悠久の風と輝く光 〜時の風と未来と宝石の光〜








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間章
31話 家族にとって
.......................




 その後、エメリの母とサロファの父は、エメリとサロファにそれぞれ説教をした。
 サロファの兄に聞いた話だと、サロファの家族は忍びと呼ばれる情報収集をする一族
 らしく、サロファは忍びになることを嫌がり、兄にだけ言って、家を出たらしい。
 サロファの兄はエメリの母と話していて、その話によると、エメリの母はここから遠い
 ところのギルドの親方で、エメリは親方の娘だと見られるのが嫌で家を出たらしい。
 ちなみに、エメリは置き手紙を残したらしい。つまり、サロファもエメリも、ヒルビと
 タイガ同様、家出の真っ最中だった。

 「まさか、ちゃんと許可をもらっていたのは、私とヒカリだけだったなんて.....。」

 「まあ、私もルーアが許可をもらってくれたから、私も無断ね...。」

 「無断で家出したメンバーでチームを組んじゃったね...。」

 「うん。僕達も家出したからそれに触れられないように家族のことを話したり、聞い
  たりしなかったから、僕達もサロファとエメリの家出を知らなかったよ....。」

 サロファとエメリの説教されている姿を見ながらヒカリ達はそう話していた。

 「信頼関係...ね.....。その信頼関係を試していいかしら?」

 「......どうぞ。」

 アンデュがヒカリ達に近づきながら聞き、ルーアは少し警戒しながら答えた。

 『ヒカリ、おそらくエメリとサロファの家族をここに呼んだのは、アンデュさんだと
  思う。』

 『うん。私も同じことを思ってた.........って!?ルーア、テレパシーを使えて
  たっけ?』

 『進化してからだからね...。それより、気をつけた方がいいよ。あの様子だとまた
  勝負の予感がするから。』

 『うん。分かってる。』

 ルーアがテレパシーを使ってヒカリに伝え、ヒカリは突然のテレパシーに驚き、ルーア
 とヒカリは、そのままテレパシーで会話した。

 「そうね.......。今後は借り物競争のようなものにしましょう。」

 アンデュがそう言って手を叩くと、後ろから突然誰か現れた。その姿はキュウコンの
 ように見えるが、少し違っていて、何よりも毛が白かった。

 「ごきげんよう。私はオーロラ。このアンデュの姉よ。」

 礼儀正しく挨拶し、礼をするオーロラに、ヒカリ達はワンテンポ遅れて、礼をとった。

 「私の姉は南の大陸に暮らしている。その大陸には、その大陸にしかない木の実、
  ジャポのみとレンブのみという木の実が育つ。この2つの木の実を2日以内に取って
  くることです。審判は私の姉です。ちなみに、ジャポのみもレンブのみもとても貴重
  な木の実よ。」

 アンデュは話を進め、その勢いのまま再び対決の話にした。

 「お母様、流石に無茶です。とても貴重な木の実を2日以内になんて......。」

 「それに南の大陸って、ここから行きだけで3日かかる距離なんですよ。それを
  2日でなんて........」

 「私は信頼関係を試すと言いました。ですから、2日で行けないのなら人脈で手に入れ
  なさいということです。」

 ヒルビとタイガの批判を遮り、アンデュは笑みを浮かべてそう言った。

 (...行って取ってくる時間がないなら、その期間に間に合うように他から手に入れな
  さいっていうことね......。これは信頼するポケモンが多く、その中で持っている
  ポケモンがいるかどうか。さらに、遠いところの、それもとても貴重な木の実を貰う
  には、その絆が深いかどうか.......これは難しい。2つの木の実を持っている
  ポケモンがいるか分からないし、例え持っていたとしても、とても貴重な木の実を、
  知らないポケモンになんて渡せない.....これは、そのポケモンとの信頼関係が大事
  ね。これでも難しいのに、2日以内なんてとても難しすぎる....!こういう難しい
  ことを要求して、諦めてもらおうと考えているらしいけど、諦めるわけにはいかない
  よ!だけど.......勝率はかなり低いのよね.....。)

 ヒカリは状況を整理し、どうすればいいか必死に悩んでいた。そんなヒカリの肩を、
 ルーアがつついた。

 「....うん?ルーア、どうしたの?」

 「.........ねえ、ヒカリ。さっき、南の大陸って言ってたよね?」

 「う、うん。そうだけど、南の大陸がどうしたの?」

 「......なんだろう...。運がいいということなのかな....。運も実力のうちと言う
  し...、でも、こんな偶然ってあるのね.....。」

 ヒカリが振り返ると、ルーアはひきつった笑みを浮かべてそう聞いた。ヒカリが疑問に
 思いながら答えると、ルーアは顎の辺りに手を当て、ぶつぶつと呟いていた。

 「ル、ルーア?........ルーア!」

 ヒカリはその様子に戸惑いながらも呼ぶが、ルーアは聞こえなかったのかそのままの
 状態で、ヒカリはルーアに一歩近づき、先程より大きな声でもう一度ルーアを呼んだ。

 「...あ、ごめん。ちょっとね.....。こんな偶然ってあるんだな......って思って
  いたのと....ちょっと連絡していただけだから...。」

 「......連絡?本当にどうしたの?」

 何度見ても様子がおかしいルーアに、ヒカリが疑問符を浮かべながら何度も同じことを
 聞いた。

 「いや.....心配しなくていいのよ...。むしろとても良いことで、私が動揺している
  だけだから....。それより、ジャポのみとレンブのみに関しては、なんとかなり
  そうよ。」

