52話 風は楽園を作る 前編
「そういえば、ウェンディとウォーブはどうして一緒にいるのかしら?」
エメリは疑問に思ったことを聞いた。
「ああ。それはな........。」
........................
「はあ?」
俺はすぐにそう声が出た。何故かって?それは......。
「はあああああああああああ!?」
俺が空から落ちているからだ。
「......えない?」
「.........かに?」
何か聞こえるが、それより、俺はこの状況をどうしたらいいんだ。
「みずでっぽう!」
そんな俺を誰かが受け止めようとして攻撃を放ってくれた。しかし、勢いを弱めること
はできても止めることはできず、フウヤは地面に頭をぶつけた。
(イテテテ!目から星が...!何も見えない....!)
俺は顔をぶつけた衝撃で目の前が真っ暗になり、頭がうまくまわらなかった。
「き、君......!大丈夫!?」
「ねえ!しっかりしてよ!ねえ!!」
そんな俺の耳に声が聞こえてきた。
(声が聞こえるが、今は何も見えない.......だが、声からして2人だな.....。
ジェードやヒカリの声じゃないな...。一体、誰だ....?おっ!だんだん見えるよう
になってきた......。この2匹のポケモンは.....ポカブとミジュマル...だった
ような.......。)
俺が目を開けると、俺のことを心配そうに見つめる2匹のポケモンの顔が見えた。
ルーアさんから教わった記憶の中からそのポケモンの名前を思い出した。
「あっ!起きた!」
「君!大丈夫!?」
(あれっ?ポカブとミジュマルってこんなに大きかったっけ......?)
2匹のポケモンに心配されているのを余所に俺は立ち上がり、2匹と視線が合って
そんなことを思ったが、すぐに気のせいだと思うことにした。
「怪我とか平気か!?」
「どこも痛くない!?ねえ!?」
「あ...ああ。.....大丈夫だ。」
(........俺、ポカブとミジュマルと同じ背丈なんじゃ....。)
2匹に心配され、俺は少し戸惑いながらも頷いた。目の前をもう一度見るが、やはり
俺と同じくらいだと確認した。しかし、俺は人間だから、俺の方が圧倒的に大きいはず
だが、この2匹と同じだ。
「......俺は縮んでいるのか...?」
俺は小声で気づいたことを、認めたくなかったことを呟いた。小さくなってしまったと
俺は思ったが、現実はそれと違っていた。
「えっ?.....うーん......ツタージャとしては...大きい方じゃないかな?」
「はっ?ツタージャ?」
その言葉に、俺は自身の体を見た。人間とは違う緑色の体に、明らかに人間とは思え
ない手と足....これは間違いない。
(俺!ポケモンになってるーーーーーーーーーー!!)
俺は内心で絶叫した。
(何かあった!?あの事故か!?......はっ!そうだ!ヒカリとジェードは........。)
俺は困惑しながら記憶を整理し、ヒカリとジェードのことを思い出した。俺はすぐに
辺りを見渡したが、俺達以外の姿は見当たらなかった。
(い、いない!?...別の場所に跳ばされたようだな。)
「良かった〜!!」
俺が考え込んでいると、2匹が俺の無事にほっとしていた。俺の行動はどう考えても
怪しいのに、2匹は俺のことを心配していた.....。この世界がどれだけ素晴らしいか
よく分かった。
「君!空から降ってきたんだよ!?怪我一つないなんて、ラッキーね。本当にびっくり
したよ!」
「空から....?ああ...。よりにもよって、空中に転送されるなんて聞いてないぞ。」
声の空からという言葉に、俺は反応して空を見上げた。俺は曖昧に頷きながら小声で
セラフィに悪態をつけた。
「私はウェンディ。」
「僕はウォーブ。君は?」
「俺は.....フウヤだ。」
2匹、ウェンディとウォーブが名乗ったから、俺も名乗った。
「フウヤって言うの。よろしくね。」
「よろしく。」
「あ、ああ。よろしく。」
ウェンディとウォーブは見ず知らずの俺に対して友好的だった。
「それで、フウヤはどこから来たの?」
「ん?さっき、空から降ってきたって言ってなかったか?」
「い、いや...!そういうことじゃなくて、ここらじゃ見かけないポケモンだから、
出身地とかどこら辺から来たのかな?って思ってさ。そりゃあ、なんで空から降って
きたのか不思議だけど、まさか空に自分の家があるとかじゃないと思うし。」
(......まあ。そうだろうな.......。参ったな....。未来から来たとか言えない
し.....空から降ってきたとか絶対不自然だし.........。)
ウェンディの質問になんとか誤魔化せるかと思ったが、やはり俺のことは気になる
らしい。とりあえず未来のことは何も言わず、曖昧に答えておこう。
「...そうだな.....。まあ、ここよりはるかに遠いところだな。......空から降っ
てきたのは....ちょっとした転送の事故.......かな?俺もよく分からないんだ。
人間からポケモンになってるし.....はっ!」
「「ええ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」」
(しまった!本音が漏れた!........うーん....咄嗟に考えて言ったけど......曖昧
過ぎて信じがたいし...つい、人間って言っちゃったし.....信用してくれなさそう
だな......。まあ。俺のことを不審に思って離れてくれれば、俺はジェードと
ヒカリを探しに行けるし....。)
いっけねぇ!未来のことを話さないように気をつけてたが、人間のことは忘れてた〜!
