第三話 旅立ちの1歩 その2
「2人?へ?博士、1人って言ってなかった?あるすとろなんとかって」
突然入ってきたそいつは、博士に駆け寄るなり思い切り肩を揺さぶりながらそう叫ぶ。
テラスと言っても図書館の中なんだけどな、とため息をつきつつ、図鑑を何とか閉じた僕はそいつの方を向いた。
「僕がアルストでこいつがロメリア。僕達双子なんだ。君のいってるあるすとろなんとかって、僕達のことだと思うけど」
「そうなんだよキシアくん!!この2人が前に言った、ロッカから旅立つ子達だよ。2人とも、この子が君たちと共に旅に出る、クスパタウンのキシアくんだよ」
「なーんだ!2人なの!!」
そいつ―――キシアは博士から手を離し、僕らの前に立つとにんまり笑っていった。
「博士も言ってたけど、クスパタウンのキシア、14歳だよ。よろしく!!」
「キシアちゃんね!!よろしく!!ほらアルも!」
「…よろしく」
僕と違って人見知りとかそういうのが全然ないロメリは、キシアの手を掴むとぶんぶんと容赦なくふりだす。お互い以外の同い年の人にはじめて会ったんだ。興奮するのもわからなくもない。わからなくもないけど。
「ロメリ、困ってるだろ」
「へ?あ、ごめん!」
「あぁ、うん、大丈夫」
彼女は軽く目を回したのか、額に手を当てながらへらりと笑った。その指には、僕らと同じ指輪が光っている。
「…さて、ようやく3人そろったことだし、ポケモン達を紹介しようかな」
「ポケモン!!」
すぐさまロメリが食いつく。パタパタとバッグに駆け寄る背を追いかけて、僕もバッグの前に移動した。目の前で、博士がバッグから机にボールを取り出す。カタカタと揺れるそれらのように、僕の手も震えていた。
「右から、草タイプのフシギダネ、水タイプのゼニガメ、そして炎タイプの
―――――――――――――――――ヒノアラシだ」
博士が名前を呼ぶたびに、ボールからポンと音を立ててポケモンが飛び出す。3匹を順に見ていると、フシギダネと目があった。フシギダネがふにゃりと笑う。
「お、アルはフシギダネがいい感じ〜?」
「別に、目があっただけだし。ロメリとキシアは?」
「どうしよっかなぁ……って、キシアちゃん!?」
ロメリの悲鳴を聞いて慌てて後ろを見れば、顔面びしょ濡れにしたキシアが立っていた。睨みつけている先には、ケタケタ笑うゼニガメの姿が。
「……ゼニガメに気に入られたようで」
「何こいつ!!目ぇ合ったと思ったら水ぶっかけられたんだけぶぇあ!?」
更に水をかけられ、がっくり肩を落とすキシアをみて、更に大笑いするゼニガメ。隣のロメリもクスクス笑っていた。
「2人はパートナー、決まった感じだね」
「どこがよ!?」
「ロメリ、ほら」
ロメリのパーカーの袖を引き、机でおびえたようにまるまるヒノアラシを見やる。チラリと僕やキシアを見るけど、目があったとたん勢いよく顔をそらされる。それを見て困ったように笑いながら、ロメリは目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「ね、ヒノアラシ。私と一緒に旅に出ない?私、あなたと冒険したいな!!」
ね、とロメリは手を差し出しながら笑う。おそるおそる顔を上げたヒノアラシは、ロメリと目をぱちぱちさせた。差し出された手とロメリの顔を交互に見、少しだけ、すり、と手に頬を寄せた。
何この子かわいい、という小さなつぶやき声は、スルーしてやることにした。