40話 残された可能性
........................
「........うーん...。」
「ヒカリ!気がついた!」
ヒカリが目を覚ますと、隣に安心した様子のルーアがいた。
「.....ルーア?....ここは?みんなは?」
「ギルドの部屋よ。ヒルビ達はギルドのみんなに今回のことを話しているから、今は
いないよ。」
「......あの後、どうなったの?」
「........ヒカリ。落ち着いて、聞いて。」
状況がよく分からないヒカリはルーアに質問ばかりし、ルーアはそれに答えていたが、
あの後のことを聞かれ、ルーアは少し悩み、落ち着いて聞くように言ってから話した。
ヒカリが気を失った後、サロファ達がエムリットを倒したこと、そして、その後すぐに
ジュプトルが現れ、時の歯車を盗んでいったこと、時の歯車が盗まれたことで地底の湖
の時が止まってしまったことを全て話した。
「.........そんな......。」
「私が来た時には既にその状況だったよ。」
ヒカリが顔を俯かせ、ルーアも表情を暗くさせていた。
「エムリットは?」
「エルサのこと?エルサなら、カルサと一緒にいるから。」
「エルサ?」
ヒカリはエムリットのことが気になって聞いてみると、ルーアからエルサという名前が
出て、ヒカリは首を傾げた。話を聞いてみると、エルサはエムリットの名前で、エルサ
とヒカリとルーアは知り合いだそうだ。戦いの時はエルサも分からなかったらしく、
記憶を失ったヒカリはしょうがないけど、エルサはなんで分からなかったのかと後で
エルサはルーアに叱られたようだ。
「まったく!カルサもエルサもどうして分からないのかな?」
「あはは...。」
ルーアがカルサとエルサに少し怒っている様子を見て、ヒカリは苦笑いした。
「ヒカリ。湖の時の歯車はもう1つあるの。」
「えっ!?」
「水晶の湖っていう場所よ。そこにもカルサとエルサのような番人がいるの。名前は
アルサ。アグノムのアルサよ。アルサはカルサとエルサに似ていて、色は青よ。
ヒカリとアルサは知り合いだから、名前を言えば分かってくれると思う。」
ルーアはヒカリにそう助言し、立ち上がった。
「ルーア。どこか行くの?」
「いくつかまだやることがあるの。今回の件、かなり厄介よ。」
「えっ?何かあったの?」
ヒカリがルーアに聞くと、ルーアは頷き、ただならない様子でそう言った。ヒカリが
ルーアに聞くと、ルーアはヒカリの耳元に顔を寄せた。
「ジュプトルの情報が1つもないのよ。」
「えっ?」
「親もどこで産まれ育ったのかも、何1つないのよ。まるで、存在していなかったか
のように.....。」
「確かに、それはおかしいよね....。」
ルーアの話にヒカリは驚き、ヒカリはルーアが厄介だと言ったことに納得した。
「...とにかく、もう一度調べてくるね。」
「うん。分かった。気をつけてね。」
「ヒカリもね。」
ヒカリにそう言い、ルーアはテレポートで部屋から去っていった。
「........!!ヒカリ!良かった!」
しばらくすると、ヒルビ達が部屋に戻り、ヒカリの無事を喜んだ。
「ルーアはどうした?」
「ルーアは調べ物があるからって、さっき行ったよ。......あの後のこともルーア
から聞いたよ.....。」
「そうか...。俺達は疲れたからもう寝るぞ。ヒカリもまだ疲れているだろう?起きた
ばかりだが、寝た方がいい。」
「うん。」
サロファとヒカリはそう話した後、サロファもヒカリも横になった。ヒルビ達もヒカリ
と話している間にベッドに横になっていた。全員、疲れているようだ。起きたばかりの
ヒカリもすぐに寝てしまった。
........................
