54話 風は楽園を去り、妹を思う
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「おはよう!フウヤ!」
「ああ。おはよう。」
俺はいつも通りの挨拶をしながらポストの中を見た。時の歯車とジェードについて何か
情報がないかと思ったが......それらしい情報はなかった。今日は依頼を終えたら
すぐに話そうと決心しなから今日も依頼を受けに行った。
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「今日も一仕事終えたな。」
「ああ....。そうだな...。」
俺達はいつも通りに依頼を終え、パラダイス作りを進めた。それらを全て終え、俺達
は家に向かって歩いていた。家に着いたら話そう。
「.......ウェンディ...。ウォーブ.....。」
俺はウェンディとウォーブが家の中に入ってすぐに話しかけた。
「うん?」
「どうしたの?苦いものを食べたような顔をしているけど、何か悩みがあるの?」
ウォーブとウェンディは俺に呼ばれてゆっくりこっちを見た。ウォーブとウェンディは
勘がよね.....。特に、ウェンディは鋭いけどね......。
「実はな........俺は..........。」
俺は正直に全て話した。未来の人間であること、星の停止のこと、ジェードやヒカリの
こと、時の歯車のことなど全てを話した。
「「ええっ!?」」
ウェンディとウォーブは驚いていた。俺が話したことはウェンディやウォーブ達に
とって知るはずのないことだからな...。俺は2匹が落ち着くように笑っていた。
「実は、フウヤは未来から来た人間で、もうすぐこの世界に起こる星の停止を防ぐため
にタイムスリップして来たって!?」
「そして、別の大陸で時の歯車を盗んでいるポケモンはジェードと言って、フウヤと
同じ未来からポケモンで星の停止を防ぐために、時の歯車を盗んでいて、フウヤも
使命を果たすためにパラダイスを出て、その大陸に行くって〜!?」
「そ、そんな......せっかく友達になれたのに...お別れなんて.......。」
ウェンディとウォーブは多くの情報量に困惑していた。
「でも、フウヤが人間だって聞いた時から何かあると思ってたんだけど、そんな使命が
あったんだな.....。ずっと一緒にいたかったんだが....その使命があるんなら、
ここを出て行くのは仕方ないか.........。」
「うーん......色々とショックだったけど.....。それなら...。」
ウェンディとウォーブは顔を見合わせて何かを伝え合い、顔を前に向けた。
「「分かった!私(僕)達も一緒に行くよ!」」
「はああぁっ!?」
ウェンディとウォーブの言葉に俺は驚いて困惑した。はあ!?嘘だろ!?
「別の大陸にも興味あったし、星の停止が起こるとまずいんだろう?それなら、フウヤ
達だけの問題じゃないし。」
「それに、フウヤは仲間であるのと同時に友達なんだから、協力するのは当然よ。」
ウォーブとウェンディは当然のように言うが、それより気になるのは......。
「それもだけど........いや。そもそも星の停止のことをそんなにあっさり信じて
いいのか?俺が言うのもなんだが、未来の世界では星の時間全てが止まっているとか
胡散臭い話だと思うんだが.....。」
「......そんなの決まっているだろう!」
「言っているのがフウヤだから信じているのよ!」
俺がそう言うと、ウォーブとウェンディはまた当然のように言った。俺はそれを聞いて
目を見開いた。
「.........俺のことをそんなに信じてくれるのか?」
「「当たり前だ(よ)!」」
俺がもう一度聞くと、ウォーブもウェンディも迷いなく言った。ウォーブもウェンディ
も俺のことをそこまで信じてくれていたのだ。
「....ははっ。.......ありがとうな...。」
俺は笑ってウェンディとウォーブにそう言うと、俺の目から涙が溢れてきた。ここを
1匹で離れる覚悟をしていたから、ウェンディとウォーブの信じるや一緒に行くという
言葉はとても嬉しかった。
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翌朝、この話を他の仲間に話した。信じられないとか有り得ないとか言っていたが、
最終的には仲間だから、俺ならという理由で俺を信じてくれた。それから、俺達を
マグナゲートで時の歯車のある大陸に送ってくれると言ってくれて、マグナゲートの
準備をしている間に俺達も準備をし終えた。
「よし。うまく呼び終えた。」
「フウヤ。ウェンディ。ウォーブ。準備ができたわよ。」
「ありがとう。みんな、行ってくる。パラダイスをよろしくな。」
