15話 報告
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「君達、大丈夫?君達、上から落ちてきたのよ?もう、ビックリしたわよ!」
「大丈夫です。すみません。」
しばらくして、ヒルビとタイガが起き、周りのポケモン達が、心配そうに声をかけ、
タイガが返事していた。ちなみに、ヒカリは、まだ気絶しているエメリとサロファの
様子を見ている。
「ここは、どこ?」
「ここは、温泉よ。」
「「お、温泉〜〜〜〜!?」」
ヒルビが尋ね、親切なポケモンが答えてくれた。その答えに、ヒルビとタイガは、声を
そろえて驚いた。
「そう。温泉じゃ。儂は、ディクス。ここの温泉は、肩こりによく効くんで、多くの
ポケモンが訪れるんじゃぞ。お主、地図を持っとるかの?」
突然、上から声が聞こえ、見上げると、そこには、コータス、ディクスがいた。
「地図?ああ、不思議な地図なら持っているよ。」
「広げてみなされ。......ほれ。ここが温泉の場所じゃよ。」
「...えーと...滝の場所がここだから....僕達、ここまで流されてきたんだね。」
ディクスに言われ、ヒルビは、不思議な地図を出し、広げた。ディクスは、広げられた
地図に、温泉の場所を指差し、タイガは、それを聞き、滝の場所を確認し、滝の場所と
離れたところまで流されたことに驚いていた。
「なんと!お主達、そんなところから流されてきたのか!?それは、大変じゃったのう。
温泉で、ゆっくり疲れをとってから、帰りなされ。」
「うん!そうするよ!みんな、ありがとう!」
ディクスも驚きながらも、ゆっくりするように言い、ヒルビは頷き、お礼を言った。
「ヒルビ!タイガ!エメリとサロファも起きたよ。」
「うん、分かった。」
ヒカリは、ヒルビとタイガに、エメリとサロファが起きたことを知らせ、ヒルビと
タイガは、エメリとサロファに説明しにいった。ヒカリは、その様子を見て、微笑んだ
後、空を見上げた。
(......ヒルビ達は知らないけど、あの時、誰かが助けてくれた。温泉に連れてきて
くれたのは、私達が激流に流されて、濡れてしまった体を温めるため。........
私達を助けてくれたのは、誰?)
ヒカリは、空に向かって、そう思いながら心の中で問いかけた。しかし、誰も答えず、
風が吹いていた。
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ギルド地下一階
「ふむふむ......なるほど。つまり、滝の裏には、実は、洞窟があって、そこの奥
には、大きな宝石があり、そこを押すと、仕掛けが動いて、なんと、温泉まで流され
たということ!?」
「うん。残念ながら、宝石は、とってこれなかったけどね。」
ヒカリ達は、温泉にゆっくり入り、その後、リコラに、今回のことを報告した。リコラ
が、もう一回確認すると、ヒルビは、暗い顔をして、頷いた。
「いやいやいやいやいや!!そんなことないよ!これは、大発見だよ!!」
「ほ、ほんと!?」
「本当だ♪だって、あそこの滝の裏が、洞窟になっているなんて、今まで、誰も知らな
かったわけだし♪」
「そっかあ!発見かあ!」
リコラは、羽を動かしながら言い、ヒルビは、目を輝かした。リコラとヒルビが盛り
上がっていくなか、ヒカリは、何かを考え込んでいた。
(...あの眩暈の時...あの時見たポケモンの影.....あのシルエット....あれには、
見覚えがある。......あのシルエットは、間違いない。あれは、親方様だった。
......あの滝、実は、モルガがすでに行っていたことがあるんじゃないかなと聞き
たいけど、ヒルビが嬉しそうにしているし、落ち込んでほしくないな........。
でも、あの映像のポケモンをはっきりしたい.........。)
「.....あのー、リコラ。モルガに、滝の洞窟のことと大きな宝石を押すと、仕掛けが
発動することを聞いてほしいんだけど.........」
ヒカリは、夢の中の影についてとヒルビのことを考え、言葉を選びながら、リコラに
言った。
「ん?言われなくても、報告するよ。何せ、この発見はスゴい!早く、親方様に知らせな
くてはならないからな♪」
「いや、報告や知らせじゃなくて、聞いてほしいのです。」
「?よく分からないが、そこまで言うなら、親方様に聞いてみるけど.........。」
(.........ちょっと.......また妙なやつを弟子にしちゃったのかな......?)