「いや〜〜〜〜〜〜〜!本当にもうびっくり!なんと!北の砂漠の地下に湖があって、
そこに時の歯車があったとは!!」
「うん。でも、その時の歯車はジュプトルに盗まれちゃったわけだし.....ジュプトル
も捕まえることができなかった...。結局、何もできなかったのと同じだよ....。」
次の日、ヒカリ達はいつも通り起き、その朝礼でリコラが昨日ヒルビ達が報告したこと
を驚いたように言い、ヒルビは悔しそうに返した。
「そ、そんなことないでゲスよ?ジュエルはよく頑張ったでゲスよ〜〜!」
マックがそんなヒルビを励ましていた。
「ヘイ!確かに、おいらもジュエルは凄く頑張ったと思うぜ!だけどよ......残念
なのは、次につながる手がかりが残ってないんだよな。ちょっとでも何か残って
いれば良かったんだけどよう!ヘイヘイ!」
「確かに。ジュプトルが次、どこに現れるのか...全く分からないしなぁ.....。」
「尻尾を掴みかけたものの....これでまたふりだしですわね。」
弟子達は尻尾を掴みかけたが、またふりだしに戻ったことに暗い表情をしていた。
「いや。そうでもないですよ。」
「ディ、ディアノさん!」
そんな弟子達にディアノはそう言った。
「手がかりはあります。まず、きりのみずうみではユクシーが時の歯車を守っていた
そうですね?そして、地底の湖ではエムリットが時の歯車を守っていた......。」
「そ、そういえば!エルサが言ってた!エルサはきりのみずうみの時の歯車が盗まれた
ことをカルサからテレパシーで聞いたんだって。」
「なんと!」
「そうなのか!」
「やはり.....。」
ディアノの話で、ヒルビはエルサの言っていたことを思い出し、弟子達はヒルビの話に
驚き、ディアノはヒルビの話に納得した様子だった。
「これはある言い伝えがあったものなのですが...それによると、ユクシーは知識の
神、そして、エムリットは感情の神と呼ばれ、3匹で精神界を司っており、世界の
バランスを保っているとされています。」
「3匹?それはカルサとエルサ以外にもう1匹いるってこと?」
「そうです。残るはアグノム。意志の神と呼ばれています。ユクシー、エムリットは
時の歯車を守っていた...。ならば、アグノムもまた時の歯車を守っているのでは
ないかと。」
ディアノの話を聞き、ヒカリはルーアも同じことを考えて、アルサのことを教えて
くれたのかと納得した。
「そっか!アグノムのいる場所を探し出せれば、そこに時の歯車があるかもしれない
し、そこにジュプトルが現れる可能性も高いということですね!」
「そうです。ユクシー、エムリット、アグノムの3匹はそれぞれ湖に住むと言われて
います。現に、ユクシーとエムリットは湖にいました。ですので、アグノムもまた、
どこかの湖にいると思われます。ただし、ユクシーがいた湖は高台の頂上に......
そして、エムリットの湖は砂漠の地底深くというように、それぞれ普通ではない場所
に湖がありました。ですので、アグノムのいる湖も、常識を超えた場所にあるのでは
ないかと思われます。」
ルリラの声に、ディアノは頷いてそう言った。
「そっかー!普通に湖を探しちゃだめってことかー!」
「いやいやいやいやいやいやいやいや♪ディアノさんはやっぱり凄い!改めて尊敬し
ちゃいましたよ〜♪」
「そんなぁ.....。照れますよ....。」
弟子達はその話に感嘆な声を上げ、リコラはディアノを褒め、褒められたディアノは
照れた様子を見せた。
「いや。私達も尊敬しちゃっているぞ。もともと北の砂漠を調査してくれと言ったのも
ディアノさんだ。実際、北の砂漠の地下に時の歯車があったわけだから、ディアノ
さんの判断は正しかったってことになる。」
「そっか!じゃあ、私達が調べた東の森や水晶の洞窟にも、もしかしたら、まだ謎が
残されているのかもしれませんわ!」
「そうだ!」
プルトとアマラの会話で、ディアノは何かを思いついたようだ。
「マックさん。」
「へ?あっしでゲスか?あっしに何か?」
ディアノはマックに声をかけ、マックは頭に疑問符を浮かべた。
「一つ、お願いがあります。以前、貴方が拾ってきた水晶なんですが、ちょっと貸して
いただけないでしょうか?」
「ええっ!?あの水晶でゲスか!?い、いやでゲス!あれはあっしの宝物でゲス....。」
「......い、いや。別に取ったりはしないですから、ご安心ください.....。
ヒカリさん。」
ディアノの話にマックは首を横に振って嫌がった。ディアノはそんなマックにそう言う
と、今後はヒカリの方を向いた。
「ヒカリさん。貴女にマックさんの水晶を触ってみてほしいのです。」
(...!!私が.....水晶に?....あ!そういうことね!)
