第15話 ヒウンスポーツフェスティバル開催〜再来プラズマ団〜
いよいよヒウンスポーツフェスティバルが始まる。会場に着いた俺達は貼られているポスターに書かれている競技内容を確認する。
「なんて書いてあるの?」
「ちょっと待ってろって。まだ読んでねえよ。」
わくわくして急かしてくるフィルをなだめて読む。
1、パン食いリレー
2、障害物マラソン
3、ポケモンの技を使ったダンス勝負
…ちょっと待て。これは運動会か何かか?それに最後のはポケモンコンテストじゃねえか!
ツッコミ所満載なスポーツ(?)フェスティバルだな…。
心の中でひとしきりツッコミを入れた後ルナ達にも内容を説明した。
「スポーツってなんだっけ…?」
フィルが言う。まあそうなるだろうな…。
しばらく待つと公園に設置された特設ステージに主催者らしき人影がハハコモリと一緒に上るのが見える。
…おい。主催者あんただったのか。アーティさん…。
「僕が主催者のアーティだよ。今日はポケモン達と一緒に頑張ってね。あ、僕も参加するからよろしくね。じゃ、まずはパン食いリレーだよ。」
パン食いリレーのルールを説明すると、まず襷を持ったポケモン達が公園からスタートしてスリムストリートを通り抜けバトルカンパニーの前で吊されたパンを取る。そこからトレーナーがモードストリートを通り公園へ戻る。そして最後にもう1匹のポケモンがヒウンストリートを通り抜け、遊覧船乗り場がゴールだ。道具は使用禁止だが、ポケモン自身の持つ力は使用可能だ。
パン食い要素は必要ない気がする…。まあ、みんな(特にフィル)が楽しそうだからいいんだけど。
ちなみに、参加者はパラソルお姉さんとフローゼル、シャワーズ。山男とウソッキー、アーケン。サイキッカーとキリンリキ、キルリア。そしてアーティさんとハハコモリ、ウルガモスだ。
俺はルナとフィルと一緒に参加する。ラックには次の競技で頑張ってもらう。
「んじゃ、また後でな。フィル、ちゃんとパン取ってこいよ?」
「もっちろん!」
最初に走るのはフィルだ。サイコキネシスでパンを取ってもらおうという考えだ。
俺はルナ、フィルと別れて所定の位置でフィルを待つ。
アーティさんと話しているとスタートの合図が聞こえた。気を引き締めて待っているとポケモンの影が見えてきた。1位がフィルとウルガモス、後ろからキリンリキとフローゼルが追ってきている。フィルはサイコキネシスで自分を加速していて地面から少し浮いている。
「はんほっへひはよ〜(パン取ってきたよ〜)」
「おう。もう少しだ。頑張れ!」
パンを食べながら話すフィル。それにしても美味そうな顔してるな…。俺はフィルから襷を受け取って走り出す。その直後、アーティも受け取り後ろから猛追してくる。しばらく激しい運動をしていなかったせいか、すぐに疲れる。せめて公園までは…!モードストリートを走っていると段々と公園が見えてくる。ルナも走り出すのを今か今かと待ちわびている。
「お、お待たせ…!ルナ。後は…任せたぜ…!」
「はい!レイはここで休んでいてくださいね!」
何とか公園へ辿り着きルナに襷を繋ぐ。そしてルナは勢いよく走り出す。
その瞬間大きな爆発音が響き、黒煙が上がる。参加者全員が固まった。
「何が…起きたんだ…?」
「あの方角はまさか!っ…!ヒウンで悪い事をする輩は僕が許さない…!」
アーティさんが焦りを含んだ声で言いウルガモスに乗ってハハコモリを戻しながら飛んでゆく。
「ルナ、フィル、ラック!俺達も行こう!」
「分かった!」
俺はラックをボールに入れ、フィルのサイコキネシスで擬似的に体重を軽くしてもらい、彼女を抱きしめ跳ぶ。ルナは俺の後ろに付いてきている。ビルの壁を伝い人の波を超えて走る。どうやら黒煙が出てきているのは下水道からのようだ。
「うん?レイ君か…。ずいぶん速いね。それよりこれ見てよ。誰かが爆発物で下水道の鉄扉を壊したみたいなんだ…!」
俺が速く着いたことに驚いたアーティさんが怒った声で言う。確かに鉄の扉が無残に破壊されている。
「あ…そろそろ…限界かも…。」
「ありがとうフィル。もう解除しても大丈夫だよ。後はゆっくり休んでて。」
「うん。またいつでも頼んでね…。」
俺を軽くしてくれていたフィルのサイコパワーが底をつき解除される。フィルにお礼をして腕の中で休んでもらう。そしてラックをボールから戻す。
