第6話 本当の旅のはじまり
シルバーと一戦交えた後、僕とリナは、ワカバタウンに戻ってきていた。
「ここがワカバタウンかぁー風が気もちよくていいところだねー 」
リナが大きく伸びをする。ワカバタウンは、海が近いのもあって風を感じられる。それを気に入ってもらえたのはちょっとうれしい。
「ここに来るのは初めてなんだよね? 」
「うん。ホウエン地方からヨシノシティに引っ越してから、他の町には行ってなかったからさー 」
「そうなんだ。あっ、早く研究所に行かないと。行くよ! 」
僕は、研究所があるほうに走っていった。
「あっ、待ってよ! 」
リナも僕に続いて走りだした。
「ウツギ博士!何があったんですか? 」
僕は、問い詰めるように尋ねた。
「エイトくん、戻ってきてくれたんだね。実は、さっきこの研究所のワニノコが盗まれたんだ! 」
何だって!
僕は思わず目を見開いたが、すぐに心当たりが浮かんで落ち着く。これは、どう考えてもあのシルバーと名乗った少年の仕業だ。
「博士、僕たちワニノコを連れた少年をみたんです 」
「なんだって!本当かいエイトくん 」
「私、そいつと戦いました! 」
リナがいきなり会話に参入する。
おいおい、博士が相手なんだからもう少し言葉づかいを考えようよ。"そいつ"なんてさ。気持ちはわかるけれど。
「おや?キミはいったい 」
「ウツギ博士はじめまして。私、リナっていいます。この前、ホウエン地方からヨシノシティに引っ越してきました。今はエイトくんと一緒に旅をすることになりました 」
僕の前では"エイト"と呼び捨てで呼ぶようになっているが、博士の前だからか"エイトくん"と呼んでいるのかな。
「ホウエンから来たリナちゃんだね。はじめまして。ところでキミはワニノコを連れていた少年と戦ったって言ったよね 」
「はい。そうです! 」
「彼の名前はわかるかい? 」
「……シルバー 」
リナが答えるよりも先に僕の口が開いた。
「その少年、シルバーというんだね 」
「「はい!」」
僕たちは声を揃えて言う。
「特徴はわかるかい? 」
「真っ赤な髪をしていて目付きが悪いんヤツなんですよ! 」
リナが、指をつかって自身の目をつり上げた状態にしながら答えた。
顔真似が意外と似ていたため、僕は思わず笑いそうになったが、それをこらえる。
「わかったよ。二人ともありがとう 」
ウツギ博士の感謝の言葉を聞いた直後、僕は本来の目的を思いだした。
「ウツギ博士、例のポケモンのタマゴを預かってきました。でも、ポケモンじいさんという方は不在だったのですけどね 」
「あっ、そうだったね。お使いご苦労様。こちらに渡してくれるかい? 」
「はい 」
僕はリュックから預かっていたタマゴをとりだし、ウツギ博士に手渡した。
「そうだ、キミたち、よかったらこれを受け取ってくれないかな? 」
ウツギ博士は、受け取ったタマゴをデスクに置き、近くにあった引き出しの中から小型の機械を二人分もってきた。
「これって、もしかして…… 」
「そう、これはポケモン図鑑。もちろんエイトくんたちも知っているよね?しかも、なんと最新式だよ 」
ええっ?ちょっと待てよ。ポケモン図鑑といえば、選ばれたトレーナーだけがもらえる代物なんじゃ……。
「僕なんかがもらっていいものなんですか? 」
僕は、ポケモン図鑑をもらえることをとても信じられず、思わず謙遜する。
「ボクはキミたちにお願いしたいんだ。やってくれるよね? 」
博士からそんな風に言われたら断るわけにもいかない。それに、ポケモン図鑑がもらえるなんて夢のようなことでもある。ならば、もちろん……
「ありがとうございます。ぜひ図鑑を下さい! 」
僕は声を明らめ、はつらつとした表情をした。
「あのー。エイトはともかく私ももらってもいいんですか? 」
リナは、遠慮がちに話しかけた。なんだかおどおどした様子である。
「それなら心配ないよ。何日か前にホウエンのオダマキ博士から連絡があってね、ポケモン図鑑を渡しそびれた女の子がジョウトに引っ越していったから、その子に会ったらボクのほうからわたしてもらえないかといわれてたんだ 」
なるほど。その女の子がリナだったわけか。
「そうだったんですか!ありがとうございます! 」
リナはにこやかな表情をし、すぐに図鑑を受け取った。
「確か、エイトくんはジョウトのジムを巡るんだったよね 」
「はい、もちろんそのつもりです! 」
そう。僕は、ジムバッジを八個集めてポケモンリーグに出場するのが目標だ。
「それなら、ボクはここから一番近いキキョウシティに行くことをすすめるよ。キミだったらきっと大丈夫だと思うからね 」
「博士、アドバイスありがとうございます。キキョウシティを目指そうと思います 」
これで、僕たちの行き先は"キキョウシティ"に決まった。
「ウツギ博士、本当にありがとうございました。では、そろそろ出発します 」
「私もはじめてでしたけど、ありがとうございました 」
僕たちは、ウツギ博士に感謝の気持ちを込めてお礼をいった。
「いってらっしゃい。エイトくん!リナちゃん!精一杯頑張るんだよ 」
「「はい、頑張ってきます!! 」」
こうして、僕たちの本当の旅がはじまった。
でも、このときはまだ知らなかった。僕たちが、ジョウト地方全体を巻き込む大事件に関わることになるということを。