47話 暗闇の世界で
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「はあはあ....。大分登ってきたよね。......うわっ!見てよ、ヒカリ!」
「おい!」
「先に行ってて。後で追いつくから。」
「........分かった。」
暗闇の丘を登り、ヒルビは崖から見える光景を見た。ジェードがヒルビを止める前に
ヒカリがそう言い、ジェードは先に行くことにした。
「やっぱり...未来は真っ暗な世界なんだね.....。真ん中辺りに灯りが集まって
いて、とても綺麗なんだねけど...。でも、あの灯りは....もしかして、あそこ
が処刑場だったりするのかなぁ。」
崖から見える光景を見ながらそう言うヒルビをヒカリは無言で見ていることしかでき
なかった。
「ねえ、ヒカリ...。ディアノさんは今まで僕達を助けてくれたし、いろんなことを
教えてくれた......。だから、僕もディアノさんのことはすごく尊敬していて、
星の停止は時の歯車が無くなることで起きるって言っていて、僕達はジェードが時の
歯車を盗むのを防ごうとして成功した。取り返した時の歯車はカルサ達が元に戻す
って言っていたし、星の停止は防いだはずなのに、未来では星の停止が起きている。
ディアノさんが嘘をついているというルーアの話は正しかった.....。けど、実際に
目にすると、僕、よく分からなくなってきたよ。本当にもう何を信じていいか分から
なくなってきたよ....。でも、ディアノさんはやっぱり僕達のことを騙していたの
かなあ...。こうなった今もまだ信じられないよ。頭の中がぐちゃぐちゃだよ..。」
「ヒルビ......。」
ヒルビの目に涙が浮かんできた。
「僕達.....これからどうすればいいんだろうね....。どこまで逃げ続ければいいん
だろう......。元の世界に帰れるのかなあ...。........ギルドのみんなは...
今頃どうしているのかなあ....。僕達がいなくなって心配しているのかなあ...。
モルガやリコラやマック達......みんな元気にしているかなあ.....。タイガや
ルーア、エメリにサロファも大丈夫かなあ.........。ううっ....ギルドのみんな
に.....会いたいよう....。」
(ヒルビも大分参っているみたいね...。無理もないよね。これまでに起きたことは
とても信じられないことばかりなんだから.....。私も不安だよ...。でも、ここで
挫けちゃだめ。今、頑張らないとヤミラミ達に捕まってしまう。ヒルビを元気づけ
なくちゃ。)
ヒルビが泣き出し、ヒカリはそんなヒルビの様子を見て、覚悟を決めた。
「ヒルビ!早くジェードを追いかけるよ!」
「......どうして?」
ヒカリの言葉にヒルビは不思議そうな顔をした。
「ジェードなら元の世界に戻る方法を知っているから。」
「そっか!ジェードは元々ここから僕達の世界へ行ったんだもんね。ジェードなら僕達
の世界へ行く方法を知っているはずだよね。でも、ジェードは悪い奴だよ!?カルサ達
も怪我したし。」
ヒカリの話を聞き、ヒルビは納得したが、どうやら反対のようだ。
「ジェードは悪いポケモンかどうか確証はないよ。カルサ達の怪我はそこまで重傷では
なかった。時の歯車を盗むのに自分の情報を漏らせるカルサ達を話すことができない
ほどの傷をカルサ達は負っていない。それに、ジェードは私達を助けてくれたじゃ
ない。ジェードだけで逃げれたはずなのに、私達と一緒に行動してくれたじゃない。
ジェードの話に筋も通っているし、今はジェードを信じるしかないよ。」
「僕は嫌だよ!あんな奴を信用するなんて!絶対に!あんな奴!信用するなんて......
嫌だけど...でも.....。」
ヒカリが説得しようとするが、ヒルビはジェードを信用できないと言っていた。
しばらくすると、ヒルビの様子が落ち着いてきた。
「今は....そうするしかないのかな...。ディアノさんは僕達を狙っているし......