 「えっ?どうして?」

 ルーアの話に、ヒカリはルーアが言っていることが分からず、頭に疑問符を浮かべて
 そう聞いた。

 「それはね....姉さんと兄さんがちょうど南の大陸に仕事で行っているの......。」

 「へ...!?」

 ルーアの言葉に、ヒカリが変な声を出した。

 「.....それで、さっき姉さんに連絡したら、手に入れられそうだから、手に入れられ
  たらすぐにテレポートして来るって言ってたの......。」

 「なんともすごい偶然......凄く運が良いね...。」

 ルーアが苦笑いしながら言い、ヒカリも苦笑いしながらルーアの話に同意した。

 「....そういえば、お二人とも元気なの?」

 「うん。すごい元気....。それと、ヒカリがいない間に兄さんが........」

 「ポケモン発見!!ポケモン発見!!」

 ヒカリが話題を変えようとそう言い、ルーアがまだ苦笑いしながら答え、ヒカリに何か
 教えようとした時、ラチアが大きな声を出した。

 「誰の足形?誰の足形?」

 「足形は.........」


 スパッ!


 ラチアの声に反応してコゴムがそう言い、ラチアが答えようとした時、何か切った
 ような音が聞こえ............

 
 ズドーーーン!!


 何か重い物が落ちたような音がした。

 「な、なんだ!?」

 「て、て、鉄格子が壊されましたーーー!!」

 コゴムの驚いた声に、ラチアが震えながら大きな声で報告した。

 「な、なんだって!?」

 「敵襲ですか!?」

 「ヘイヘイ!鉄格子を壊すなんて、いったい誰なんだ!?ヘイヘイ!!」

 どうやら過去にも起きたことはなかったらしく、ギルドの弟子達は大騒ぎしていた。

 「ラチア!鉄格子を壊したのは誰なんだ!」

 「は、はい!足形は見たので分かります!鉄格子を壊したのは........」


 ダンッ!!


 慌てながらもリコラはラチアに鉄格子を壊したポケモンを聞き、ラチアが話したと同時
 に、一匹のポケモンが飛び降りてきた。

 「エルレイドです!」

 そう。飛び降りてきたのは、エルレイドだった。ラチアの言葉と鉄格子を壊した
 エルレイドが飛び降りてきたことで、その場にいた全員がそのエルレイドを警戒し、
 構えていた。だが、ルーアだけはため息を吐き、警戒もせずにエルレイドに近づいて
 いった。

 「ルーア!勝手に近づいたら.........。」

 「......はあ。」

 ヒルビがルーアを止めようとそう言うが、ルーアは気にせずエルレイドに近づき、
 エルレイドの前で腰の辺りに手を当て、大きく息を吐いた。

 「...何をしているのですか.....兄さん。」

 ルーアは不機嫌そうな顔をして言った。

 「「「「「「「「「「「「「「「に、兄さん!?」」」」」」」」」」」」」」」

 「....兄さんっていうことは...もしかして、ライドさん?」

 「そうよ。兄さんも進化したの。」

 ルーアの言葉に、ヒカリ以外の弟子達が驚き、ヒカリは特に驚かずルーアに聞き、
 ルーアはヒカリの方を向いて頷いた後、自身の兄の方を向いた。

 「......すまん。ジャポのみとレンブのみが手に入って、すぐにこっちに来たん
  だが、鉄格子で閉まっていたんで、切って中に入った。」

 「切って中に入ったじゃない!どうしてもう少し待たなかったの!少し待っていれば、
  鉄格子が開いて中に入れたのよ!」

 「すまん。待てなかった。」

 エルレイド、ライドは謝りながらルーアにジャポのみとレンブのみを渡し、ルーアは
 それを受け取りながらライドに説教した。ライドは頭を下げ、何度も謝った。

 「.....そこまでよ。ルーア、ライド、落ち着いて。」

 そんな声が聞こえ、上から別のポケモンが降りてきた。そのポケモンはサーナイト
 だが、普通のサーナイトと違い、頭が青く、体が黒かった。

 「「姉さん...。」」

 「今回はライドが悪いわ。壊した鉄格子の修理代は払っておきます。」

 ルーアとライドはその声で止まり、サーナイトはルーアとライドの様子を見た後そう
 言い、サイコキネシスで、袋をリコラの前に置いた。その袋からチャリンとポケの音が
 した。

