chapter14 [ズイタウン]
ジークから降りた黒髪の青年は 倒壊した家々を注意深く見まわした
「……いたぞ まだ生きてる」
足を怪我してうずくまっていた少年はレナードたちを見て驚いた
「あんたらは グランドレイクの人たちか…助けに来てくれたのか…?」
包帯を取り出したナナがこくりとうなずく
ほんの少しだけ少年の表情に落ち着きが戻ったように見えた
「傷口は浅いぞ たいした怪我じゃない
それで、ほかに生存者はいるのか キマイラはどこだ」
一瞬で少年の顔は青ざめ ナナの腕をつかんだまま涙を流した
「ダメだ…あの化け物に近づいちゃダメだ
あいつは長い髪の毛で一瞬で父さんと村長の首を刎ねた…人間の勝てる相手じゃない
みんな…みんなが青い触手に殺されたんだ…あんたらも死んじまうよ」
青い瞳はまばたき一つせず 無表情のまま彼女は少年の頬に平手打ちをかました
「何人死んだか どれほどの脅威かなんてどうでもいい
何人生きている 奴はどこだ 知らないならそう言ってくれ」
相変わらずこの人は容赦がないな 傷心してる子どもに平手打ちとは
まあ少なくとも手加減はしているか
「化け物は ついさっき 十分くらい前に…ズイの遺跡の中に戻っていった
二十人くらいが生きたまま捕まって…連れていかれた
オレの母さんも まだ生きてる…かもしれない…」
三人が振りむいた先には 月の明かりに照らされた巨大な建造物があった
「遺跡の内部とは厄介なところに巣を作ったものだ だが連れ去られた者たちがいるなら
行くしかないだろう 村の怪我人たちはあいつらに任せればいい」
エンジンの音が次々と近づいてくる
アルバートの指さした方向からは 救助車が向かってきていた
「本当に…あの遺跡の中に入るのか…化け物がいるのに…?」
レナードは少年のその一言を聞いて 彼の前にしゃがみこんだ
「それがグランドレイクの役目だ もうキマイラのせいで誰かが悲しむのなんて
見たくなかったんだが…すまない遅くなってしまって」
時は一刻を争う 相手がどれほどの化け物だろうと戦って倒す以外の道はない
湿った夜風に吹かれながら 青年はモンスターボールを握りしめた
遺跡の中では モンジャラの少女が赤く汚れた触手を拭っていた
「…ジンを見た人間はちゃんと全部死んでくれてるといいのだけれど
あとはわたくしが彼らと戦うだけ…さて次に殺されにくるのは誰かしら」
流れる地下水で血と泥のついたブーツと黒い肌を洗い
化け物は音もなく 階段を上がっていった