そうなると、この未来で他に知っているポケモンは今はジェードしかいないもんね
...。今はジェードに頼るしか.....他に方法がないよね....。」
ヒルビは暗い顔をして崖からの光景を見つめた後、覚悟を決めたような顔をした。
「.........うん。分かったよ、ヒカリ。ジェードのところに行こう!元の世界へ帰る
方法を聞き出そう!」
「ヒルビ!」
いつものヒルビに戻ってきて、ヒカリはほっとした。
「行こう!ヒカリ!ジェードの後を追いかけよう!」
「うん!」
ヒカリとヒルビはジェードを追いかけるために崖から離れ、走り出した。
「ヒカリ。ありがとう。」
「えっ?」
ヒルビが走りながら言い、ヒカリは少し驚いた。
「僕が元気がないから心配してくれたんだよね。ヒカリだって不安なはずなのに.....
ごめんね。大切な友達が近くにいるというのに、僕は1匹で悩んで...1匹で挫けそう
になっちゃった......。本当は1匹じゃないのにね。僕のためにジェードと離して
くれて.......。僕、もう諦めないよ。ヒカリがそばにいてくれるから勇気が出て
くる。僕はもう大丈夫だから頑張ろうね。ヒカリ。必ず一緒に、元の世界に帰ろう
ね!」
「...うん!」
ヒルビの話にヒカリはしっかりと頷いた。
「ジェードと分かれてからここまでずっと一本道だったから、ジェードはこの先に
行っているはずだよ!」
「早く行かないとね!」
ヒカリとヒルビは封印の岩場の前で再び覚悟を決め、中に入っていった。
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封印の岩場
「ヒルビ!」
「うん!かえんほうしゃ!」
「10万ボルト!」
ヒルビも元気を取り戻し、ヒカリとヒルビにいつもの調子が戻った。ヒカリとヒルビは
順調に先に進んでいった。
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「大分深くまで来たな。もう少しだ。」
ジェードは封印の岩場の最奥部に着いていた。
「どうやらここを抜ければ、森に出られそうだな。ヤミラミ達が追って来る。ぐずぐず
してられないぞ。」
ジェードがそう呟き、何かを思い出した様子で後ろを振り返った。
「....そういえば、あの2匹は無事なんだろうか...。ヤミラミ達に捕まったりして
いないか......。いや!それより、今は使命を優先しなくては!犠牲を払ってでも
やり遂げると誓ったではないか!そのうち追いつくだろう!行こう。」
「オイ!マテ!」
ジェードは頭を振り、先に進もうとした時、突然どこからか声が聞こえた。
「むっ!誰だ!?」
「ワレノナワバリニカッテニハイリ、ネムリヲサマタゲタニモカカワラズ、ソノママ
タチサロウトイウノカ!」
「誰だ!お前は!?」
ジェードは辺りを見渡すが、声の主と思われるポケモンはいなかった。
「ワレヲオコラセタノダ。ソレナリノツグナイヲシテモラウ。」
「どこにいるんだ!?隠れていないで出てこい!」
「......ワレガカクレテイルダト?ワレハカクレテナドイナイ。ワレハ....ココニ
イル!ワレノナハ、ミカルゲ!ワレノナワバリヲオカスモノハユルサン!!」
声の主、ミカルゲは隠れていないと言い、ジェードに襲いかかった。
「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁ!!」
「ジェードの声が聞こえた!」
「行ってみよう!」
ジェードの叫び声が聞こえ、ヒカリ達は走った。すると、広い場所に着き、そこで
ジェードが紫色の光に包まれ、苦しそうにしていた。
「あっ!ジェード!」
「うぐ.......お前達....。」
ジェードは苦しさのあまり動けない様子だった。
「ジェ、ジェード!大丈夫!?」
「く、来るな!!」
ヒカリ達が近寄ろうとするが、ジェードに止められた。
「えっ?ど、どうして!?」
「気をつけろ!敵がいる!」
「ええっ!?ど、どこに!?」
ヒルビは困惑し、ジェードの敵がいるという声でヒカリもヒルビも周りを見渡した。
しかし、敵と思われるポケモンはどこにもいなかった。
「お前達の.....すぐ隣だ!」
