chapter7 [401号室]
「それは駄目だ 戦場では常に生き延びることを考えろ
諦めた奴から死んでいって その死と敗北は連鎖する」
『私は 死ぬつもりも負けるつもりもありません でも…あの時みたいなのはもうイヤなんです だから…』
そんなことを頼まれても困るだけだ
ヴァレットのその台詞で喜ぶのは管理局の奴らくらいのものだろう
「あの時危険な目に遭ったのは 俺じゃなくお前なんだよサナ
俺はお前にとっての優先順位なんかどうでもいい 目の前でお前が倒れるところなんて見たくない
だからお前が何と言おうが 助けるさ」
サーナイトは寄りかかっていた身体を起こして 目元を拭った
『…いけませんね私 昔とは変わったつもりだったのに…
私は マスターと共に戦います マスターと一緒に生きたいです だけど』
『マスターのために死ぬなんて馬鹿なことはしません』
サーナイトは 少しぎこちなく笑った
「電灯を換えたら今日はもう休もう…」
急な任務からようやく解放されて 二人は深い眠りについた
………
…サーナイトと出会ったのは十年前の雨の日だった
いや、あの時はまだキルリアか
学校からの帰り道を歩いていたら うちのほうから気味の悪い雄叫びと
破壊の音、宙を舞う鉄骨と 傘を投げ出して逃げ惑う人々の群れに出くわした
その化け物は屋根の上に跳び上がり 俺は初めてキマイラというものを目撃した
毛むくじゃらの化け物は人間の頭部を喰っていた
キマイラなんて幼稚な都市伝説だと 小ばかにしていた気持ちはその悪夢のような現実に砕かれた
「…母さん…?」
母の死体は 呆然としていた俺の見ている間に 原型がわからないほどに斬り裂かれていった
犠牲者は28名 最後に喰われたのが俺の母親だった
人の血にまみれ 怒り狂ったように暴れ回るキマイラに 俺は見つかってしまった
両者の間にあった距離など ほんの数秒で意味を失い 真っ赤に血走った化け物の目が
俺に殺意を向けたその時だった
『伏せてっ!』
頭の中に直接 声が、メッセージが伝わってきたような感覚がした
次の瞬間、 キマイラは数十メートル先の塀に叩きつけられ
小柄な緑のポケモンが 化け物から俺を守るように
冷たい雨にうたれながら立っていた