第16話 ライモンシティ〜砂嵐を越えて〜
え〜…只今砂嵐に苦戦中です…。口の中がじゃりじゃりして気持ち悪い。
4番道路は1年中砂嵐に覆われている珍しい場所だ。ヒウンシティのアスカさんにも「砂嵐は本当につらいから覚悟してね。」と言われていたのだが、まさかここまでとは…。
「これではまともに目を開くことも出来ませんね…。」
ルナも目を半開きで付いてきている。相当参っているようなので背負ってやることにした。ルナには「レイだけにつらい思いをさせるのは嫌です!」と断固拒否されたのだが無理やり背負った。最初は嫌がっていたルナだが10分経つころにはすっかりリラックスして俺の右肩に頭を乗せている。いつものパターンだ。
「そういえば最初に比べてだいぶ仲間が増えましたね。」
リラックスしきったルナが唐突に言う。
「そうだな…。ヒオウギで暮らしてた時はまさか冒険してるなんて思ってもみなかったな。それと引きこもりから抜け出せたのはルナのおかげだよ。あの時お前に会ってなきゃ俺はずっとずっと引きこもりのままだっただろうしな…。」
思わず感傷に浸ってしまう。
「私もあの時、レイと出会っていなければ…今頃この世にはいなかったでしょう。今思えばあのトレーナーに捨てられたのは良かったのかも知れませんね。それにレイと一緒にいると楽しいです!何故だか分かりませんが!」
にこりと笑って言う。しかし、急に表情を曇らせる。
「あの…それと……出会った時、目を傷付けてしまってごめんなさい…。勿論そんな簡単に許してもらえるとは思っていません。」
はぁ…。ヤバい、涙が出そう…。でも、俺はそんなこと責めてもいないのに。
「おいおいルナ。何か勘違いしてないか?俺はお前の事大好きだし、そもそもこの目の事でお前を責めたことも責めようとしたこともない。だから…んー何て言えばいいのかな…その…これからも一緒に頑張ろうぜ。ルナ。」
何だか凄く恥ずかしい。
「そうだったんですか…。私は早とちりをしてしまったようですね。私もレイの事、大好きです。だから、これからもレイの左目として、相棒として頑張ります!」
「ああ!やっぱりルナが一番頼りになるよ!」
改めて腹割って話したけど、やっぱりコミュニケーションって大事だな…。
「わたしは頼りにならないの…?うぅ…砂嵐痛い…。」
「俺はレイにどう思われていても守るだけだ…が少しは頼りにしてほしい…。」
「俺はやっぱレイに頼りにされるまでは信用されてねえってことか…。」
みんながボールから飛び出してきて口々に言う。お前達も勘違いかい!
「あのな、俺はお前達全員大好きだぜ?勿論頼りにもしてるしな。でも、ルナは最初に仲間になってくれた。それに引きこもりから抜け出させてくれたんだ。差別するつもりは全くないがルナは特に特別なんだよ。分かってくれたならボールに戻ってくれないか?みんなを砂嵐なんかで傷つけたくないんだ。」
不安たっぷりの表情で言うフィル、金の環を激しく点滅させて言うラック、諦めたような顔で笑うライ。そんなみんなの様子に苦笑しながら言う。フィルは俺の心を読んで俺の言いたい事が分かったのだろう。俺が話す前に納得してボールへ入ってくれた。残りの2人も納得してくれたようでボールへ入ってくれた。
ルナはやれやれといった表情で頬を擦り寄せてくる。まあ、だてに6年も一緒にいないからな。理解してくれていたルナの頭をわしわしと撫でる。
そんな感じで道中を過ごしているとゲートが見えてきた。ようやくライモンシティに着いたようだ。ルナを降ろしてやってゲートへと入る。いいトレーニングになったな。ゲートの管理をしているお姉さんが微笑みながら挨拶をしてきたので俺も笑顔で挨拶を返す。ゲートを出ると今までで1番派手な街、ライモンシティが見えた。
「これは…何と言うか激しい色が多いですね。」
俺がみんなをボールから出しているとルナが戸惑ったような表情で言う。確かにここは個性的過ぎるよな…。
とりあえずポケモンセンターへ入る。ポケモンセンターはいつも通りで安心する。
「「すいません。ポケモン達を診てもらえますか。」」
俺が言うのとほぼ同時に聞き慣れた声が聞こえた。
「カオリさん?狙っているのかな?」
「え?えぇ〜!?レイ君!?偶然だね!そうだ。私ね、カミツレさんに勝ったよ!ほら!」
どうやら本当に偶然のようだ。それにもうジムリーダーに勝ったのか…。早すぎだろ。自信無くしそう…。
「バッジを見せびらかすなよ…。俺達だってすぐ勝ってくるんだから。」
「出来るかなぁー?」
悪い笑顔で言う。あ〜頭にくるわぁ…。絶対見返してやる!
「ふふ。仲良しですね。前から思ってましたけどレイとカオリは何だか似てますよね。」
おいルナ?そんなこと言うなら覚悟出来ているんだよな…?
「ルナさん。覚悟はいいですね…?」
「え?レイ?」
全身撫で撫での刑執行!ルナの体を足で挟んで固定して全身を撫でる。ルナが涙目になって笑い始めたところでやめる。
「随分と仲が良いわね。」
「あ!アスコさん。実はですね…ここにいるレイ君はポケモンと会話出来るんですよ。」
受付のアスコさんに俺の秘密を平然とばらすカオリ。ひでえ…。
「あら!そうなの!すごいわね!」
あれ?意外と普通に受け入れられた。結構嬉しいもんだ。
「とりあえず俺のポケモン達診てもらえますか?あ、エーフィの目に砂が入っていないかも見てもらえたらありがたいです。」
過保護っぽいけど仲間達の安全・健康が最優先なので別にいい。
「分かったわ。30分程で終わるだろうから待っててちょうだいね。」
相変わらずポケモンセンターの治療の早さは凄い。
さて、みんなが帰ってくる前に道具一式を買っておこう。
ポケモンセンター内に常設されているフレンドリィショップですごい傷薬と何でも治しを10個ずつ買った。すごい傷薬って何でそんな名前になったんだろうか…。
そんなくだらない事を考えていたら時間が経っていたみたいで治療が終わったみんなが帰ってきた。
「エーフィちゃんの目も調べたけど異物も異常もなかったわよ。」
それなら良かった。
俺達はお礼をしてからポケモンセンターを出る。その時、カオリに見てろよ!という視線を送っておいた。
今回も活動の拠点はトレーナー専用ホテルだ。チェックインした俺達は明日のジム戦に向けて少し早く寝ることにした。
寝るときにみんながみんな俺の上に乗ってきた。が、107kg分の重さで圧死するところだったので、1人ずつ一緒に寝ることにしたのだが順番をめぐって小競り合いがあった。
なので、とりあえずみんなとあまり馴染めていないライと一緒に寝ることにした。ライは俺でいいのか…?とずっと言い続けていたが問答無用で俺の隣に寝かせた。
とにかくこれで少しはライが自分自身を信じられるようになってくれたらいいのだが…。