39話 サロファの願い
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「......おい!大丈夫か!」
「大丈夫よ....。」
水が引き、俺はすぐ近くにいるエメリに声をかけると、少々弱々しい声だが元気そうな
エメリがいた。これなら大丈夫そうだ。
「ヒルビ!無事か!」
「...う..うん。なんとか.....ね...。でも......僕より.........。」
遠くの方で壁に寄りかかっているヒルビは無事のようだが、尻尾の炎に水がかかった
らしく、見るからに弱々しく、尻尾の炎が小さくなっていた。だが、ヒルビの言う
とおり、ヒルビよりも心配なのは........
「......ヒカリ!」
タイガがヒルビを壁に寄りかからせ、オレンのみを食べてからすぐに湖に飛び込んだ。
そうだ。ヒカリはみらいよちが直撃してすぐに湖の水に呑み込まれ、気を失ったまま
湖に落ちたようだ。今はタイガが湖に沈んだヒカリを引き上げようとしている。俺も
手伝いたいが.....
「じんつうりき!」
「エメリ!」
「エナジーボール!」
「つばめがえし!」
エムリットがタイガに攻撃を放ち、エメリがエムリットの攻撃を防ぎ、俺はエムリット
の注意もこっちに向けようと攻撃した。俺の攻撃はエムリットに避けられ、俺とエメリ
はエムリットと対峙した。
「タイガ!お前はヒカリを助けることに集中しろ!ヒルビ!意識があるなら、オレンのみ
をさっさと食べろ!」
「う、うん!」
俺は湖に潜っているタイガと遠くにいるヒルビに聞こえるよう大声で指示した。タイガ
は潜っているから分からないが、ヒルビは頷いてゆっくりとだがトレジャーバッグに
手を伸ばすのが見えた。
「エメリ。戦えるか?」
「ええ。それに、ヒカリの電撃とさっきの津波に捲き込まれたダメージがあっちには
あるでしょう?」
「......そうだな。だが、油断するな。」
俺がエメリに確認すると、エメリが笑みを浮かべて言い、俺はそう返した。確かに、俺
とエメリはさっきの津波のダメージがあるが、相手もそれに加え、ヒカリの電撃を受け
ている。だが、油断しない方がいい。相手は強い。
「みずのはどう!」
「はっぱカッター!」
「ねんりき!」
俺達が攻撃を放つが、エムリットに跳ね返され、俺はその跳ね返ってきた攻撃を避け、
前に進んだ。いつまでも戦っている場合ではない。早くヒカリを助けないと......。
「つばめがえし!」
俺の攻撃はまたエムリットに避けられた。まずい!このままだと長期戦になる。
「つるのムチ!」
「スピードスター!」
「きゃあ!」
「エメリ!」
エメリがエムリットの背後に近づき攻撃するが、エムリットはこれも避けて攻撃し、
エメリは至近距離だったため咄嗟に避けれず、エムリットの攻撃が当たった。
俺もエメリも焦りで動きが単調になっている....。落ち着け!........エムリットは
素早い。俺達の攻撃をすぐに避けれる。......だったら、俺達がエムリットより速く
動ければ.....エムリットが反応できないぐらい動ければ......。だが、素早さを
上げる道具もないし、でんこうせっかは使えるが、ヒカリやタイガのような速さでは
ない。ここで俺が任せている癖が悪い方向にいった。俺達は確かに互いにカバーし合っ
ているが、今回はそれは無理だ。ルーアはいないから、テレポートを使った戦法はでき
ない。ヒカリは気を失っているし、タイガはヒカリを助けようとしているから、素早さ
で撹乱できない。俺ができるのはサポートぐらいだ。
「......俺は何も変わってないんだな...。」
俺は自身に向けてため息を吐いた。俺は昔、忍という一族の1匹だった。俺は幼い頃
から忍になるための教育を受けたが、俺は忍としての才能がなかった。兄はとても優秀
だったが、俺ができるのは兄のサポートくらいだった。俺は忍よりも外の方に興味を
持っていた。忍は一つの村で仕事の時以外で外に出ることは許されなかった。仕事の時
に出る他の町での生活を見て、俺は外の世界の方に興味を持ち、劣等感があった忍を
止め、俺は村を出ていった。他の町は俺の住んでいた村と違っていて、旅をするのは
悪くなかった。そんな生活していたある日、海岸で昼寝をした時に、俺の生活が変わっ
た。昼寝をしていたら、どこからか喧嘩をしている声が聞こえた。始めは無視していた
が、次第にうるさくなり、俺はイライラして喧嘩していた奴らを殴った。そこで、
ヒルビとタイガとエメリに出会った。ヒルビ達の話で探検隊のことを知り、興味を
持った。俺はその時からヒルビ達と過ごすことになった。なかなか探検隊に入れ
なかったが、ヒルビ達と過ごすのは悪くなかった。ヒカリに出会い、探検隊に入って
依頼をこなし、ルーアとも出会い、毎日が充実していた。ヒカリとルーアが強く、
タイガもゴーストタイプ以外では次に強かった。俺はサポートが多かったが、助け
合っていたし、チームワークを感じた。俺は劣等感を感じなかった。だが、それが
いけなかった。ヒカリとルーアは強くなっていき、タイガだって努力している。ヒルビ
とエメリも成長している。俺は、それにあまえていただけだ。
「......お前が満足なら、それでいい。」
「サロファが元気でやれてるから、その道に進んだ方がいいよ。俺は止めねえから。
俺が忍をやる道に進んだように、サロファもサロファの道を進んだんだ。今の
サロファは忍の時と違って、願ったものになったんだろう?」
親父は満足ならいいと言ったが、俺は満足して甘えていた。このままではだめだ。兄は
その道を進めと言った。俺はもっと進むべきだったんだろう....。ヒカリやルーア、
タイガのように強くなりたい。ヒルビやエメリのように成長したい。今の状況を俺は
なんとかしたい。願ったことを、今できることを全力で叶えろ...!