ディアノの話にヒカリは疑問に思ったが、すぐにディアノのやってほしいことに気が
ついた。
「もしも、水晶の洞窟に謎が残されているのならば、ヒカリさんが水晶に触れた時、
時空の叫びが発動し、何か見えるかもしれません。」
(......確かに。やってみる価値はあるかもね...。)
ディアノの話にヒカリは心の中で納得していた。
「時空の叫び?何だそれは?」
「ヒカリが持っている能力だよ。ヒカリは物に触れるとたまに、そこの過去や未来に
起こった出来事が見えたりするんだ。」
何も知らない他の弟子達は疑問に思っていると、ヒルビが代わりに答えた。
「ええ〜〜〜!?」
「そんな能力が!?ヘイヘイヘーイ!」
ヒルビの話に知らなかった弟子達全員が驚いた。
「ですので、ぜひ水晶をお借りしたいのです。どうでしょうか?」
「ううっ......そういうことなら仕方がないでゲスね。....大事に扱うでゲスよ。」
ディアノは再びマックに聞くと、マックは周りを見て渋々水晶をヒカリに渡した。
(.......この水晶から...いったい何が見えるのかな.....。みんなが注目している
......。見えるかどうか分からないけど、集中してみよう。)
ヒカリが水晶に集中していると........
「どう?ヒカリ。」
(......きた....眩暈が始まった.....)
ヒルビの声が聞こえると同時に、突然眩暈が始まり、ヒカリの目の前が真っ暗になり、
一つの閃光が通った。
『うぐぐっ....うおっ...。』
『もらっていくぞ。時の歯車を。』
『だめだ.....あれを取っては....。絶対に......。』
カルサやエルサに似た青いポケモンが倒れ、ジュプトルが時の歯車を取ろうとした
ところで終わり、ヒカリの目の前は元に戻った。
(今のは...ジュプトルが時の歯車を盗もうとしていた.....。後もう一匹別の
ポケモンがいたけど、あれがアグノム......アルサなのかな...。カルサやエルサ
に似ていたし、青色だったから...。とにかく、....この水晶からさっきの光景が
見れたってことは.....水晶の洞窟に時の歯車があるということね....。)
「ヒカリ!何か見ることができた?」
ヒカリがさっき見えた光景を整理していると、タイガから声をかけられ、ヒカリは全員
にさっき見えた光景のことを話した。
「な...なんだって〜〜〜!」
「ジュプトルが......カルサやエルサに似たポケモンを倒して.....時の歯車を
盗もうとしていただってええええ〜〜〜〜〜〜〜!?」
「きゃー!凄いですわー!」
「なんだって、そんなもんが見えちゃったんでゲスか〜!?凄過ぎでゲス〜!」
弟子達がヒカリの話に驚いた。
「ヘイ!ヒカリ!そのポケモンがアグノムかどうかは分からなかったんだよな?
ヘイヘイ!」
「名前が出て来なかったので、分かりませんでした。」
「わ、私もヒカリさんに質問が.....。ヒカリさんが見えた物は過去の物だったの
でしょうか?それとも、未来の光景だったのでしょうか?」
(!!そういえば......見えた物が過去なのか、それとも、未来なのかはいつも分から
ないのよね...。)
アズニに質問され、ヒカリは答え、ルリラの質問を聞いてさっき見えた光景が過去の物
か未来の物か分からないことに気づき、少し戸惑ったが、首を横に振った。
「そうですか....。どっちか分からないのですか。」
「なるほど...。見えた出来事が過去の物か未来の物か分からないということは、
ヒカリが見た光景は過去の物ということもあり得る。その場合はつまり......
