第四章
奴≠フ人間観
 ふっふっふっふっふ…………!
 いよいよ貴様も()ちるときがきたな。この者とちがって、貴様ごときの力など我にとっては害悪でしかない。あちらの世界での未練は(つい)えたのだろう。2つの世界を行き来するなど、はじめから無理であったのだ。己のことを夢と現実をつなぐ架け橋≠ニ抜かした貴様のきれいごと。笑止千万(しょうしせんばん)であった。

 言ったであろう。貴様は無能なのだ、と。やさしさだけで世界を救えるというなら、これまで生きてきた者の過半(かはん)が英雄の称号をほしいままにしたであろう。
 だがそんなものを手にしたところで、喜ぶのは自己のおこないに満足したその者だけだ。他者の心を癒しているように映るが、実際はやさしさを提供した己自身が底なしの快楽の沼におぼれているだけにすぎない。それはやさしさとはいえない。甘えというのだ。

 貴様はこの者を愛した。だが愛したからこそ弱くなった。己のことを慕う者がそばにいてくれさえすれば、己は強くなれる。その気持ちにうそいつわりはないであろう。が、見事なまでの詭弁(きべん)ではある。
 自分ひとりで生きていく自信がないから、誰かに依存することで弱さを一時的になくしているのだ。人間は絶対的な強さで民衆を支配し、弱き者を己の糧として亡きものにするというが、真に強い存在が弱き者をくじくであろうか。それが絶対的強者のなせる(わざ)なのか。
 ……(いや)、それは断じてちがう。支配慾はその者の弱さから生ずる。その者のもつ(マイナス)のイメージをごまかすために、金色(きんいろ)鍍金(メッキ)をさしたにすぎぬ。けっして強くはないのだ。
 愛の力は偉大である、か。みずからが弱くなることを(たっと)ぶというのか。人間はおもしろい存在だ。そして、唾棄(だき)すべき存在だ。

野村煌星 ( 2015/03/07(土) 10:32 )