第7話 ヒオウギジム〜絆の力〜
はぁ…。緊張する…。心臓が破裂しそうだ。
俺は今トレーナーズスクールの奥、2つの銅像が並ぶ場所。
そう。ヒオウギジムの入り口にいる。
銅像にはジムリーダーに勝ったトレーナーの名前が彫られる。そこに見つけてしまったのだ。カオリの名を。
「マジか!先を越されたかぁ…!」
「レイ、落ち着いた方がいいと思いますよ。」
「そうだね…。一旦深呼吸すれば?」
悔しがっている俺を見てルナが優しく窘める。
それにフィルも続くが彼女も若干緊張しているようだ。
お前も落ち着けよ…。と心の中でぼやくが、リンクとシンクロの影響で伝わってしまうことを忘れていた。
俺は錆びた機械のようにフィルを見る。するとやっぱりフィルはジト目でこっちを睨んでいる。俺はその様子が何故か面白くて笑ってしまう。するとフィルもつられて笑い出す。さらにルナもつられて笑い出す。笑いの伝染だ。
まぁ、おかげで緊張はどこかへ飛んでいったけど。
ちなみにサンギ牧場を出てからここに着くまで、フィルと話し込んで仲良くなれた。そのおかげか俺のリンクとフィルのシンクロが同調し始め、少だが
フィルだけが俺の心を読めるようになった。理不尽だ…。
気を取り直してジムに入ると待ってましたと言わんばかりのスピードで1人の男性が出てきた。
「ようこそヒオウギジムへ!私はポケモンジムに挑戦するトレーナーをガイドするガイドーと言います。まずはこれをどうぞ!」
早口で捲し立てるガイドーさんに気圧されながら受け取ったのはおいしいみずだ。
「あ、ありがとうございます…?」
困惑しながら答える俺。ルナ達も困惑顔だ。
「ジムリーダーのチェレンはノーマルタイプの使い手!弱点は格闘タイプタイプだ!それ以外のタイプで戦うなら単純な力比べになるぞ!では健闘を祈る!」
ガイドーさんは驚くべきマシンガントークで要件を伝えるとにっこり笑顔で手を振る。
俺達はあっけに取られる。フィルに至っては「この人間騒々しいね…。」としかめっ面で伝えてくる。
とりあえずジムを見渡す。すると朝礼台のような場所にチェレンがいた。チェレンも俺達に気付いたようで、歩み寄ってくる。
「やあ、こんにちは。僕はチェレン。ジムリーダーだよ。」
「こんにちは!レイです。挑戦しに来ました!」
「うん。分かってる。それにしても君のポケモンたち強いね…。これならジムトレーナーとのバトルはしなくていいかな…。」
マジか!それは嬉しい。親父からジムリーダーも強いけどジムトレーナーも十分強いから油断するなよ。と口を酸っぱくして言われていたから少し安心だ…。
だが、そんな俺の心を読んだかの如く
「だけど、僕が使うポケモンのレベルは少し上げるからね。」
と一言。俺の顔は一瞬で青ざめる。
「じゃ、始めようか。」
「はい。よろしくお願いします!」
最初はフィルだ!頼むぞ!そう呟く。
すると、フィルは嬉しそうに頷き飛び出した。
チェレンはハーデリアを繰り出した。
両者がフィールドに出た。するとハーデリアは低い唸り声を出しフィルを睨みつける。フィルは少し怯んだようだがすぐさま気を取り直しハーデリアと対峙する。
「へえ…。僕にノーマルタイプで挑むんだ?でもそのイーブイ…凄いポテンシャルを持っているね…。」
チェレンは楽しそうに呟く。
「ハーデリア、突進!」
ハーデリアはもの凄い勢いで突っ込んでくる。が、それを受けるわけにはいかない!
