51話 元の世界
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「.........うっ...うーん......。」
波の音が聞こえ、ヒカリは目を覚ました。太陽がヒカリ達を照し、近くで波が揺れて
いる。
「.....こ、ここって.......ヒルビ達と初めて出会った....あの浜辺...元の世界
に戻れたのね。」
ヒカリは元の世界に戻れたことにほっとしていた。
「......うーん。」
「...あれ.....ここは....。前にヒカリと出会った浜辺のような.......。」
「どうやら....元の世界に戻って来れたようだね......。」
ヒカリが起きたことをきっかけに、ヒルビ達も目が覚めた。ヒルビ達は元の世界に
戻ったことに喜び、安心していた。
「やっぱり!やったー!やったね!」
「うるさい!」
ヒルビは喜び過ぎて、寝起きで不機嫌のサロファに殴られ、ヒカリ達はそれを苦笑い
して見ていた。
「うう........。」
その騒ぎでジェードやフウヤ達も目を覚ました。
「あっ!ジェード!フウヤ!ウェンディ!ウォーブ!ねえ、見てよ!僕達、帰って来れた
んだよ!元の世界に!」
「そ、そうなのか......。」
「来れたんだな....。俺達は...またこの世界に.....。ウェンディ!ウォーブ!
嬉しいのは分かるが.........。」
「ええーーー!?」
「だって、ね?」
ヒルビの話を聞き、ジェードはそうかと言って黙り、ウェンディとウォーブは飛び
まわるほど喜び、フウヤは少し安心した様子を見せた後、はしゃいでいるウェンディと
ウォーブを注意した。ウェンディとウォーブは不満そうだったが、大人しくした。
「うん!ここはヒカリと僕達が初めて出会った場所なんだ。」
「えーと........この辺かな。ちょうどここら辺にヒカリが倒れてたんだよ?」
「懐かしいわね...。」
「そうだね。」
ヒルビがそう話し、タイガがヒカリが倒れてた場所を指さした。エメリとヒカリはそれ
を見て、出会った時のことを思い出し、懐かしんでいた。
「....そうだったのか。俺がタイムスリップで着いたのは東の森で、フウヤがタイム
スリップで着いたのは別の大陸だったから、俺達は大分離ればなれになってしまった
んだな.....。」
「確かに遠いな.....。」
ジェードの話を聞き、サロファは確かに遠いと頷いた。
「そうだ!そのタイムスリップのことを含めて分からないことがまだたくさんある
から、色々話を聞かせてよ。でも、ここで話すのはなんだから、プクリンのギルド
に言って話そうか?僕達、そこに住み込みで修行していたし、ちょうどいいかも。
じゃあ。行こう。プクリンのギルドに。」
「ちょっと待て。そのギルドは俺が行っても大丈夫なのか?俺はこの世界ではお尋ね者
だ。俺がそのギルドに行ったら、みんな驚いて...俺のことをまた捕まえようとする
んじゃないのか?」
「ううっ、言われてみればそうだったよね....。どうしよう.....。」
話を落ち着いて聞きたいからとヒルビがギルドに行こうと言うが、ジェードにお尋ね者
になっていたことを聞き、ヒルビはどうしようかと悩んだ。
「......それなら、あそこはどうだ?」
「そうよ!良い場所があったじゃない!」
「確かに、あそこなら大丈夫かもしれない。...ただ、トレジャータウンを通らないと
いけないんだけど.....。」
「見つからないように隠れながら通れば問題ないだろう。案内してくれ。」
サロファのあそこという言葉に、エメリとタイガは賛成した。ヒカリとルーアはどこの
ことか分からず、首を傾げていた。
「分かった。こっちだよ。」
ヒルビ達を先頭に、ヒカリはその場所に向かって歩いた。
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「この崖はサメハダ岩って呼ばれているんだけど....。」
「サメハダ岩?」
「岩の形がサメハダーというポケモンに似ているから、そう呼ばれているそうだ。」
ヒカリ達はトレジャータウンを過ぎて、一番奥の崖に着いた。タイガとサロファに