リコラは、報告のことだと思い、嬉しそうに言うが、ヒカリは、言い方を間違えたかな
と思いながら、もう一度言い直し、リコラは、不思議そうな顔をして、そう言いながら
内心では、そう思い込み、立ち戻っていた。
「どうしたの?」
「いやいやいやいや!!とにかく!今から、親方様のところに行ってくるから、そこで
待っているんだぞ。」
リコラの様子に、ヒルビが不思議に思い、声をかけると、リコラは、羽を動かし
ながら、慌てた様子で言い、親方様の部屋に入った。
「......急に、どうしたんだ?」
「...夢の中に出てきたポケモンのシルエットが、親方様に似ていたの。だから、
もしかしたら、親方様は、滝の洞窟に行ったことがあるんじゃないかなと思って..」
リコラが親方様の部屋に入ったのを見て、サロファが聞き、ヒカリは、夢の中のことを
簡単に説明した。しばらくして、リコラが、部屋から出てきた。
「それで、どうだった?」
「親方様に聞いたら、しばらく悩んで.....そのあと....思い出♪思い出♪
たあーーーーーーーーーーー!!...とかやって、それで...ああ!よく考えたら、
僕、行ったことあるかも!....と、おっしゃった。つまり、親方様は、滝壺の洞窟に
は、すでに行っていたみたいだな。」
ヒルビが聞くと、リコラは、モルガの様子を真似して伝えた。
「はあ〜〜そっかあ。ガッカリ...。せっかく、新しい場所を発見したと思った
のに......。こんなことだったら、モルガも、最初から言ってくれれば、良かった
のに......。」
「親方様は、妖精のような御方だからな。ワタシにも、何を考えているのか、いまいち
よく分からないのだ。まあ、今回は、残念だったな。明日から、また頑張って
くれ♪」
「ううっ......。」
ヒルビは、残念そうにため息を吐きながら、そう言った。リコラにそう言われ、ヒカリ
達は、食堂に向かった。ヒルビは、まだガッカリした様子だった。ヒカリは、ヒルビの
様子を見て、やっぱり言わない方が良かったなと思いながら、食堂の席についた。
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ヒカリ達は、食堂でご飯を食べた後、部屋に戻っていた。ヒカリは、バックの整理を
していると、滝壺の洞窟で拾った6つの小さな宝石の欠片が出てきた。
「あっ!」
「どうしたの?」
「滝壺の洞窟で、宝石の欠片を6つ拾っていたんだけど、そのことをすっかり忘れて
いたの。」
ヒカリは、思わず声を上げ、ヒルビが何事かと聞くと、ヒカリは、滝壺の洞窟で、宝石
の欠片をバックに入れていたことを話した。
「せっかくだから、窓枠に飾ってみる?」
「いいわね。この部屋、ベッドと机くらいしかなかったから、少しでも飾り気がない
とね。」
話を聞いたタイガがそう提案すると、エメリが、その提案に賛成した。ヒカリは、
タイガとエメリの話を聞いて、窓枠に6つの小さな宝石の欠片を飾った。
「今日は、なんか疲れたから、早めに寝るとするぞ。」
「うん、今日は、色々あったね。」
サロファが、ベッドに腰かけながら眠そうに言い、タイガも、そう言いながら、ベッド
に腰かけた。
「でも、僕、今日は、ガッカリもしたけど、すごく楽しかったよ!だって、僕、今回、
初めての探検で、もうワクワクドキドキだったんだよ。やっぱり、僕、探検隊に
なって良かったって思ったよ。そして、いつかは、この遺跡の欠片の秘密を解く。
それが、僕の夢なんだ。もし、本当に夢が叶ったら、...僕、もううれしすぎて、
死んじゃうかもね!」
「....はあ。......そんなに元気なんだから、死ぬわけないわ。むしろ、宇宙とか
遠くに行っちゃって、泣きながら、助けを求めると思うわよ。」
ヒルビは、まだ元気そうに言い、エメリは、ヒルビの冗談を聞き、ため息を吐きながら
そう言った。
「ハハハハハハっ!!」
「クスッ!」
「フッ!」
「みんなして、なんなんだよ!!」
エメリの言葉に、タイガが爆笑し、ヒカリがクスッと少しふきだし、サロファがそれを
想像して、笑みを浮かべた。ヒルビは、エメリの言葉とヒカリ達が笑ったことに、少し
怒ったように、口を尖らせた。
「でも、ありがとう。こうして、探検ができるのも、ヒカリのおかげだよ。ヒカリの
おかげで、滝の裏に洞窟があることが分かったし、あの時、弱虫な僕でも、あそこで
勇気が持てたのは、ヒカリとタイガ達が一緒だったからだよ。」
「確かに、滝の裏の洞窟を見つけられたのは、ヒカリの夢のおかげだね。トープの時
も..............................ん?」
ヒルビは、深呼吸を一回してから、静かにお礼を言った。タイガは、ヒルビの話に頷き
ながら、これまでのことを思い出して言っていると、突然、首を傾げた。ヒカリ達は、
不思議そうにタイガを見た。
「どうしたの?」
「.....そういえば、僕、思ったんだけど、ヒカリの眩暈が起きる時って、いつも何か
を触った時、起きている気がするんだけど.........。」
(...!言われてみれば、アイルの叫びを聞いた時は、アイルに、リンゴを手渡した時
だったし、トープの時も、トープにぶつかったときだった。そして、今回の滝壺の
洞窟の探検の時、一回目は、滝の水に触れた時、二回目は、大きな宝石を引き抜こう
としたときだった。....確かに、いずれも、何かに触れた後、あの眩暈が起こって
いる!何かに触ることで、それに関係するものが見える..そういうことなのかな。)
ヒカリがおそるおそる聞くと、タイガは、真剣な顔で言った。タイガの話を聞いて、
ヒカリも気がつき、これまでのことをふり返った。
「......俺からもいいか。俺も気がついたんだが、アイルを助けた時は、未来が見え
たが、今回は、洞窟に行ったモルガが見えた。つまり、今回は、過去に起こったこと
が見えたということだ。」
(確かに!!............)
