chapter11 [ズイタウン]
その日の夜 遺跡に寄り添うようにして存在する小さな村で
悲劇が起きた 人も牛も馬も死に 辺り一面は血の色に染まっていった
「化け物…化け物め…だからオレは反対したんだ
なにが討伐隊だ あっさり全滅しやがって 手を出してはいけなかったんだ…」
青ざめた顔で大慌てで逃げ出した男は 背後から触手のようなもので貫かれ絶命した
倒壊し燃えていく家々の炎に照らされて 異様な姿の女性は静かに微笑んでいた
「青く長い髪に…黒い肌…この化け物はモンジャラか」
「まあ…一目で当てるとはよい観察眼をお持ちなのですね
ですが静かに暮らしていただけの わたくしたちを化け物だと言って
殺しにくるというのはあんまりではないでしょうか」
長い髪が目にも止まらぬ速さで動き また一人の命が奪われる
漆黒の肌の少女はいかにも困ったような仕草をして続けた
「弟が討伐隊とやらに目をつけられたからこうなってしまった
そのことについては申し訳なく思っているのですけれど
こうなってしまった以上 わたくしたちはあなた方を殺すしかないのです」
「まあすぐに終わりますから どうか目をつむっていてくださいな」
落ち着いた口調のあとに また一人 三人 五人と死んでゆく
その直後 発砲音が鳴り響き 彼女は背後から数十発の弾丸を浴びせられて倒れた
だが 引き裂かれた黒い身体はすぐに再生をはじめ
キマイラの少女は涼しい顔で起き上がり 後ろを振り返った
「…鉛玉でも 存外痛いものですね やはりここは鉄砲を所持している方から
片づけるとしましょうか…」
都会から離れた小さな村で 逃げ遅れた人々の断末魔が絶えず響いていた
……
…
[007号室]
ナナが温かい湯船につかって五分と経たないときに 電話が鳴った
こんな時間にグランドレイクの回線からかかってくるとは 嫌な予感しかしないな
「緊急時以外に入浴の時間に電話するのはよして…ってエドウィン隊長…」
「すまんな だが今がその緊急時だ ズイタウンに戦闘能力の極めて高いキマイラが現れた
君に討伐を依頼したい 引き受けてくれるならこのまま作戦内容の説明に移るが」
別の任務で遠くへ行っている者と負傷した戦闘員の数を思い返しただけで
事態の深刻さは容易に想像がついた
「了解した 湯冷めしない程度に手短に頼むよ」
せっかく部屋が片付いてあとは寝るだけだと思っていたのに…
彼女はボールからルカリオを出して 出撃の準備をするよう指示したのだが
『…ったく いつまでその格好でいる気だよ』
荷物より先に手渡されたのは衣服のほうだった