サメハダ岩について聞いている間、ヒルビとエメリは大量に葉っぱがある場所を見て
いた。
「とりあえず、見た目は変わっていなさそうよ。」
「うん。」
エメリとヒルビは互いに頷き合った後、その葉っぱを退かした。すると、大きな穴が
現れた。
「この下だよ。僕達、ギルドに入る前はここに住み着いていたんだよ。さあ。中に
入って。」
ヒルビに言われ、ヒカリ達はその穴の中に入った。
「なるほど。崖の中にこんな空洞があったのか。」
「海が見えるし、とても良い場所ね。」
「そうね。とても良い景色ね。」
「まるで秘密基地みたい。」
「「確かに。」」
ジェードはこの空洞に関心し、ヒカリとルーアはここから見える景色を眺め、
ウェンディは秘密基地みたいだと言い、フウヤとウォーブはそれに同意した。
「良かった。誰にも荒らされていない。」
「ここは目立たないから、しばらくここにいた方がいい。」
「そうだな。」
タイガとサロファが確認した後、ここにいることを決めた。
「それなら、ベッドを出さないと.....。」
「そっちじゃないわよ!あんたはどうして毎回間違えるのよ!」
「はあ...。」
「「「あはは....。」」」
ヒルビとエメリのやり取りにサロファはため息を吐き、ヒカリとルーアとタイガは
苦笑いしていた。
「大変そうだな。」
「賑やかで私は良いと思う。」
「僕も。」
「ウェンディとウォーブは気楽だな.....。」
その様子を見て、ジェードは呆れた様子でヒルビとエメリを見て、ウェンディと
ウォーブは楽しそうだと言い、フウヤはウェンディとウォーブの気楽さにため息を
吐いた。
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「しかし、ヒカリ。まさかお前があのヒカリだったとはな......。何故かルーアさん
と一緒にいるし....ルーアさんも探検隊になって........。」
夜になり、ヒカリ達は焚き火を囲むように座り、話していた。ジェードはヒカリと
ルーアを見ながらそう呟いた。
「詳しく話してよ。ジェード。フウヤ。」
「俺とフウヤとヒカリとルーアさんは星の停止について一緒に調査していたんだ。」
「ポケモンと人間のペアで?」
ヒルビを聞くと、ジェードは静かに話し始めた。
「そうだ。俺とヒカリは双子の兄妹だが、妹のヒカリには兄の俺も誰も持っていない
特別な能力を持っていた。その特別な能力が星の停止を調査するために、ある重要な
役割を似なっていた。」
「特別な能力って......時空の叫びのことだよね?」
「その通りだ。ただ、時空の叫びには問題があった。時空の叫びは信頼できる
パートナーポケモンが一緒にいないと発動しないのだ。」
「信頼できる......パートナー...。」
フウヤがヒカリを見ながら話し出し、ヒルビの質問にも答えていた。ヒカリは信頼
できるパートナーという言葉を小声で復唱していた。
「だから、俺達は一緒に行動したのだ。時空の叫びは時の歯車が存在する場所に反応
して起こる。俺達は過去の世界での時の歯車がどこにあるのかを探るために、時空の
叫びを使ったのだ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!時空の叫びは信頼できるパートナーが必要だって言ってた
けど、僕達が出会って間もない頃も時空の叫びは起きてたよ?」
話すのがジェードに代わった時、ヒルビは慌てて聞いた。
「何を言う。それだけお前達が初めから信頼しあっていたということじゃないのか?」
「うっ.....そんなストレートに言われちゃうと、ちょっと恥ずかしいけど....。」
ジェードは不思議そうに言い、ヒルビは少し恥ずかそうにしていた。それはヒカリ達も
同じだ。
「それに、ヒカリは記憶を無くしていた。頼る者がいない時にエメリ達と出会って、
ヒカリの信頼もより深くなったんじゃないか。あの世界では俺とジェードとセラフィ
とルーアさんくらいしか心を開いてなかったし。」
「えっ?前の私はそんな感じだったのですか?」
ジェードの話を聞き、ヒカリは思わず聞いた。
