第一章
chapter12 [209番道路]
ジークとは グランドレイクの戦闘員たちを
森や沼地 岩山に雪原へと迅速に送り届けるために開発された
四輪駆動の自動車である

特殊なサスペンションが悪路をものともしない走行を可能としているが
乗り心地は快適とは言い難いつくりになっている

淹れたばかりのコーヒーを飲みあげる暇もなく呼び出された黒髪の青年は
遠ざかっていくヨスガシティの灯りを憂鬱な気分で眺めていた

「…なんでこんな真夜中に ズイタウンに向かってるんだろうな 俺らは」

レナードの愚痴に続けて 隣で運転しているアルバートは言った

「まったくだ オレはさっきまで寝ていたはずなんだがな
 随分と素敵なゆりかごを用意してくれたものだ 何のための交代制だ
 夜勤の奴らに向かわせればいいものを」

とはいえ夜勤の戦闘員は 街の警備が主な仕事で 戦闘経験の浅いものが多い
後ろの座席で揺られながら髪を拭いているナナは いつもより険しい表情だった

「敵は人語を話すようだ それも流暢に 見た目こそ触手の生えた異形だが
 体型は人間の少女そっくりらしい 要するに普段の敵とはレベルが違う」

いかにも隊長らしい指示だ とレナードは思った
前線で戦う者の数は最小限に抑え 救護班と共に向かわせる…
ジークの後方には 数十台もの救護車の列が続いている

「犠牲を出さないようにか…信頼されたもんだな
 それで、トバリの奴らは何をしてるんだ
 まさかこの状況で 俺らに任せて傍観するつもりじゃないだろうな」

外を眺めていたナナはため息をついた
「…シェリー・ウォルコットの性格を知っているか
 報酬のために戦う キマイラを金儲けの道具にしてる守銭奴だぞ
 金にならない戦いはしない…形だけ戦闘員数人を送って終わりだろうよ」

「どうしたレナード 戦闘員三人のみで戦いに挑むのが怖くなったか」

「ああ、怖いな 化け物がいるところに飛び込んでいくのは
 だが今頃 人がその化け物に殺されてるんだ…
 化け物を殺せる人間が行くしかないだろう」

…と、出る前にサナに言ったのとほとんど同じ台詞を言ってしまった

「私にも恐怖は常にある それでもキマイラを倒すのが今の私の務めだ
 取るべき行動は何も変わらない アルはこの任務が怖くはないのか」

「怖くないわけがないだろう だがここで死ぬつもりはない
 敵を殺して生き延びて その繰り返しだ…さて、見えてきたぞズイタウンが」

「これは……遅かったのか」

車から降りた三人の前には 炎に包まれて燃えていく村があった


緑茶 ( 2016/01/26(火) 16:13 )