「すぐ隣って........ま、まさか....。」
ジェードの声で、ヒカリもヒルビも隣にあった大きな石を見た。すると、大きな石が
突然動き始めた。
「わーーーーーーー!」
ヒルビは驚いてヒカリに掴まった。
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッ!ココニアシヲフミイレタモノハ、スベテユルサン!オマエ
タチモナ!」
「誰だ!お前は!?」
「ワレノコトカ?......ワレノナハ、ミカルゲ。108コノタマシイガガッタイシテ、
ウマレタモノダ!!」
不気味な笑い声にヒルビが聞くと、石からミカルゲが現れた。
「気をつけろ!お前達!」
「ヒッヒッヒッヒッヒッ!カクゴシロ!」
ミカルゲの言葉で、ヒカリとヒルビはすぐに戦闘態勢に構えた。
「ほうでん!」
「かえんほうしゃ!」
「あくのはどう!」
ヒカリとヒルビが先に攻撃を仕掛け、ミカルゲはその攻撃をすぐに防いだ。
「エレキボール!」
「シャドーボール!」
ヒカリが続けて攻撃を放ち、ミカルゲも攻撃を放った。その隙にヒルビはミカルゲの
背後にまわった。
「ドラゴンクロー!」
ヒルビがすぐに攻撃するが、ミカルゲはそれを避け、ミカルゲの紫の煙がヒルビを
囲もうとした。
「10万ボルト!」
嫌な予感がしたヒカリはそれを電撃で吹き飛ばした。
「ヒルビ!大丈夫?」
「うん!」
ヒカリとヒルビは互いの無事を確認した後、ミカルゲに近づいた。
「10万ボルト!」
「かえんほうしゃ!」
「あやしいかぜ!」
ヒカリとヒルビが攻撃を仕掛けるが、ミカルゲは攻撃で防いだり煙のようになって
攻撃を避けたりして、攻撃が当たらなかった。
(このままじゃ、きりがない...!なんとか突破口を見つけないと........攻撃が
当たりそうになると、煙のようになるから厄介ね.....。煙になるのを少しでも止め
られればいいんだけど......。)
ヒカリがそう思い、何か良い方法はないかと考えていたその時........
「....はどうだん!」
どこからか攻撃が飛んできて、その攻撃が地面に当たって煙が舞った。ヒカリは何が
起きたのかと思っていると、すぐ隣を光を纏ったポケモンが通った。
「ボーンラッシュ!」
「グワッ!?」
そのポケモンはミカルゲに攻撃し、ミカルゲは突然のことで動けず、攻撃を受けた。
その時には煙は消え、光も修まっていたので、そのポケモンの姿が見れた。その
ポケモンはルカリオのようだが、少し姿が変わっている気がした。そして、その
ルカリオに見覚えがあった。
「「タイガ!?」」
ヒカリとヒルビは同時に叫び、タイガはそれに頷いた。
(これって例の.......いや。今はそれよりも.....このチャンスを逃さない!電撃
の威力をいつもより上げて...!)
「ヒルビ!」
ヒカリはそれに驚いたが、すぐに気持ちを切り替え、電気をいつもより溜めてから
ヒルビに声をかけた。
「うん!かえんほうしゃ!」
「100万ボルト!」
「グワッ!?」
ヒルビはすぐに気づいて攻撃を放ち、ヒカリも攻撃を放った。ヒカリとヒルビの攻撃は
ミカルゲに直撃し、ミカルゲは弱った様子だった。
「ウグググググッ!ウググググ......ウグワアアアアアアァァーーーーーー!」
ミカルゲの叫び声と同時に地面が揺れ始めた。
「うわっ!な、何が起こるの!?」
(何かしてくるの...?)
「ウグワアアアアアアァァーーーーー!アアアアァァーーーーー!」
地面の揺れにヒルビが驚き、ヒカリは警戒した。
「ヒャ!」
しかし、ミカルゲの身体は石の中に戻り、それがきっかけでジェードを苦しめていた
紫色の光も石の中に戻った。
「ヒャ!ニ、ニゲロ〜〜〜〜〜!」
ミカルゲは石の姿のままぴょんぴょんと逃げていった。
「な、なんなの....。今のは.....。」
「さあ...。」
ヒルビとヒカリはそれを唖然と見ていた。ミカルゲが逃げていったのを見て、タイガは
元の姿に戻った。
「タイガ!大丈夫?」
「ヒカリ!ヒルビ!無事だったんだ!」
ヒカリとヒルビはタイガを心配し、タイガはヒカリとヒルビの無事にほっとした。
こんな状況だが、互いの無事を確認できて良かったと思った。