第一章
chapter2 [トバリシティ 地下水路]
青年は自分の不注意を呪った 
早くに気付いていればサーナイトが
今 目の前で苦しんでいることもなかったというのに

胸の赤い器官を捩じるように押さえつけられて
そのたびに彼女は悲鳴をあげる …これでは反撃しようにも技が使えない

『マスターの力なら…こいつを倒せるはずです…私を助けようなんて
 思わなくていいですから…』


「…そんなことができるか」

…どうする…この化け物はサーナイトを人質にして逃亡するつもりなのか
ここで取り逃せばまたキマイラによる犠牲者が出てしまう
立ち回りを誤ればサナが死ぬ――…

俺の優秀な上司は きっと一切の迷いなく選択してしまうんだろうな
だが…その選択は

その時 ナナの声が直接聞こえてきた 
いつもの落ち着いた口調だったが 声が微かに震えていた

『状況はサーナイトのテレパシーで大方把握したよ レン、通信が使えるうちに敢えて言うぞ
 ポケモンは人質にはならない 今回の任務はその化け物の始末だ
 ……生きて帰ってこい でないと許さないからな』

つくづく彼女らしい台詞だ と青年は思った
それは優先順位に律儀に従って生きてきた者の言葉だ

ベトベトンのキマイラは溶けかかった口を大きく開けて笑った

「順番…私は順番にお前たちを喰います
 私はこのサーナイトを人質にしようとは思いません なぜなら彼女の次に死ぬのはお前だからです」

「へえ、言葉が喋れるとは驚いた しかし直訳したみたいな話し方だな
 ……!お前なにを」

『マス…ター 私に構わず…に…
ベトベトンのキマイラは腕をサーナイトの口の中に押し込み毒を流し込んだ
彼女の顔は熱に浮かされたように赤くなり 汗を流しながら震えはじめた

「この化け物め…サナが死ぬ前にお前を殺す」

だがレナードが攻撃に移るよりも
硬化した鋭利な腕がサーナイトの首元にあてられるほうが早かった

「止まってください
 もしもお前がわずかでも動いたら私はサーナイトの首を刎ねます
 それは私にとって残念なことです
 私はお前たちのことをまったく許しません
 サーナイトは私の毒を長く味わいながら死ぬ必要があります
 お前はそれを何もすることができずに見て待っていてください
 お前たちに可能な限り痛みを与えることはとても大切です」


「……。」

青年とサーナイトの目が合った 毒のせいでテレパシーも使えなくなっていたが
それでも 二人はようやくこの状況に 勝ち筋を見出した


緑茶 ( 2016/01/13(水) 20:12 )