「フィル!電光石火でかわして攻撃だ!」
フィルは光を身に纏い、突進が当たる直前に超速の横飛び。そこから空中で体勢を変え着地と同時に急加速。そのままハーデリアの横腹に衝突。ハーデリアはふっ飛ばされる。しかし、なんとか耐える。
「なるほど…!いい動きだね。じゃあこれはどう?ハーデリア、捨て身タックル!」
ハーデリアは先ほどとは比べ物にならない速さのタックルを繰り出す。しかし、再び電光石火でよける。が、ハーデリアは向きを変え、突き進んでくる。
「フィル!捨て身タックルで迎え撃つんだ!」
俺は素早く指示をとばす。それを聞いたフィルはでんこうせっかの勢いを利用してタックルをする。
両者の攻撃がそれぞれにクリーンヒット。吹き飛ばされ背後の壁にぶつかる。
フィルはなんとか立ち上がる。ハーデリアは気絶している。
「やるね…!昔のあいつみたいに底が見えないトレーナーだ…。」
チェレンは呻くように呟く。
「頼むよ!バッフロン!」
次に繰り出したのはアフロが特徴の牛型のポケモンだ。
マズい…。バッフロンは高い攻撃力を持っている。今のフィルの体力では一撃で倒れてしまうだろう。
一方のフィルは不思議な気持ちにとらわれていた。
私は前のトレーナーに酷いことをされた。でも、今のトレーナーであるレイを勝たせてあげたいと思った。そんな自分が不思議で仕方がない。
レイにはポケモンを引き付ける魅力がある。それが何なのかはわからないけど。
私には力が無い。だから力が欲しい。レイを守る力を…。
そう願う私の視界の端で太陽が輝いた気がした。
俺はただただその様子を見ていることしか出来なかった。
突然フィルが動きを止め考え事をしているような素振りを見せ、目を見開いた。
突如青白い光に包まれるフィル。進化だ…。
なぜ突然?自問自答する。そうしている間にも変化は続き、やがて桃色の体と額に宝石を持ったポケモン、エーフィへと進化を遂げた。
エーフィとなったフィル自身も心底驚いていたようだが、さらに驚く俺を見つけて自信満々な笑顔をぶつけてきた。
「驚いたね…!まさかここで進化するとはね…。」
チェレンもまさかの出来事に脱帽している。
とりあえずステータスチェックでフィルを見てみる。
《エーフィ(フィル)》
・レベル…31
・特性…シンクロ
・技…電光石火、サイコキネシス、守る、影分身
・持ち物…なし
おお!サイコキネシスと守るを覚えたのか!
フィルの成長ぶりに驚きつつも頼りになるなと感心する。
その心を読んだフィルがエッヘンというような表情でこちらを見る。
「さ、行こうか!」
「了解っ!」
「速攻で決めないとね!バッフロン、アフロブレイク!」
チェレンが指示を飛ばすとバッフロンは猛烈な勢いで突進。しかし、フィルはそれをあらかじめ分かっていたかのように軽やかに避ける。そのままサイコキネシスでバッフロンを空中に固定。影分身からの電光石火で次々にダメージを与える。
やがてバッフロンは耐え切れなくなり気絶する。
凄い…。俺が心の中でシミュレーションしていた戦い方を言葉に出す前に実行してくれた。
凄い…。俺は何度目か分からない感嘆を漏らす。そしてようやくチェレンに勝ったことを自覚する。
「凄い…。凄いぞ!フィル!よくやったよ!」
俺は衝動のままフィルを抱きしめる。最初は困惑顔だったフィルだが、仕方ないなぁといった表情で二股に分かれた尻尾をゆらゆらさせる。
「素晴らしい戦いぶりだったよ。何も言うことはない。さ、僕に勝った証、ベーシックバッジだ。受け取ってくれ。」
俺はドキドキしながらそれを受け取る。初めてのジムバッジは少しばかり重く感じた。
成長したフィルのおかげで勝てたんだ。後で沢山撫でてやらないとな。
今回出番がなかったルナが機嫌斜めになってしまい機嫌を取り戻すのに時間が掛かったのはまた別のお話である。