chapter13 [トバリシティ]
グランドレイクという企業がポケモンリーグに代わる新たな政府として
急速に発展できたのは 各都市に存在していた有力者…財閥や巨大な研究機関が
「キマイラから人々を守る」という大義のもとに傘下に収まったためである
今やシンオウを牛耳る大企業でありながら 一枚岩ではない、
どころか最低限の統率しかとれないほどに 各支部は独自の権力を有していた
グランドレイク トバリ支部は報酬の為なら何をするかわからない金の亡者の集まりだった
金の為なら何でもする連中の集まりという表現のほうが適切かもしれないが
レナードらがズイタウンに向かっている頃
真紅の髪の女性 シェリー・ウォルコットは普段と変わらず酒を飲んでいた
「隊長、本部から電話です」
「はいよー 夜中に仕事の電話とか 本部は働き者だねー」
紅色の三つ編みのおさげを揺らしながら シェリーは電話のほうまで歩いて行った
受話器から聞こえてきたのは 生真面目そうな淡々とした口調の若い女性の声だった
「夜分遅くに失礼します グランドレイク本部 副隊長 メアリー・グレイナーです
今回…」
「おお メアちゃん久しぶりー いいお酒があるんだけどさ 今度飲みに来ない?」
「メアちゃんって…また随分飲んでるみたいですね…現在ズイタウンにキマイラが出現し
住民たちが襲われ 多数の死者が出ているのをご存知ですか」
電話の向こうの深刻な空気など気にする様子もなく
シェリーはお猪口の酒を飲みほした
「聞いてるよー なかなか強いみたいねそいつ」
「トバリ部隊が送ったのはたいして実力もない末端の戦闘員ばかり…
まともな対応を要請しても 報酬に文句を言いだす始末
貴女方はあの村で死人が出ているというのに何をしているんですか」
「何をって 呑気にお酒を飲んでるよー キマイラがどれだけ人を殺そうと
お姉さんたちは別に何とも思わないからね まあなんていうかさ、
アタシらを動かすにはあの額じゃちょっと足りないかな せめて…」
商談に持ち込もうとした台詞は 途中でメアリーに遮られた
「モンジャラの化け物が暴れるこの夜に 平気な顔で酒を飲む…
面倒な人たちですね お金のことしか頭にないんですから」
「あはは もっとお金もらえるなら話は別だったのにね
キマイラが暴れて 人が死に みんなが泣きながらアタシらにすがりつく
そんな地獄で笑って酒を飲み交わすのが グランドレイク トバリ部隊だよー」
実力のある者だけが金と地位を手にし能力のなかった者はグランドレイクの保護のもと搾取される
それが 金儲けとギャンブルと戦いが大好きなトバリシティの人々がつくり上げた社会だった
「キマイラは金儲けの道具ですか…こちらとしてもあれ以上の金額は用意できません
ヨスガ部隊のほうからも 戦闘員が向かっていますが たった三人では…」
「んー…エドウィンの判断で送った三人なら勝てると思うよ
一人の戦闘員も死なずにね あいつはそういうやり方だから
こっちから戦力を補充する必要も無さそうね」
「待ちなさい それ以前に弱者を食い物にする貴女方のやり方は
おじい…社長の考えるグランドレイクの理念に反するものであり だいたい――
「それじゃメアちゃん おじいちゃんによろしくねー」
にこやかな笑顔と共に 会話は終わった
「さあて 飲みなおすか」
背中を反らして伸びをしたあと 彼女は宴会の席に戻っていった