「...ああ。ヒカリが時空の叫びで偶然にも時の歯車の場所を見つけて、ディアノ達に
追われるようになったこととちょっとした出来事があって、ヒカリは心を許した人や
ポケモン以外には警戒して近づこうとしなかったな。」
「よく俺やフウヤやルーアさんの後ろに隠れていたな。今のヒカリはそうなる前の
ヒカリに似ているな。」
「確かに。」
ジェードとフウヤはそう話した後、懐かしそうにヒカリを見た。ヒカリや今のヒカリを
知っているヒルビ達は信じられないなと思っていた。
「俺からもいいか?時空の叫びは時の歯車に反応して起こるのか?」
サロファが話題を戻すためにジェードに聞いた。
「そうだ。逆に、時の歯車のない場所では、時空の叫びは発動しない。」
「それはおかしいよ。ヒカリ。アイルの時とか、初めて探検に行った時とか....他
にも明らかに時の歯車と関係ない場所でも、時空の叫びが聞こえたことはあった
よね?」
「う、うん...。」
ジェードの話にタイガはおかしいと言ってヒカリに確認し、ヒカリは少し戸惑いながら
も思い返して頷いた。
「そうなのか.....。未来では時の歯車に関係ない場所で時空の叫びが発動したことは
なかった。」
「.......もしかすると、この世界で発動する時空の叫びは...またちょっと性質が
違うのかもしれない。」
フウヤとジェードは悩んだ様子でそう話し合っていた。
(未来では時の歯車に関係ないところでは発動しない........!もしかして、未来
世界で時空の叫び使おうとした時、何も見えなかったのは未来だったから、時の歯車
とは関係ない場所だったから、時空の叫びも聞こえなかったのかもしれない....。
ジェードの言う通り、未来と今の世界とでは.....時空の叫びの性質も変わって
しまうのかもしれない...。)
ヒカリはフウヤとジェードの話を聞き、未来の世界のことも思い出して、そうなのでは
と思っていた。
「....とにかく。俺達は星の停止について調査を続けた。そして、この世界にある
時の歯車の場所を、未来から時空の叫びを使って探し出したのだ。」
「そうやって、俺達はこの世界で時の歯車がある場所を突き止めた後、時の回廊を
渡り、未来からこの世界へ向かったんだけど.........。」
『......うおっ!だ、大丈夫か!?』
『う、うん....。』
『は、離してはだめだ!もう少し.....なんとか頑張るんだ!』
『だ、だめだ....。このままだと......。』
『ジェード!フウヤ!危ない!』
『『ヒカリ!!』』
「タイムスリップ中に事故があり、俺達は離ればなれになってしまったのだ。」
「ヒカリと俺がポケモンになったのはその事故が原因だろう....。ヒカリは記憶も
無くしたが、それはその事故の時に受けたダメージじゃないのかと思う。ヒカリは
あの時、俺達を庇ったからな......。」
「なるほど。ヒカリが一時期、時空の叫びを後遺症で使えなくなってきたんだけど、
原因はその事故だったのね。」
ジェードとフウヤの事故の話を聞き、ルーアは納得した様子を見せた。
(.......私は未来からやって来た...。しかも、星の停止をくい止める使命まで
持って......なんかまだ実感が湧かない.....。)
「ヒカリ。」
ヒカリが考え込んでいると、ヒカリを呼ぶ声が聞こえ、ヒカリは意識をそちらに
戻した。
「今のお前は覚えてないかもしれないが、俺はお前の親友だった。離ればなれになった
後、とても心配したが、元気で良かった。」
「例え姿が変わり、記憶を無くしても、ヒカリはヒカリだ。俺の血を分けた妹なのは
変わらない。覚えていないと思うが、またフウヤやお兄ちゃんって呼んでいい。」
「俺もお前と友達なのは変わらない。また会えて良かった。」
「..........。」
ジェードとフウヤの言葉にヒカリはジェードとフウヤを見つめて笑った。ジェードと
フウヤも笑っていた。
「それより、フウヤ。お兄ちゃんとまた呼んでほしいって素直に言わないとな。」
「うるさい!」
からかったウォーブの言葉にフウヤは顔を真っ赤にして怒り、周りから笑い声が
響いた。