ジャンケンは知っているか?
次の日、僕はアランさんについて行き、戦場にやってきた。鳥が爆弾を身につけ自ら突っ込み、人型のポケモンが斧を振り回す。草木の色をしたポケモンが大樹を地面から生やし相手を串刺しにし、戦場を赤い血で染めていく。まさに戦争だった。今回の目的は予知道具所有者を倒すこと。
「彼女の名前はメル・スレン。千人のポケモンが見る未来を予知できます。まぁ、簡単に言えば君の無差別に予知する日記の上位交換版ですかね。恐らく……」
その時、ガタイのいいポケモンが襲い掛かってきた。アランさんは背中から大きい剣を引き抜き、相手の体を切り裂くと……
「こちらの行動も筒抜けでしょう。」
刹那、視界が鮮血で埋まっていく。至近距離で切り裂いたのにアランさんは返り血を浴びていない。
「行きましょう。彼女はこちらから手を出さなければ手は加えない筈です。それに、仲間が捕まってますから。今回は交換条件で仲間を助けてもらうんです。」
着いたのは大きなお屋敷。警備員らしき人は青い制服を来ている。結構な数が居そうだ。アランさんはそれを無視し、屋敷の奥に進んでいく。
「スレン。僕ですよ。仲間が御世話になったようで」
「……アラン?もっと……近づいて?良く見えないわ?」
彼女の部屋は、まるで牢屋だった。そして灯りが小さな蝋燭のみ。とはいえ、鉄格子と蝋燭という状況とはいえ、十分な距離だった。それなのに目が見えないという事は……
「彼が転生少年ね?お顔を拝借させてもらってもいいかしら?」
「ええ。ウキ、こっちに来て下さい。」
「あら、貴方が他人の名前を覚えているなんて、珍しいわね?」
フフフ、と彼女は笑った。手帳で確認するとペロリームと言う種族だということが判明。ただ、右目を眼帯で隠している。
「それで?グリムは何処ですか?」
「心配しなくても下にいるわよ。見つけて手当てしてあげたんだからお礼の一つや二つ、あってもいいんじゃ無いかしら?」
「そうですね……有難うございます。」
「そんな事より……彼以外にも予知道具所有者を捕まえてあるのよ。ロン君の能力の対象者かしら?」
?ロンさんに能力?この二人が異次元で話しているみたいで嫌気が指してきた頃……
「いえ、彼の現在の対象者は僕だけですよ?」
「あら、なら本物の所有者ね。丁重におもてなししない……」
その時、巨大な爆発音が聞こえた。屋敷で家事が起こったのだ。
「あら、敵襲かしら。」
「めんどくさいですねぇ。……一時休戦、同盟といきますか?」
「ええ。この鉄格子、切ってくださいな。」
その言葉を聞くとアランさんは不敵な笑みを浮かべた後、大剣で鉄格子を切り裂いた。
消火活動に当たりながら、彼女は巻物をとりだした。
「わたしの巻物は『千里眼』の力を持ってるの。もっと正確に言えば……千人の警備員からの報告を予知する巻物よ。」
そう言うと彼女は巻物を開いた。
ゴース 裏口に不審者発見
「裏口はあちらよ。行きましょう。」
なる程ね。これが予知道具トップクラスの情報量。
ゴースト 倉庫に不審者発見
「あら?倉庫は裏口の反対側の筈よ?」
「侵入者が二人ってことですか?」
「いいえウキ君。違うみたいよ。巻物を見てご覧なさい」
ゲンガー 便所に敵発見
ヨノワール 武器庫に敵発見
サマヨール 寝室に敵発見
「これは……?」
「恐らく警備員が催眠術で操られているのね。これでは予知も効かないわ。」
「ー♪〜♪」
「何してやがる」
「まぁ、グリム君。君はジャンケンは知っているか?」
馬鹿にされていることをふつふつと感じつつ「当り前だろう。馬鹿め」と答えると
「単純な話だよ……君の逃走予知は千里を見渡す彼女には効かない。グーはチョキには勝てない。ただ……千里を見渡す彼女の目を操る俺の催眠術は最強って事!」
イカレテやがる。
さぁ、混沌に飲まれなさい。ウキよ……