「でんこうせっか!」
ヒカリのように速くないが、俺はエムリットに攻撃した。
「スピードスター!」
「みずのはどう!」
エムリットは俺の攻撃を避け、俺に技を放ち、俺はエムリットの技に向けて技を放って
受け止めた。技のぶつかり合いの衝撃で、俺は少し後ろに下がった。
(!.....もっと速く!.......速く!?)
俺がそう思って前に進もうとした時、俺のサファイアのペンダントが光り始め、俺は
その光に包まれた。光が修まると、俺はゲッコウガに進化していた。
(!?....これは.......ヒカリやエメリの時と同じ...。)
「みずしゅりけん!」
俺はそう思うと同時に攻撃した。さっきよりも素早さが全然違う。
「!!じんつうりき!」
俺の攻撃はエムリットに防がれた。
(......もっと強く....!)
俺がそう願うと体が光り、渦が俺を包んだ。渦は俺の背中に凝縮され、大きな水の
手裏剣に姿を変えた。それと、俺の顔周りが変化していた。今はそれよりも......。
「みずしゅりけん!」
「じんつうりき!......きゃあ!?」
俺の攻撃がエムリットの攻撃とぶつかるが、それを押しきり、エムリットに当たった。
威力が上がってる.....!
「だましうち!」
「うっ!?」
俺の攻撃はエムリットに当たり、エムリットは地面に叩きつけられた。
「スピードスター!」
「かげぶんしん!」
エムリットの攻撃を俺は回避率を上げて避けながら近づいた。
「みずしゅりけん!」
俺は背中の手裏剣に分身も力も全部込め、巨大な水の手裏剣を作った。
「なっ!?.......くっ!じんつうりき!」
エムリットはそれに驚いたが、すぐに攻撃を放った。
「かえんほうしゃ!」
「ヒルビ!」
だが、それを回復したヒルビが防いだ。
「くっ...。」
「つるのムチ!」
湖の方を向き、再び湖の水を浮かそうとしたところをエメリが止めた。逃げれないよう
にもしてくれているのだろう。
「サロファ!」
「いけ!」
ヒルビとエメリに援護され、俺は笑みを浮かべ、エムリットに巨大な水の手裏剣を
投げた。
「うわっ!?」
エムリットはそれが直撃し、地面に倒れた。俺はそれを見届け終わると同時に、姿が
元に戻った。
.......................
「ぷはっ!」
エムリットとの戦いが終わったのと同時に、タイガがヒカリを連れて陸に上がった。
ヒルビ達はタイガとヒカリに駆け寄った。
「タイガ。無事?」
「だ、大丈夫.....。エムリットは?」
「倒したから、安心しろ。それより、ヒカリは無事か?」
「気を失っているだけだから、無事と言ったら無事だよ...。」
「そう。良かった....。」
互いの無事とエムリットを倒したことに、ヒルビ達はほっとした。その時......
