第13話 真夜中の決意〜満月とラック〜
僕はイーブイ。そこに寝ている人間、レイにはラックという名で呼ばれている。
僕は呪いを持って生まれた。ようやく1人で動けるようになった頃…木の実を集めて巣に帰ると両親がいなくなっていた。呪いのせいだ。悲しくて寂しくて、つらかった。
冬になり、木の実が採れなくなった。少し分けてもらおうと近くに住むリーフィアを訪ねた。しかし、リーフィアは僕を見ると慌てて逃げていった。
「なんで?どうして僕から逃げるの…?」と、1人呟く。
それから様々なポケモン達の巣を回った。やっぱりみんなは僕から逃げる。その時、僕は察した。僕は1人でしか生きられない運命なのだと。
やっぱり冬は木の実が採れない。もう何日も食べ物を食べていない。今日も木の実を探しに行こうと巣を出ようとするか、ふらふらして転んでしまう。もう時間か。座り込み目を閉じる。あとは朽ち果てるだけ。そう思っていたのだが…。
「あっ。イーブイがいる。弱ってるみたいだ。」
声がした方向へ目を向けるとそこには1人の人間がいた。人間は何かを喋っているが何を言っているのかは分からない。しばらくすると人間は僕の前に沢山の木の実を置いた。食べていいの?と人間の顔を見るとニコリと笑った。何で笑うの?首を傾げると人間ははっとしたような表情をして木の実を指差して口に入れるような仕草をする。恐らく食べていいということを伝えたいのだろう。僕は急いで食べた。その時人間が優しく笑っていたのが印象に残っている。
その日から人間は毎日木の実を届けてくれた。僕も次第に人間が言っている事を理解出来るようになってきていた。そんなある日…森で火事が起きた。
森のポケモン達を全て逃がしたのはあの人間だ。僕も逃げようと走り出すと目の前にあの人間がいて僕の首に紙をつける。そして、僕の背中を押し早く行けと急かす。
走りながら後ろを振り返ると人間が少し寂しそうに笑っている。僕はその表情が忘れられなかった。
火事が収まり森に戻るとあの人間はいた。だが様子がおかしい。
人間はピクリとも動かない。
話しかけても動かない。
なんで…?どうして…?
僕の中に初めて喪失感が芽生えた。その根は心がけての奥底まで深く深く根を張る。
初めて僕から逃げなかった生き物だったのに。
助けることが出来なかった。否、助けなかった。
もう二度とこんな思いはしたくない。
この手紙を仲良くなった人間に渡さなければあの人間に申し訳がたたない。そう思い街へ来た。
街に来た僕は珍しい人間に出会った。レイだ。
レイは僕達ポケモンとちゃんと話が出来る。
その人間が連れているポケモンは僕を見ても逃げなかった。むしろ仲間が増えると喜んでくれた。
驚いたし嬉しかった。
でも…笑った顔があの人間によく似ている。
優しくてあったかい笑顔。
けれど少しだけ儚くていなくなってしまいそうな笑顔。
あの人間とレイは違う。それは分かっているけど。
僕が守らなければいけない。
そう思ってしまう。
レイと過ごして2日が経とうとしている。部屋の窓際で空を見る。満月が綺麗な夜だ。寝ているレイを見る。その寝顔を見ると何故か安心する。同時に守りたいという気持ちが強くなる。
もう二度とあんな気持ちになりたくないから。
昔より強くなったけど守るにはまだ足りないから。
もう一度夜空を見上げる。月が綺麗だ。
つんつん。つんつん。
つんつん。つんつん。つんつん。
誰かにつつかれて目が覚める。横にはラックがいた。
「どうした?眠れないのか?」
「…レイ。僕…いや俺は君を守るために強くなるよ。」
ラックが何かを決意した顔で言う。その瞬間、ラックが青白い光に包まれる。進化だ。
俺は呆然として見守ると姿が変わり闇のような体に金の環を持つ赤い瞳のポケモン、ブラッキーへと進化を果たす。
「姿は変わってしまったけど、これからもレイを守るよ。今後もよろしく頼む。」
優しい笑みを浮かべラックが言う。
「ああ!頼もしい限りだよ!」
本当に頼もしい。ルナも、フィルも、ラックも、俺の為に強くなってくれる。
それなのに俺は全く強くなれない。精神的にも。肉体的にも。
「はぁ…。やめだやめだ。」
こんなこと考えしてちゃ頑張ってくれるみんなに失礼だからな。
「レイ、どうした?」
心配したラックが声を掛けてくる。
「大丈夫だよ。まだ夜中だし寝ようか。」
「そうだな。それと、今日は一緒に寝てもいいか?」
恐る恐る聞いてくるラック。
「勿論いいよ。それじゃ、おやすみ。」
「うん。おやすみレイ。」
布団の中に潜ったラックの温かさが少し冷えた体に染みる。
今日はいよいよヒウンジム戦だ。確かヒウンジムは虫タイプのジムだったはず。
タイプの相性は悪いけど気持ちでは負けない。
それにみんなが付いてきてくれているんだ。負ける気がしない。
俺はみんなが戦いやすくなるように頑張るだけだ。