もう既に盗まれた後のことなのかもしれんな.....。」
「ええ〜〜〜〜〜!?それじゃ、もう手遅れってこと!?」
ルリラとヒカリのやり取りを見て、プルトがそうまとめると、弟子達全員が騒ぎ
出した。
「皆さん!ちょっと待ってください!確かに、過去が見えたのかもしれませんが、未来が
見えた可能性だってあります!」
ディアノが大声を上げ、全員を落ち着かせた。
「ヒルビさん!エムリットが言ったことを思い出してほしいのですが、エムリットに
時の歯車が盗まれたことをテレパシーで教えたのは、ユクシーだとそうおっしゃった
のですよね?」
「うん.....。」
ディアノの質問に、ヒルビは答えながらタイガ達にも視線を向けた。タイガ達はその時
のことを思い出しながら静かに頷いた。
「アグノムの名前は?」
「聞いていません。アグノムの名前はディアノさんからここで初めて聞きました。」
ディアノの質問に今度はサロファが答えた。
「それなら!可能性はあります!エムリットがアグノムから教えてもらったと言うので
あれば、ヒカリさんが聞いた時空の叫びは過去の物で間違いありませんが、でも、
そうではなかった。エムリットはアグノムの名前を口にしなかったということは、
未来である可能性はあります!」
「な、なるほど...。」
ディアノの話にリコラが納得した様子だった。
「それにもう一つ。確実に言えることがあります。水晶を手にした途端、ヒカリさんは
時空の叫びを聞いた......そして、そこには時の歯車があった....ということは、
水晶の洞窟のどこかに、時の歯車の場所に通じる道があるということではない
でしょうか。」
「おおっ!そうだ!」
ディアノの話に全員がはっとした様子になり、話し合った。
「確かに、もう手遅れかもしれません。でも、間に合う可能性だってあるのです!
であれば、そう可能性にかけてみてもいいんじゃないでしょうか!」
「そうだ!その通りだぜ!ヘイヘイ!」
「他に方法もなさそうだし、かけてみるしかないな!」
「さすがディアノさんでゲス!」
「きゃー!燃えてきましたわー!」
「みんなで調べようぜ!水晶の洞窟を!」
ディアノの声に弟子達全員が賛同した。
「ディアノさん。これはもう水晶の洞窟に行くしかなさそうですね♪行きましょう♪
ギルドをあげて!水晶の洞窟へ!親方様!早速号令を!」
リコラは行き先が決まり、モルガに声をかけた。ヒカリはマックに水晶を返し、マック
は自身の場所に戻った。しかし、いくら待ってもモルガは何も言わなかった。
「親方様!.......親方様...?親方様ー!どうしたんですかー!」
「.........ぐう.....。」
「えっ?」
「......ぐうぐう...。」
リコラが何も言わないモルガの様子をおかしく思い、近づいて声をかけると、モルガ
からいびきが聞こえてきた。
「....ま、まさか......。」
「.....いや、あれはどう見ても......。」
「寝てますわね...。しかも、目を開けたままで.....。」
「きゃ、親方様ったらお茶目ですわ......ポッ....。」
「.......しかし、いつから寝ていたでゲスかねえ...。」
「もしかして.....最初からずっと寝てたんじゃ........。」
モルガのいびきを聞いた弟子達は小声で話し合った。
(ま、まずい....。このままじゃ、親方様が寝ていることがみんなにバレちゃう
よ......。ここはなんとか起こさなくては.........。)
「親方様!親方様ーーーーー!!」
「..............はっ...。」
「親方様ーーーーー!!」
リコラは他の弟子達の様子を見て焦り、モルガを必死に起こそうと大声で呼んだ。
それがあり、モルガは目を覚ましたようだ。
「リコラ!!」
「はっ!親方様!」
モルガに呼ばれ、リコラはモルガの近くに来た。
「えー。親方様。最初から説明しますと.....実は色々ありま.......」
「みんな!ジュプトルを捕まえるよ!たあーーーーーーーーーーーーー!!」
「「「「「「「「「「「「「おおーーーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」
リコラがモルガに説明しようとした時、モルガは大声を上げ、弟子達も大声でかけ声を
上げた。ただ一匹だけリコラがモルガの声に驚いて、固まっていたが......。
「行きましょう!水晶の洞窟へ!」
「どっかに謎があるはずだぜ!ヘイヘイ!」
「気合い入れて調査しようぜ!」
「私も水晶の洞窟に行きます!頑張りましょう!皆さん!」
「「「「「「「「「「「「「おおーーーーーーーーーー!!」」」」」」」」」」」」」
弟子達はそれぞれ気合いを入れ、ディアノの言葉もあり、弟子達は再びかけ声を上げ、
ギルドから出た。
「...............。」
リコラはみんなが出ていっても固まっていた。