第8話 家へ帰ろう
初ジム戦の後、俺達は家に帰った。親父は何だ?もう諦めたか?と小馬鹿にしてきた。その時、フィルがレイを馬鹿にしないで!と額の宝石を輝かせ親父の前に立ちふさがった。ヤバい…。サイコキネシスを発動するつもりだ!俺は咄嗟にフィルを抱きしめ、親父の冗談だよと念じる。するとフィルは、そうなんだ…?と何とか落ち着いてくれた。
フィルは早とちりなんだよなぁ…。まあ、俺のことを守ってくれてるみたいだし嬉しいっちゃあ嬉しいんだけど。
あははと笑う親父はほっといてとりあえず2階の自室に戻ろう。
俺は自室に戻りながら図鑑でイーブイを検索する。イーブイは遺伝子が不安定で、周囲の環境に影響されて進化するポケモンだ。
俺はその進化の1つ、エーフィの項目にフィルと書き足す。さらにアブソルの項目にルナと書き足す。よし、これでオッケー。
扉を開けて自室へ入る。やっぱり自分の部屋というのは落ち着く。ルナもすっかりリラックスして、ベッドの上で丸まって夢の世界へ旅立とうとしている。
そんなルナの隣に腰を下ろして、気付いた。ルナの右前足に擦り傷が出来ている。バッグから傷薬を取り出しスプレーする。念のためラムの実を擦り潰して作った、親父特製万能軟膏を塗っておく。これで安心だな。
そこへ親父が部屋へ入ってくる。
「可愛い仲間が増えたな。」
「ああ、フィルっていう名前だよ。ついさっきチェレンと戦ってた時に進化したんだ。あのバッフロンを完封したんだぜ?」
俺の腕の中でだらりとしていたフィルがその言葉を聞いた瞬間「えっへん!」と胸を張っている。なぜ声に出すんだ…。俺が苦笑していると親父にも聞こえてたようで笑っている。やはり彼女のシンクロは強くなっている。
とりあえず、ずっと胸を張っているフィルを撫でてやる。すると次第に目がとろんとしてきて眠ってしまった。
「レイ、バッジ貰ったんだろ。見せてくれないか?」
「ああ、勿論いいぜ。」
唐突に聞いてくる親父。俺はフィルをゆっくりとベッドへ寝かせ、バッグからバッジケースを取り出し開ける。中ではさっき貰ったばかりのベーシックバッジが輝いている。
なるほど…と意味深に呟く親父。そして語り始める。
「まさかここまで早くバッジを手に入れるとは思ってもなかったよ。そもそも俺はお前がトレーナーとしてやっていけるとも思ってなかった。」
俺が反論しようと口を開く。が、親父が手で制す。
「だがな…。お前1人じゃ出来なくてもここにいる仲間がいればお前はどこまでも行ける。そう直感したよ。それにお前には特別な力がある。その力を最大限引き出してポケモン達と一緒に頑張れよ。」
そう言うと親父は俺の背中をバシバシと叩いてくる。しかし嫌な気分にはならなかった。
それよりも親父は俺の力が特別だということを知っていたらしい。そういう事は早く言ってほしかった。
「いてぇよ。骨折れる。」
笑いながら言う俺。
「そうだ!次はタチワキシティに行ってみろ。そこにもジムはあるぞ。ちなみにジムリーダーは毒タイプの使い手だから毒の対策はしっかりな!」
親父は俺にラムの実を20個もくれた。やっぱり親父は過保護だなぁ。
それからしばらくて俺も眠くなってきたのでルナとフィルの温かさに癒やされて眠る。
次の日…
目が覚めた俺は視界が白いことに気付いた。そしてその原因が何なのか、いや誰なのかも分かった。
「おーい。ルナ起きろー。そして俺の上から降りてくれー。」
俺が笑いながら言うとルナは文字通り飛び起きて凄いスピードで「ごめんなさい!」と連呼していた。別に謝る必要はないんだがね。
ふとベッドを見ると、フィルがいない。慌てて探すと彼女は窓際に座っていた。
「何だ…。そこにいたのか…。」
「太陽の力を吸収してるだけだよ。心配させてごめんね?」
にこりと笑うフィル。
そうだ。フィルは太陽ポケモンと呼ばれるエーフィなんだ。太陽の力を吸収するのは当たり前だ。少し過保護過ぎだったかな…。
「そんなことないよ!心配してくれてありがと!レイ!」
「レイ。あなたは過保護ではありません。安心してください。」
さっきよりも笑顔になったフィルと真面目顔のルナに心を読まれる。
ちなみにルナが心を読めるのはフィルが進化したことによって特性シンクロが強化されたからである。相変わらず
俺以外だけど。
ずるいなぁ…。俺も心を読みてえよ。
すると、またまた心を読んだ2人がにっこりと笑う。
はぁ…。張り合うだけ無駄だな…。
「さ!朝飯食べようか!」
諦めた俺は笑顔で2人に言う。
次はタチワキジムに挑もう。
今日も変わらない爽やかな朝が始まる。