沈黙した空気を破ったのは、サロファだった。サロファも真剣な顔で言い、ヒカリは、
サロファの言葉でそう思い、考え込んだ。
「...つまり、ヒカリは、何かに触ることで、その過去や未来が見える、そういう
特殊な能力を持っているんだよ!これって、もしかしたら、すごいことじゃない!?
ポケモンを助けたりとか、探検だけじゃなく、いろんなことに役立つ能力だよ!
これは!すごいよ!ヒカリ!!」
再び沈黙した空気を、今度は、ヒルビが破った。ヒルビの話に、エメリとサロファは、
ため息を吐き、ヒカリとタイガは、苦笑いした。ヒルビは、その様子を見て、首を
傾げた。
(確かに、そうなんだけど、でも、触ったからといって、それが自由に見えるわけじゃ
ないからね。見たい時に見れれば、もっと役に立つとは、思うんだけど........)
ヒカリが苦笑いしながらそう思っていると、リコラが部屋に入ってきた。
「おい、お前達!親方様がお呼びだ。」
リコラは、そう言うと、部屋を出ていった。ヒカリ達も、リコラのあとをついて
いった。
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「親方様。チームジュエルを連れてきました。...........?親方様......。.....
...親方様......?」
「やあ!!君達、今日は、大変だったね!でも、君達の活躍は、ちゃんと見ているから、
安心してね!」
リコラが言うが、モルガは、また反応しなかった。リコラが再び二回話しかけるが、
モルガは、やはり反応せず、リコラが近づこうとした瞬間、モルガが勢いよく振り
返った。サロファ以外は、少し驚いた。
「それで、ここからが本題なんだけど、近々遠征をする予定があるんだよ♪」
「遠征??」
「ギルドをあげて、遠くまで、探検に行くんだ。当然、ご近所を探検するのとは、
わけが違うから、準備も、それなりにしていく。ギルドの中からメンバーを
選んで、遠征するんだ。」
モルガの話の中の言葉に、ヒルビが疑問符を浮かべて聞くと、モルガの代わりに、
リコラが説明した。
「いつもなら、新弟子は、遠征メンバーに入れたりしないんだけど、でも、君達、
すごい頑張っているんじゃない!?だから、今回は、特別に、君達も、遠征メンバー
の候補に入れることにしたんだよ!」
「えっ!?本当に!!?」
「まだメンバーだと決まっていないからな。」
モルガの話に、ヒルビは、嬉しそうに言い、サロファは、その様子を見て、ため息を
吐きながら、ヒルビに忠告した。ヒルビは、サロファの言葉で、少し肩を下げた。
「そうだ。遠征までにはまだ時間がある。それまでにいい働きをしなければ、
メンバーには選ばれないからな。」
「僕は、君達なら大丈夫だと信じているよ!頑張ってね!!」
リコラの話とモルガの声援を聞いて、ヒルビの顔が、だんだん明るくなっていく。
「うん!頑張ろうね!!僕、急にドキドキしてきたよ!」
「いい働きね..................」
「とりあえず、失敗しないことを目標にした方がいいんじゃないかな。」
「そうだな。いい働きをしたとして、失敗をすれば、意味がない。」
「うん。失敗をしないように、私達ができる限りのことをしよう。」
ヒカリ達は、お互いに集まり、話し合った。ヒカリの言葉に、ヒルビ達も頷きあい、
遠征に向けて、きあいをいれた。モルガは、そんなヒカリ達の様子を見て、笑って
いた。その後、ヒカリ達は、部屋に戻り、ベッドに横になった。ヒルビ達は、もう寝息
を立てていた。ヒカリも、目を瞑りながら、今日のことを思い出していた。
(......今日は、滝壺の洞窟の探検と温泉、とても楽しかった。自分の能力について
も、色々分かった。それに、空から落ちる私達を助けて、温泉に入れてもらった時の
あの懐かしさ。......この先、何か思い出せるかな?...記憶失う前の私のこと...
...どんなことをしていたのか.........とても大切だった子も思い出せるかな?
........また、会えるかな.........?)
ヒカリは、意識が遠くなっていくなか、そう思った。その時、どこからか声が聞こえた
気がした。
『...大丈夫!また会えるよ!必ず!!』
そんな暖かい声が聞こえた気がした。ヒカリは、心の中で頷き、暖かい声の主に微笑み
ながら、意識を手放した。