 「......ルイさん、お久しぶりです。」

 「ふふ。元気そうね、ヒカリ。」

 「お、ヒカリか。久しぶりだな。」

 ヒカリがサーナイト、ルイに挨拶すると、ルイは笑いながら挨拶し、ライドもヒカリの
 ことに気がつき、挨拶した。

 「.........ねえ、ヒカリ。あの2匹は....?」

 「ルイさんとライドさん。ルーアのお姉さんとお兄さんなの。」

 「ルーアにお姉さんとお兄さんがいたの!?」

 「うん。今は仕事であまり会わないけどね.......。ルーア達の両親は、もういない
  からね.....。」

 ヒルビがヒカリに話しかけ、ヒカリが答えると、ヒルビが驚き(サロファ達や弟子達も
 驚いていた)、ヒカリが苦笑いしながらそう言った。

 「言われた木の実は渡したので、私達の勝ちでいいですね?」

 家族同士の話し合いが終わり、ルーアがアンデュに木の実を渡してそう言った。
 アンデュは、悔しそうに身体を震わせていた。

 「.....アンデュ、諦めなさい。貴女の負けよ。」

 「!?...そ、そんな!?この勝負は偶然......。」

 「運があの子達を見方したのよ。」

 オーロラがそう言い、アンデュは動揺しながらも何か言おうとするが、オーロラの言葉
 で黙ってしまった。

 「....貴方達の勝ちよ。私達は何もしないわ。」

 オーロラはヒカリ達の方を向いてそう言った。アンデュの顔は真っ青になっていた。
 ヒカリ達も弟子達もアンデュの様子を見て、どうしようかと考えていると、ルイが
 アンデュに近づいた。

 「.......貴女は、自分の子ども達を連れ戻そうとしたのはどうしてかしら?」

 「それは.....あの子達はやっていけないと思ったから.........。」

 「違う。貴女は危険な目にあってほしくないから、その危険から遠ざけようとした。
  だから、できないと思い込んでいる。けどね、子ども達だってやりたいと思うことが
  ある。立ち向かいたいと努力することがある。遠ざけてはいけません。」

 ルイが突然質問し、アンデュは戸惑いながらも答えると、ルイは首を横に振ってそう
 言った。

 「...貴女に何が分かるのかしら!見たところ、貴女には子どもはいなさそうだ
  けど.....。」

 「分かりますよ。子どもはいませんが、幼い頃から育てた弟と妹がいます。成長して
  いく姿を見て、成長の速さを感じています。貴女の子ども達も、ずっと昔のままじゃ
  ないです。自分の子どもの成長をちゃんと見てください!」

 アンデュがイライラした様子で怒鳴るように言うが、ルイは動じずにそう言い返した。

 「......私達からもいいかな...?」

 しばらくの沈黙が続き、エメリとサロファに説教していたエメリの母とサロファの兄と
 父がそれを破った。

 「勝手に出ていったことは許せんが、やりたいことがあるなら、そのまま続けてもいい
  と、私は思うんだが......。」

 「俺も、弟には自由でいてほしいです。縛りたくありません。」

 「私も楽しそうにしているから、止めさせないわ。ただ、たまに手紙を書いてくれたら
  いいから。」

 サロファの父と兄とエメリの母がそう言い、アンデュは動揺した。おそらく同じ考えだ
 と思っていたのだろう。

 「全てが貴女の思ったとおりになんてなりません。貴女の子ども達も貴女の思った
  とおりではありません。家族なら自分の子ども達を信じて、見送ってあげて
  ください!家族にとって、子どもの成長が大切なら尚更です!子離れしてください!」

 「.........!」

 ルイの言葉に、アンデュは目を見開いた。

 「....アンデュ。もういいじゃないか。もう認めても......。」

 「アレッド...。」

 アレッドはアンデュに近づいて優しく言い、アンデュはそう呟いて、下を向いた。

 「........そうね。」

 やがて、アンデュはそう呟き、顔を上げた。

 「私の負けよ。ヒルビもタイガも探検隊を続けていいわ。」

 「「えっ.....。」」

 アンデュがそう言い、ヒルビとタイガは間の抜けた声が聞こえた。

 「......時々手紙を書いてくれればいいわ。あと、たまにでいいから、顔を出し
  なさい。貴方達の話、楽しみにしているわ。......貴女達、ヒルビとタイガと
  これからも仲良しでいてください。」

 アンデュの言葉に、ヒカリ達はポカンとしていたが、しばらくして、頭の中で理解
 でき、ヒカリ達は顔を見合わせ、笑った。

 「「「「「「はい!」」」」」」

 ヒカリ達は笑顔で返事し、アンデュはそれに笑みを浮かべた後、アレッドと護衛達を
 連れ、帰っていった。






グラシデア ( 2020/05/17(日) 22:53 )