「煙が凄いな…。バタフリー、風起こし!」
アーティさんがバタフリーを繰り出し、風を起こして煙をとばす。
「レイ君。ここからは何があるか分からない。タッグを組もう。」
「分かりました。よろしくお願いします!」
アーティさんの提案に同意して一緒に戦うことになった。
しばらく歩いて異変に気付く。
「ん?野生のポケモンが全くいない…?」
「はい…。さっきから探していたんですが…どこにも。」
ルナが不安そうに答える。
これは流石におかしい…。
「何だこれは?レイ、地面に変なのが落ちていたぞ。」
「これは…。プラズマ団の胸に付いてるやつ…!」
ラックが拾った物は盾のようなものに青い字で『P』と『Z』と書かれた、つまりはプラズマ団のエンブレムである。
プラズマ団はまたポケモンに酷いことを…。考えると無性に腹が立ってきた。
「すいませんアーティさん。俺、先に行ってます。」
そう告げて走る。さっきから誰かの怒鳴り声が聞こえてくる。しかし、アーティさんが気付かないということは声の主はポケモンの可能性が高い。
アーティさんの止める声が聞こえるが無視だ。今はプラズマ団が最優先事項だ。
声のする方向に走ると地上へと続く長い階段があった。俺は急いで登って周囲を見渡す。すると見覚えのある顔が。
「お前…。タチワキにいたクズ!ここで何やってんだ。てか何でイーブイを蹴ってるんだよ?」
その男(タチワキでダストダスを蹴っていた奴)があろうことかイーブイを蹴り飛ばして笑っている。男はニヤニヤと笑い続ける。頭の中で何かが切れる音がした。
「おいっ!お前いい加減にしろよ!ポケモン達を何だと思ってんだ!?俺達と同じ生き物なんだぞ?それを…」
男の胸倉を掴み怒鳴っていたら何者かに無理やり男との距離を取らされた。といっても誰が止めたかは分かっているのだが。
「何で止めるんだよ…。みんな…。」
我ながらびっくりするほど低い声で言う。
ルナは俺の服を噛んだまま首を軽く横に振る。フィルは額の宝石を輝かせて分かるでしょといった表情で俺を見つめる。ラックは呪いの力を解放して全力で俺の足を引っ張っている。
「
分かってるよ…。分かってる…。」
そう言ってどっかりと地面に座る。
そうだよ…。こいつだってクズだけど生き物なんだよ…。
頭を切り替えてあのイーブイに話し掛けてみる。
「君、大丈夫か?」
「ふん。大丈夫に決まってんだろ!」
ありゃ…。素直じゃないな…。左前足が赤くなって絶対に痛いはずだ。
「待ってろ。今応急処置してやるからな。それとお前!さっさとどっか行けよ。」
男は笑い続けながらまた会おうぜ、と言って帰っていった。不快だ。
そしてゆっくりとイーブイの元へ歩み寄る。イーブイは来るんじゃねえ、と威嚇してきたが流石にその怪我は見過ごせない。少々強引だがフィルのサイコキネシスで少し浮かせてから応急処置をした。
「もうあんな人間にやられるんじゃないぞ。じゃあな。」
そう言い残してその場を後にする。
その後、下水道内で合流したアーティさんに事情をすべて話した。アーティさんは凄く怒っていた。今すぐ警備員を増やすからと言ってウルガモスに乗って帰ってしまった。
「さて…と、君は何で付いてきているのかな?」
さっき応急処置をしたイーブイが隠れながら付いてきていたのだ。
「へ…?いやいやいやいや!これは…これはその…。はぁ…。ホントの事言うぜ。俺はお前達に付いていきたい。いや、付いていかせてくれ!そこの人間はなぜか俺達の言葉理解できてるし。俺の進化形と白黒のやつも何だか楽しそうだし…。とにかく!俺は!お前達となら楽しくやれそうだって思ったんだよ!」
最後のほうはほぼ逆ギレみたいな感じで訴えてくるイーブイ。でもまあ、熱意は伝わってきた。
「俺達と付いてきたいのはよく分かった。でも楽しい事ばかりじゃないかもしれないぜ?それでもいいのか?」
「いい!全然いい!」
即答だった。
「そうか…。分かった!俺はレイだ。これからよろしくな!えーっと…。そうだ!ライとかどうだ!」
「は…?」
どうやら伝わらなかったようだ。
「名前だよ!お前の名前!いいだろ?」
「ふ、ふん!仕方ないからそれでいい!」
こうして俺達は恥ずかしさで顔がが真っ赤になっているイーブイ、ライを仲間に加え次の目的地ライモンシティを目指す。