第10話 タチワキジム〜ダブルバトル初挑戦〜
ルナが元気になってから4日が経ったのでいよいよタチワキジムに挑もうと思う。
最初はルナも治ったからすぐにでも挑もうと思っていたのだが、アスノさんが「まだ治ったばかりなんだからあまり無理させちゃダメよ?」とダメ出しされた。確かにルナはたまに無理をするときがあるからな…。
4日が経ちルナも完全な本調子に戻ってくれたのでそろそろ行けるかなと思い、一応ポケモンセンターに連れて行きアスナさんに確認してもらったのだが問題無いとのことだった。
そして俺達はタチワキジム“であると思われる場所”についた…。
何故曖昧な言い方なのかというと、ここはどうみても地下ライブ場の入り口にしか見えないからである。
「ここ…なんですかね…?」
「なんか怖そうだよね…。ホントにこんなところにジムなんてあるの?」
2人も少し不安のようだ。
「ま、ここで立ち止まってても時間の無駄だし行ってみようぜ。俺の後ろについてこいよ〜。」
俺は地下に伸びる階段を降りる。段々とロックな音楽が聞こえてくる。やがて、(タチワキジム)と蛍光色のペンキで書かれたドアが見えてきた。
「オッス!チャレンジャー!」
聞き覚えのある声が聞こえる。これは…ガイドーさんだ。
「タチワキジムのジムリーダー、ホミカは毒タイプの使い手だ!毒タイプは…」
「あ。知ってるんで大丈夫です。」
長くなりそうな気がしたので止める。
「そう…か…?じゃあ頑張ってくれよ!ほれ、美味しい水だ。」
ポカンとしたガイドーさんが歩いて行こうとする俺達に美味しい水を投げ渡す。
軽く頭を下げて両開きのドアを開ける。
「うぅ…耳が割れそうです…。」
「耳がおかしくなりそう〜!」
ドラム、ギター、そしてホミカの歌声が爆音となって耳をつんざく。
ルナは前足で耳を塞ぐ。フィルは前足が届かないようなので、俺が抱きかかえ耳を塞いでやる。
「あのー。」
ステージの手前で呼びかけるが聞こえてない。
「あのー!」
まだ聞こえていない。
「あのーっ!!」
やっと俺の叫び声に気付いたのか歌を止め、両側で演奏しているドラマーとギタリストを止める。
「アンタ、挑戦者だね?それも相当強いトレーナーだ。」
ホミカは射抜くような眼差しで薄く笑う。
「はい!よろしくお願いします!」
「あ〜…固いのはナシナシ!それじゃ、アンタの手持ちは何匹?」
手持ちを聞いてくるので2匹だけですと言うと、そっか丁度いいねと呟く。何が丁度いいんだろう…。
「それじゃ、今回はダブルバトル形式でやるけどいいよね?」
ダブルバトルか…。初めてだから緊張するな…。
俺とホミカはステージに上がり、両端へと移動する。
「行くよ!アンタの理性、ブッ飛ばすから!!ダストダス、ドクロッグ!」
やっぱり来たかダストダス!
「頼むぜ!ルナ!フィル!」
名を呼ばれた2人はステージの中央へと躍り出る。
ちなみに審判はドラマーが引き受けてくれた。
「行くぜぇ!バトルスタートォ!!」
ドラマーがテンションマックスで叫ぶ。
「ドクロッグ!先手必勝だよ!アブソルに毒突き!ダストダスは毒突きが当たったらベノムショックね!」
素早く的確な指示を飛ばすホミカ。
「ルナ!サイコブレードで受け止めろ!フィルはサイコキネシスでダストダスを攻撃!」
ドクロッグが毒に染まった手で突いてこようとするがルナがサイコブレードでしっかりと受け止める。どうやら力は同等なようだ。ギリギリと音を立てて動きが止まる両者。
これで1対1だ。
フィルはダストダスに全力のサイコキネシスを放つ。大きく吹き飛ばされたダストダスは体勢を崩し、ベノムショックを見当違いの方向に放つ。
ダストダスはフラフラになりながらも立ち上がる。
「へぇ…!なかなかやるじゃん!でも…まだまだ!」
ホミカは嬉しさを含んだ声で叫ぶ。それに気を取られた隙にドクロッグはホミカの元へ戻る。
「あまり使いたくなかったんだけど、あんたに敬意を表して使わせてもらうよ!ダストダス!どくどく!」
どくどく。それは相手に普通の毒よりももっと毒性が強い毒液を浴びせかけ、猛毒状態にする凶悪な技だ。
これだけは何としても回避しなければならない!
「2人とも!全力で回避だ!」
2人は当然だというような表情で回避する。回避された毒液はステージに当たりブスブスと音を立てて紫色の煙をあげる。それを見てしまった俺はゾクリとしたが気を取り直して2人の様子を見る。
するとはねた毒液が付いたのか所々に紫のシミが出来ている。それに気付いた2人はあらかじめ持たせておいたラムの実を食べる。すると紫のシミが消えたのでほっと一安心。
「ルナはサイコブレードでドクロッグを斬り伏せろ!フィルはサイコキネシスでダストダスにトドメを刺してくれ!」
ルナはいつもより長いサイコブレードを角に宿しドクロッグに斬りかかる。ドクロッグは受け止めようとするが問答無用で斬り伏せる。ドクロッグは戦闘不能になった。
これで2対1。だけどこれで終わりだ。
「フィル!行けぇぇ!」
フィルは再びダストダスを吹き飛ばそうとする。しかし、ダストダスは踏ん張ってなかなか吹き飛ばない。
「フィル、サイコキネシスは発動したまま後ろに下がるんだ!ルナ、サイコカッターだ!」
俺のその言葉と同時にフィルは後ろに下がり、ルナは角にサイコパワーを溜める。
「ダストダス避けて!」
ホミカは咄嗟に言うがフィルがサイコキネシスで固定しているので身動きが取れない。
「くっ…!」
ホミカは唇を噛む。理性がどうにかなりそうだ。
サイコパワーを溜め終えたルナの角が淡い桃色に染まる。そのまま首を振り、刃状のサイコパワーを飛ばす。それは身動きが取れないダストダスに直撃し戦闘不能にする。
「ダストダス戦闘不能!よって勝者、レイ!」
ドラマーがさっきより少し落ち着いたテンションで言う。
「負けた。コンビネーションも完璧だった。理性をブッ飛ばされたのはあたしだった!ほら、あたしに勝った証のトキシックバッジだ!受け取りな!」
そう言うとホミカは俺の手を引っ張りその上に紫色を基調としたトキシックバッジを乗せた。
「ありがとうございます!」
「そういえばアンタ。この後どこに行くか決まってる?」
唐突に聞かれたのでいえ特にはと答えると、船に乗ってヒウンシティに行くといいと言われた。特に行き先は決まってないのでヒウンシティに行くことにした。親父とはしばらく会えないがライブキャスターがあるので大丈夫だろう。
それにヒウンシティは大都会だという。これが楽しみじゃないわけが無い!
目指すは大都会、ヒウンシティ!船に乗っていざ行かん!
そう意気込む俺の両隣でルナとフィルが笑っていたのは言うまでもない。