......あんまり俺のことを誰にも話さず、離れてくれたらいいが........。
「.......うん!分かった!」
「僕達、信じるよ!」
(ええっ!?あっさり!?嘘だろ!?この世界のポケモンってこんなすぐに信用する
のか!?)
あっさり信じると言ったウェンディとウォーブに俺は驚いた。こんなこと、普通は
信じねえだろう!?過去の世界はこういう話も信じられるのか!?
「...そんなにあっさり信じていいのか?」
「確かに、フウヤの言うことは不思議だよ。人間なんておとぎ話の中でしか出て来ない
と思ってたし.....その人間がポケモンになって、空から降ってくるのもありえない
と思うし......。」
「でも....私達はこう思うの。世の中にはまだまだ不思議なことがたくさんある...。
そして、実はそれは不思議なものでもなんでもなくて.....私達自身が知らない
から、不思議だと感じるだけじゃないかって......。」
(へえ〜........この世界にはそんな風に思うポケモンがいるんだな...。未来では
そんな凄い素直で柔らかい考えをする奴はもういないと思うな.....。この2匹、
未来の話をしても、信じてくれそうだな......。けど............。)
俺はいったん気持ちを落ち着かせてから聞くと、ウォーブとウェンディは自身の考えを
話した。その話を聞き、俺はウォーブとウェンディの考え方に関心した。
「私達はもっといろんなことを知りたいし見てみたい!今まで見たこともない幻の
ポケモンにも会ってみたいし!遺跡や洞窟も探検したいし!いろんな冒険をして
みたい!冒険家になりたいの!」
「そのために、僕達は旅をしてやっとここまで.......。」
「「あっ!」」
「ど、どうした!?」
ウェンディとウォーブが嬉々して話していたが、突然何かを思い出したように声を
上げた。
「そうだ!いけない!大事な用があるんだった!」
「急がないと!けど、この先で苦戦しそうな気がする......。どうしたら........。
そうだ!フウヤ!お願い!一緒にこの先に行ってくれない?私達の旅も目的の場所まで
あと少しなんだけど、急がないと間に合わないかもしれないし...不安なの!」
「はあ!?」
ウォーブとウェンディは慌て出し、俺に一緒に来るように言った。俺は驚いた。
「ああもう時間がない!」
「お願い!つき合って!」
「お、おい!ちょっ!」
俺の返事も待たず、ウォーブとウェンディに押され、俺は連れてかれた。
...........................
「はあはあ.....やった!やっと来れた!」
「やっと抜けたよ!フウヤのおかげだよ!本当にありがとう!」
ウォーブとウェンディの様子だともうすぐのようだ。それにしても......ポケモンに
なったからには、もう少し強くなるか...。前は人間で道具を使うしか方法がなかった
から、ポケモンの方が戦いやすい。
「さあ、早く行かなくちゃ!手紙には確かこっちだって書いてあったはず!」
「それじゃ、行こうか!」
「俺もついて行くのかよ!」
ウェンディとウォーブに引っ張られ、俺達は荒地が広がっている場所に着いた。その前
にヌオーというポケモンが立っていた。
「よ、良かった。間に合った....。はあはあ......。」
「ん〜、わしはここら辺の管理をしている者だぬ。」
「もしかして、ヌシらかぬ?ウェンディとウォーブというのは?」
「うん。」
「そうよ。」
ヌオーの確認に、ウォーブとウェンディが頷いた。
「おお、やっぱり!遠くから遥々ご苦労様だぬ!んで、わしも待った甲斐があっただぬ。
ここに1匹でずっとぼおーっと立ってたんだがぬ...あまりにも暇だったんで、もう
帰ろうかと思ってたところだぬ。」
ヌオーの話を聞き、ウェンディとウォーブは間に合って良かったと思っていた。
「まあ。でも.......ん〜、本当に良いのかぬ?こんなに荒れているし、何もない
ところだぬし.....何より、ここらは不思議のダンジョン化が進んでいて、何が
起こるか分からぬ土地だぬよ?」
「うん。むしろ、それを望んでいるんだ。」
「お金も持ってきたよ。」
「ん〜、後悔しないだぬ?ん〜じゃほれ、権利書。」
ヌオーの確認にウォーブとウェンディは頷いてそう言い、ウェンディがお金を渡し、
