくって捨て身タックルで攻撃だ!」
今度はゼブライカが屈強な後ろ足を使って蹴り飛ばそうとしてくるも、やはりライの素早い動きに付いていけていない。俺も目で追えないんだがな。
しばらくすると、ドンッ!という衝撃音が聞こえてそっちを見るとゼブライカが戦闘不能になっていた。
「「何が…?」」
俺とカミツレさんが同時に声を上げる。
「レイ、今のは相手のゼブライカが後ろ足を蹴り上げて下ろすまでの僅かな間に捨て身タックルを直撃させたんですよ。」
「そうなのか…。教えてくれてありがとな。」
何が起こったのかルナが説明してくれたおかげでよく分かった。それにしてもとんでもないスピードだ。まさに雷のように速い…。
「いよいよ最後ね。マイエレクトリッククイーンシビルドン、スポットライトの中へ!」
次は鰻のような見た目のポケモンだ。そしてやっと電気技が通じる相手だ。
「ライ!まだまだ行けるな?」
「勿論だ!」
まだまだ元気だな。大丈夫そうだ!
「ライ、10万ボルトだ!」
ライの起こした電撃が、素早さが遅く避けられなかったシビルドンを直撃。
「シビルドン、ギガドレイン!」
「避けろライ!」
苦痛に顔を歪めるシビルドンが不気味な緑色の光をライに飛ばす。俺は慌てて指示を飛ばすがライは避けられなかった。技が当たると緑色の光は激しくなり、ライは少し疲れたような表情に、シビルドンは少し元気になった。
ギガドレインは相手の体力を吸い取る技。かわせなかったのは少し痛い。
「ライ!大丈夫か?」
「ま、まだ大丈夫だ…。」
一応まだ大丈夫なようだがそろそろマズい…。
「シビルドン、火炎放射!」
「ライ、電光石火でかわして捨て身タックルだ!」
シビルドンは自分を中心に円を描くように炎を吐く。ライはそれから逃げるように走る。そしてシビルドンに捨て身タックルを直撃させる。
その直後シビルドンが吐いていた炎がライの前足に掠ってしまう。シビルドンは戦闘不能に。ライはそのままの勢いで転がってしまっていたがよろよろと立ち上がる。
「そこまで!勝者、挑戦者レイ!」
審判がバトルの終わりを告げる。俺は急いでライの元へと駆け寄る。
「ライ!大丈夫か?よくやったよ!お前1人で3人抜きだぞ!」
「ははは…。どうだ…!やってやったぜ…。」
ライを褒める。するといつもの感じで自慢し始める。どうやら怪我はそこまで重くないようだ。良かった…。
「久々だわ…。ここまでクラクラするバトルは。さあライモンジムのバッジ、ボルトバッジよ。受け取って。」
「ありがとうございます!」
バッジを受け取った俺達はライの応急処置を行いながらポケモンセンターへと歩く
。
道中カオリに会ったので俺の力が元に戻ったこととたった今ジムバッジをゲットしたことを話したら、それならわたしも負けてられないね!とトトと一緒に走って行ってしまった。
俺は知ってる。カオリは俺を心配してここに留まってくれていたことを。我ながらいいライバルを持ったもんだ。
恩返ししなきゃいけない人が増えてしまったな。しっかり恩返ししてやんないと俺の気も済まないしな!
ホテルに帰った俺達は速攻で夢の中へと落ちていった。
明日は次の町へ行こう…。