「留守番は頼んだよ。」
マグナゲートの準備も終え、俺達は見送りに来ていた仲間に言った。
「気をつけるんだぞ。」
「無茶はするなよ。」
「大丈夫。絶対に無茶しないから。フウヤ。ウォーブ。行こう。」
みんなの声を聞きながら俺達はマグナゲートの中に入った。
「ん〜。頑張るんだぬー!」
「フウヤさん!ウェンディさん!ウォーブさん!頑張って〜!」
マグナゲートが消えるまで俺達は声援を送る仲間に手を振り、俺達はマグナゲートで
転送されていった。
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「..........っていうことがあって、僕達はこの大陸に来ることができたんだ。」
「その後、マグナゲートを抜けてすぐ近くの町がこのトレジャータウンだったの。」
ヒカリ達はフウヤの今までの話とこの大陸に来たばかりの時の話を聞いていた。
「もしかして、私達がすれ違った時......。」
「ああ。ちょうどこの大陸に着いたばかりの時だ。俺達は大陸を着いてからその後に
ついて準備をしながら話していたんだ....。」
フウヤ達の話を聞き、ヒカリはフウヤ達と初めて出会った時のことを思い出した。
フウヤはヒカリの言いたいことに気づき、頷いた。
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「フウヤー。どうする?」
「そうだな......。とりあえず、ここでジェードと時の歯車のことを聞こう...!?」
ウェンディに聞かれ、俺は周りを見ながら答えていると、1匹のピカチュウが身につけ
ているある物から目が放せなかった。それは耳に着けているピンクリボンだった。俺
がヒカリにプレゼントしてから、ずっとヒカリが身につけていたあのリボンにそっくり
で、俺はそれを凝視してしまった。
「....どうした?」
「........いや。......何でもない.....。」
ウォーブの声で、俺は意識を取り戻してその場を去った。気のせいだろうと俺は自身の
心に言い聞かせていた。
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「.........で、俺達はジェードと時の歯車の話を聞いて、残りは水晶の洞窟だって
分かったんだ......。俺達は水晶の洞窟に行ってジェードと合流し、ジェードと
話してジェードの様子を離れて見ていたんだ。あの時はジェードが危なかったから
助けるために攻撃した....ごめんな.......。あの時はヒカリだと思わなくてな
.....。似たようなリボンをしているなーとは思ったけど.......。」
フウヤは初めて出会った時と水晶の湖のことを話して謝った。
「このリボンは私が人間だった時から使っていたのね...。」
「ああ。そのリボンをあげたのはフウヤだ。未来ではお洒落とかするのが難しく、
ヒカリもそういったことをできなかったから、フウヤが少しでも喜んでくれたらと
思ってそのリボンをプレゼントしたんだ。何をあげるか俺とルーアさんに相談して
用意するのも苦労した.....。」
「おい!今、それを言わなくてもいいだろう!」
ヒカリが自身の耳にあるリボンに触れながら呟き、ジェードはそのリボンのことと
その時のフウヤのことを話し、フウヤは顔を真っ赤にして怒った。その様子を見て、
ウェンディとウォーブは大笑いし、ヒカリ達も笑っていた。
「....さて。これからのことだが...俺達4匹は前にも言った通り、また時の歯車を
集めに行く。お前達はどうする?」
フウヤが落ち着くと、ジェードはヒカリ達にそう聞いた。ヒカリ達は互いに顔を
見合わせ、考えていた。
「うーん......。時の歯車を取ると、その地域の時が止まっちゃうのが気になるんだ
けど、それも一時的な物なんだよね?」
「そうだ。時限の塔に時の歯車を納めさえすれば、また元に戻る。」
タイガの質問にジェードは頷いた。
「だったら!僕達も行くよ。ジェード達と一緒に。」
「そうね...。あたしも賛成よ!」
「まあ。そうだな....。時の歯車を取ることでそこのポケモン達に迷惑をかけるが、
星の停止をくい止める方が重要だ。」
ジェードの様子を見て、ヒルビは一緒に行くと言い、エメリもサロファもそれに同意
した。ヒカリも頷いていた。
「.......ごめんね。私は別行動するね。」
ルーアが申し訳なさそうにそう言った。
「このことをアルセウス様に報告しないといけないの。......あと、少し調べたい
ことがあるから、一緒に行けそうにない。」
「分かった。じゃあ、ヒカリ達は一緒に行くことにしよう。ただ今日はもう遅い。
それに、今までずっと逃げっぱなしで疲れている。とりあえず、今日は休んで、