ヌオーから権利書を受け取った。
「今日からこの土地はヌシらの物だからぬ。自由に使っていいからぬ。」
ヌオーはそう言うと、俺の横を通り、どこかに行った。
「「や.....やったああああああ!!!今日からここが......僕(私)達の楽園だ
あああーーーーーーーーーー!!」」
「うわあ!?」
「「あ...。」」
ヌオーが見えなくなり、ウェンディとウォーブが大声で叫んだ。俺の驚く声で
ウェンディとウォーブは正気を取り戻し、俺の方を見た。
「勝手に盛り上がってごめんね....。私達、さっきいろんなものを知りたいし、
冒険家になりたい!って言ってよね。」
「その夢を実現するための場所がここなんだ。」
「夢?見たところ、周りには荒地しかないけど...。」
ウェンディとウォーブに言われて周りを見たが、荒地が広がっているだけで、冒険家に
関係あるものや夢を実現できる場所とは思えなかった。
「私達の夢.....それは私達の楽園、ポケモンパラダイスを作ること。」
「ポケモンパラダイス?」
ウェンディの聞き覚えのない言葉に俺は首を傾げた。
「うん。ここを夢の楽園にするんだ。ここらは不思議のダンジョン化が進んでいて、
何が起こるか分からない土地なんだ。だから、それを嫌がるポケモンも多いんだ
けど、逆にわくわくするような冒険も起きると思うんだ。」
「ここからいろんな冒険をして、仲間も集めて、みんなで力を合わせて暮らせる....
そんなみんなが心が踊るような生活ができる.....まるで、楽園のような場所を
作りたい!それが私達の夢なのよ!」
「そのためにお金を貯めて、今やっと買ったところなんだ。まあ。他はあまりに高すぎ
て、ここを買うしかなかったというのもあるけど、ここが僕達の夢のスタート地点に
なるんだ!」
(夢か〜...。ウェンディとウォーブにはそんな夢があるんだ。夢っていいよなー。
未来では追われる方が多かったから、俺にはそんな明るい夢はなかったな。目的は
あったが......。みんなが力を合わせて暮らせる....心踊るような生活.....
か......。聞いてるだけでほっこりするな...。)
目を輝かして話すウェンディとウォーブの話を聞き、俺はそう思っていた。未来では
そんな明るい夢を抱けるような世界じゃないし、力を合わせるのような関係も少なかっ
たし、心踊るような生活も難しかったな.....。
「それで、フウヤはこれからどうするんだ?どこか行く宛があるのか?」
「ん?そうだな........。」
(言われてみたら......ヒカリとジェードとははぐれたようだし、ここがどこか、
時の歯車がある場所からどのぐらいの距離かも分からないからな.....。
とりあえず、情報を集めるしかないか....。)
ウォーブの質問にフウヤはすっかり忘れていたことを思い出し、そう考え込んだ。
「行くところがないならお願い。ポケモンパラダイスを作るのを、フウヤにも手伝って
もらえないかな?2匹だけじゃできることも限られるし、これから仲間も少しずつ
増やそうと思っていたの。」
「えっ?」
(.......会ったばかりの俺を誘うのか.....この世界は平和だったんだな...。
だからこそ、星の停止をくい止めないと......だが、やみくもに行くのはだめだ。
行く宛もないし、しばらくはこの2匹と一緒にいて、情報を集めるしかないか。何か
分かったら、話をして出て行こう....。よし。)
ウェンディの誘いに俺は驚いたが、すぐに冷静に考えて決心した。
「ああ。いいぞ。」
「本当か!?」
「本当に手伝ってくれるの!?」
「ああ。何度も言わせるな。」
「「やったあーーーーーーーーーーーー!!ありがとう!!」」
俺の返事を聞き、ウォーブとウェンディはすっごく喜んでいた。
...そんなにか.......。
「今日から私達は友達!そして、仲間よ!よろしくね!」
「ああ。よろしく。」
「私、絶対頑張る!」
「頑張るぞーーーーーー!!」
張りきっているウェンディとウォーブの様子を俺は少し微笑ましく見ていた。
「フウヤ!今は何もないところだけど、ここが!こここそが!僕達3匹の楽園だああぁ!」
「「おおーーーー!」」
俺達の掛け声が辺りに響いた。これが俺の新しい.....楽園作りをする生活の始まり
だった。