第二話 旅立ちの一歩 その1
私たちがすむロッカタウンには、灯台の他に、大きな図書館がある。フラエワ地方の歴史や伝説、童話から何から何までたくさんの本があるのだ。
ロッカの外に出られないぶん、この図書館でたくさんのことをアルと調べていたことを思い出す。大人たちは、町でたったふたりだけの子供である私たちに優しくしてくれた。そんな図書館とも、今日でしばらくお別れになる。
「……それで博士、もうひとりのトレーナーはいつ来るんですかね」
アルが引きつった笑みを浮かべて尋ねる。尋ねられた彼、イソカ博士は、困ったように頭を掻いた。
「いやぁ……そろそろだと思うんだけどね……」
図書館のテラス、大きなテーブルの端っこを陣取る重そうなバッグの中には、3つのモンスターボールがはいっている。それらは、もうすぐ私達のパートナーになるポケモンが入っているもの。今すぐにでもその姿が見たいしパートナーを決めたいけれど、もう1人、今日旅に出るらしいトレーナーがなかなか来ないせいでそれができない。
バッグを眺めながらうずうずしていると、あぁそうだ、と博士がバッグを漁り始めた。
「もう1人の子には渡したんだけどね、君たちにも渡さないと……と、あったあった」
はい、と私達に差し出された手。2人でのぞき込めば、
「「指輪?」」
「ふふーん、ただの指輪じゃないんだよね。指にはめて、真ん中に着いてる青い宝石みたいなやつを3回叩いてごらん」
「こう??………わ、」
言われたとおりにしてみれば、その石の上に、ホログラムの地図が浮かび上がった。
「すごいすごい!!何コレ!!」
「右にスライドさせてごらん。ポケモン図鑑が出てくるから」
「本当だ……こんなの本でも見たことない……!!」
アルは目を輝かせながら、地図と図鑑を行ったり来たりさせている。地図を拡大させたり、図鑑の説明書を読んだり、せわしなく動くアルの指から興奮が伝わってくる。そりゃあそうだよね、この小さなロッカタウンには、最新鋭の何かなんてなくて、私達の世界は海と本だけだったのだから。
「すごいだろ?これこそ、フラエワの素晴らしい科学技術の結晶!!コレで紙の地図は不要だし、図鑑もその中だから荷物が少なくてすむ!!旅に出る少年少女の味方だよね!!」
まるで自分が作ったかのように、ふんぞり返りながら博士が言う。アルは全然聞いてないし、私もちゃんと聞いてなかった。へー、と適当に返事をしつつ、地図の上に指を滑らせた。
と、私の指は、あるところ、いや、
あるべきところの上でぴたりと止まった。
(あれ……ロッカがない………??)
「ねぇ博士、この地図………」
博士に話しかけようとしたとき、図書館とテラスを繋ぐドアが勢いよく開いた。
「ごめん博士!遅れ………へ?2人??」
突然はいってきたその女の子は、外側にはねた栗色の髪を揺らしながら、私たちを見て目を丸くさせていた。