明日出発しよう。ルーアさんも一晩休んだ方がいい。」
「そうね。」
ルーアの話を聞き、ジェードはそれに頷き、ヒカリ達やルーアにも休むように言った。
ルーアは頷き、ヒカリ達もそれに同意した。それをきっかけにお開きとなり、ヒカリ
達は寝た。全員が疲れていたので、すぐに寝息が聞こえてきた。
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「おや?ヒルビがいないな...。」
まだ夜が明けていない頃にジェードが起きると、ヒルビの姿がなかった。
「.....ん?ジェード、どうしたんだ?」
「ヒルビがいないんだ。」
「....外にいるんじゃないか?」
ジェードの様子にフウヤも起き、ヒルビは外にいるのかと思い、ジェードとフウヤは
外に出た。外に出ると、ヒルビが崖の上から海を眺めていた。
「どうした?眠れないのか?」
「......うん。なんとなくね。」
フウヤの声にヒルビは海を眺めたまま答えた。
「ディアノのことを考えていたのか?」
「いや。違うよ。そりゃあ、裏切られたのはショックだったけど、でも、さっきの
ジェード達の話を聞いて、未来でディアノの言ってたことは....改めて本当だった
んだなって...そして、ヒカリは未来から来たんだなあって.....そんなことを
なんとなく考えていたよ......。」
ジェードの話を聞き、ヒルビは首を横に振って正直に答えた。
「あっ!見てよ!ジェード!フウヤ!朝日だ!日が昇ってきたよ!」
ヒルビが海を眺めていると、その海から太陽が顔を出してきた。
「........綺麗だね。」
「ああ...。」
「そうだな......。」
ヒルビもジェードもフウヤも朝日に見つめていた。
「今までずっと未来にいたせいか....夜が明けることがこんなにも新鮮に感じるとは
思わなかったよ。日が昇り、そして沈んでいく......。とても当たり前のことなん
だけど.....でも、その当たり前のことが実はものすごく大切だったんだね...。」
ヒルビは朝日を見ながらその有り難みを感じていた。
「俺は暗黒の世界しか知らなかったから、この世界に来て....初めて太陽を見て...
衝撃を受けた......。そして、だからこそ.....暗黒の未来を変えなくてはいけ
ないと強く思ったんだ。この思いを固めるために、俺は毎日朝日を見るようにして
いる。........今日も綺麗だ.....。」
「そういえば、ヒカリも毎日朝日を見ているけど、未来でのことを感覚だけは覚えて
いたのかも......。」
「ジェードもヒカリもか.....。俺も太陽のことは感動したし、朝日も見たいと思った
んだが....何故か朝早くに起きれなくてな...。」
「お前はなかなか早起きができないからな.......。」
「うっ!....確かにそうだが.......。」
ジェードの話を聞いて、ヒルビはヒカリが毎日朝日を見ていたことを思い出し、フウヤ
はジェードとヒカリのことを聞いてそう言うと、ジェードはそれを鼻で笑って言い、
フウヤはジェードの言葉が痛いところを刺したらしく、反論できなかった。
「ヒルビ。お前に一つ聞きたいことがある......。あの時...未来でディアルガ達に
囲まれ、絶体絶命の状況だったあの時...あの状況の中で、あの時、お前は最後まで
諦めなかった.....。俺でさえ、諦めかけたというのに....。あれはどうしてだ?
どうしてあそこまで、気持ちを強く持つことができたんだ?」
「........うーん。どうしてだろうね.....。」
ジェードの突然の質問にヒルビは少し考えた。
「僕にもよく分からないけど....でも、もしかしたら...ヒカリがそばにいてくれた
からかもしれない......。」
「ヒカリが?」
「うん。これ見てよ。」
ヒルビはそう言った後、ある物を出した。それはヒルビの宝物の遺跡の欠片だった。
「これは.......なんだ....。初めて見たな.....。この模様は...。」
「何か不思議な模様が描かれているな。」
ジェードもフウヤも遺跡の欠片を凝視してそう言った。どうやらジェードもフウヤも
遺跡の欠片の模様を初めて見たようだ。
「これは遺跡の欠片。僕の宝物で、この欠片の謎を解くことが僕の夢なんだけど....
僕、意気地なしでさ......。ギルドに弟子入りすることすらできなかったんだ。
その度にタイガは励ましてくれたけど、サロファには呆れられて、エメリには毎回
叩かれていたんだ...。僕が悪いから仕方ないんだけどさ.....。でも、そんな時に
ヒカリに出会った。ヒカリはどんな時でも僕を応援してくれた。いつも僕に勇気を
与えてくれた。僕達が一緒にいれば、どんなことだって乗り越えて行ける........