「うぐっ...うぐぐぐぐっ......。」
エムリットが呻き声を上げて少し宙に浮いた。ヒルビ達は驚きながらもすぐに構えた。
「でも、.....渡さない...。時の歯車だけは....。」
「だから!あたし達は時の歯車を盗みに来たわけじゃないわよ!」
エムリットの言葉に、エメリは大声で反論した。
「とぼけるな!私はユクシーからテレパシーで聞いているんだよ!きりのみずうみの
時の歯車が盗まれたことを!」
「ええ〜!?カルサから!?」
エムリットの話に、ヒルビも含め全員が驚いた。
「カルサの名前を知っているということはやはり!...あれはお前達の仕業だろう!?」
「違うよ!僕達じゃないよ!」
「じゃあ、誰だと言うの!?」
「それは多分......俺のことじゃないのかな。」
エムリットとヒルビが言い合いしていると、突然別の声が聞こえた。声が聞こえた方を
見ると、そこには手配書で見たのと同じ顔のポケモン、ジュプトルがいた。
「お前は!?」
「ジュ....ジュプトル!!」
エムリットもヒルビ達もこのタイミングで来たジュプトルに驚いていた。
「悪いが、時の歯車は頂くぞ。」
「ま、待て!」
時の歯車を盗もうとするジュプトルの前にエムリットが立ち塞がった。
「.......そこを退いてくれ。」
「い、嫌よ!時の歯車は渡さない!」
「.....ならば、仕方がない。」
道を開けないエムリットに、ジュプトルはそう声をかけるが、エムリットはそこから
動かず、ジュプトルは一瞬でエムリットの懐に近づき、攻撃した。
「うぐっ!」
「エムリット!!」
攻撃を受けたエムリットは地面に倒れた。
「お前は先程の戦いで、既に相当のダメージを負っているはずだ。無理をするな。」
「その先は行かせない!」
「時の歯車はとらせない!」
ジュプトルがそう言ってエムリットの横を通り過ぎた時、今度はヒルビとサロファが
ジュプトルの前に立ち塞がった。エメリはエムリットの近くでエムリットの様子を
見て、タイガはヒカリのそばにいた。
「.......そうか。悪いな。」
「ヒルビ!サロファ!」
「うぐっ.....。」
「は、速い...!」
ジュプトルはそう言った瞬間、ヒルビとサロファはジュプトルの攻撃を受けて、地面に
転がった。
「お前達に恨みはない。勘弁してくれ。時の歯車はもらっていくぞ!」
ジュプトルはそう言葉を残し、湖に飛び込み、時の歯車の方に泳いでいった。
「ヒルビ!サロファ!大丈夫?」
ヒカリを背負ったタイガがヒルビとサロファに近づいて声をかけた。
「ああ....。」
「うん。大丈夫...だけど....。ううっ......時の歯車が....とられちゃう...。」
「.....す、すまない...。」
ヒルビの悔しそうな声を聞き、エメリに体を支えてもらっているエムリットがヒルビ達
に謝った。
「カルサが言っていたのはお前達ではなく、あいつだったんだね......。疑って
ごめん.....。」
エムリットが頭を下げた時、周りがチカチカと光り出し、地面が揺れ始めた。
「い....いけない!!早くここから逃げなきゃ!」
「...ど、どうして?わわっ!?い、いったい何が......!?」
エムリットは地震に気づき、焦り出した。ヒルビ達はエムリットや周りの様子に
驚いていた。
「あいつが時の歯車をとったんで.....ここら辺一帯の...地底の湖の時間も
止まる!」
「ええ〜〜〜〜〜!?」
「早くしないと私達も呑まれてしまう!」
エムリットの話を聞き、ヒルビが驚いている間に時間が止まっていく。エムリットに
言われ、ヒルビ達はその場を離れるが、すぐに追いつかれそうだ。全員、ダメージと
疲労でうまく動けないようだ。全員が諦めかけたその時.........
「みんな!大丈夫?」
ルーアがヒルビ達の前にテレポートしてきた。
「ルーア!」
「ルーア!?どうして!?」
「エルサじゃない!」
ヒルビもエムリット、エルサもルーアの登場に驚いていた。ルーアがエルサの名前を
知っているので、ルーアとエルサは知り合いのようだ。
「ヒカリと連絡がとれないから、心配になって様子を見に来たんだけど....ヒカリ、
大丈夫?」
「気を失っているだけだよ。」
「えっ!?よく見たら、ヒカリじゃない!」
ルーアは事情を説明し、ヒカリの心配をした。タイガに気を失っているだけだと聞き、
ルーアはほっとし、エルサはヒカリのことを改めて見て、気がついた。どうやら、
ヒカリとも知り合いのようだ。
「ルーア!時の歯車がまた盗まれた!ここら一帯の時が止まる!俺達を逃がしてくれ!」
「!?...分かった。後で色々説明してもらうからね....!掴まって!」
サロファの話にルーアは驚いたが、すぐにそう言って頷き、外に全員をテレポート
させた。