chapter8 [401号室]
土砂降りになった雨の中で彼女は戦い続けた
だが いくらサイケ光線を浴びせても キマイラの動きは止まらない
毛むくじゃらの化け物は 目の前の小さなポケモンを
何度も何度も 褐色の拳で叩き潰した
…水たまりは真っ赤に染まり とうとう彼女は
立ち上がることができなくなった
化け物は 逃げ遅れた人々が大勢残っているビルを見つけて目をギラつかせている
『ま…だ… 私はまだ戦えます キマイラを 倒さなきゃ…』
俺は 血を流しながら弱々しくサイケ光線を放つキルリアに驚いた
敵わない敵を相手に なぜ戦い続けられるのかが わからなかった
キマイラは鬱陶しそうに鼻息を荒げ 彼女にとどめを刺そうとした その時…
灰色の空に銃声が響き 化け物は倒れた
「オコリザルのキマイラ一匹が 社会の平穏を台無しにする…
まったく 嫌な世の中だ」
振り向くとそこには 背の高い茶髪の男性、グランドレイク ヨスガ部隊長
エドウィン・ブレムナーの姿があった
「訓練所から飛び出してキマイラに立ち向かうとは 勇敢なキルリアだ…ゆっくりお休み
震えがっていた無能な教官たちには私から一言 言っておくとしよう」
命を救ってもらった礼も言えないまま キルリアとエドウィンは立ち去り
戦いの傷跡が残った町には 清掃と修復作業のため 大勢の作業員が集まった
妹のリアンは 母の死を ただ茫然とした様子で聞いていた
…
………もうあれから十年が経つのか
『マスター もう朝ですよ 休みだからっていい加減起きないと』
あの日から全てが変わってしまった
リアンには大反対されたが 学校を辞めてグランドレイクに入った
父は病気で亡くなった 母はキマイラに殺された だから俺が稼ぐしかなかった
形だけの面接で簡単に入社できて 給料も気味が悪いほどに良かった
この時の選択が正しかったのかどうかはよくわからないが 一つ言えることは
『…起きてますよねマスター 朝ごはん作ってあげませんよ』
「昨日買ったシュカバターがある 今朝はトーストにしよう」
サーナイトは当時よりも 楽しそうに笑うようになった