いつしかそんな風に思えるようになったんだ。だから、あの時も......僕は最後
まで諦めずに頑張れたのかもしれない.....。」
「.......なるほど。なんとなく分かる気がする。あいつにはそう思わせる何かが
あるんだ。俺達がヒカリを大切に思うように...ヒルビ達もヒカリのことが大切
なんだな。」
「...........。」
ヒルビの話を聞き、ジェードは納得した様子で頷き、フウヤは無言でヒルビを見つめて
いた。
「.....なあ。ヒルビ。」
しばらくすると、フウヤがおそるおそるヒルビに声をかけた。
「ヒカリのことで少し話したいことがあるんだ。」
「ヒカリのことで?」
「............。」
フウヤの言葉にヒルビは首を傾げ、ジェードは無言でフウヤを見つめていた。
「記憶を失う前のヒカリが俺達以外に心を開かなかったことを言っただろう?」
「う、うん。」
「それは俺達が失った仲間のことが原因なんだ。俺達を助けるためにディアノ達と
戦ってな。」
「!?」
フウヤがゆっくり話し始め、ヒルビはフウヤの話に驚愕した。
「その時の俺達はまだルーアさんやセラフィと出会っていなく、ディアノに追われても
いなかった。俺とヒカリとジェード.....そして、もう2匹のポケモンで一緒に暮ら
していた。」
フウヤは話しながら地面に座り、ジェードもフウヤの隣にゆっくりと座った。ヒルビは
少し迷ったが、ヒルビもフウヤの近くに座った。
「....あの時の俺達はあんな世界でも幸せだった。この世界と同じ...普通に食べて、
普通に遊んで、普通に寝る......時が止まっていようが、俺達は普通に暮らして
いけた.....。」
フウヤは海の向こうを眺めながら懐かしんだ様子でそう話した。
「だが、ヒカリの能力......時空の叫びのことを知ってから変わった。あの時、俺達
はいつものように遊んでいた。森に遊びに行き、ヒカリが木に触れた時、時空の叫び
を見たんだ。時空の叫びで見えたのは時が止まる前の森の光景と時の歯車だった。
時が止まる前の森と時の歯車の美しさにヒカリは目を輝かせ、俺達にそのことを興奮
して話してくれた。その会話を誰かに聞かれたのだろう....。ディアノが俺達の
ところに来た。」
フウヤの声が突然低くなった。フウヤは握った拳を強く握り、海を睨むように見て
いた。
「奴等の狙いはヒカリだった。過去と時の歯車を見たことと時空の叫びは時の歯車を
見つけられるから、ヒカリを危険だと思い、始末しに来たんだ.......。」
「俺達はヒカリを連れて逃げ出した。しかし奴等は多勢で来て、俺達を囲んだ。逃げ道
がなく、諦めかけた時、仲間の2匹がディアノ達に攻撃した。」
フウヤはその時のことを思い出し、声が震え始めると、ジェードが代わりに話し
始めた。
「.....俺達を逃がすために、敢えて囮になってくれたんだ...。」
「俺も加勢したかったが、ヒカリとフウヤを守るためにそばにいろと言われ、渋々俺達
はその2匹を残して逃げた。それ以来、あの2匹と会っていない....。」
フウヤもジェードも空を見上げて言い、ヒルビもつられて空を見上げた。
「その後、俺達はずっとディアノ達から逃げ続け、ルーアさんに助けてもらった。
ルーアさんからディアノ達がヒカリを狙う理由と星の停止のことを聞き、俺達は
ルーアさんに協力することにした。」
「ヒカリは始めはルーアさんのことを警戒していたが、ルーアさんの話と時空の叫びで
見た光景が合っていたことで、ルーアさんに率先して協力するようになった。.....
しかし、ヒカリは時空の叫びが原因で2匹の仲間を失ったことに心に深い傷を残し、
俺達とルーアさんから離れなくなり、俺達以外を警戒するようになった。」
「セラフィも始めは警戒されまくってたけど、最終的に仲良くなれてよかったな...。
まあ。俺達もヒカリを守るためにあれこれしてたしな。」
フウヤもジェードもルーアのことを話す時に少し笑みを浮かべていた。余程ルーアの
ことを信用しているようだった。
「.......大丈夫。ヒカリのことは僕達に任せて!」
「そう言ってもらえるとは....あいつは幸せだな。お前達のような友達がいて...。」
「......そうだな...。ヒルビ。.....ヒカリのことを頼んだ。」
フウヤとジェードの話を聞き、ヒルビははっきりとそう言った。ジェードとフウヤは
ヒルビの言葉を聞き、満足そうに頷いた。
「もう朝だな。そろそろ出発するか。」
「ああ。」
「うん。」
ジェードの声でヒルビ達は中に戻った。