04 雪原の老木
いったい私は何のために戦っているのだろう
何のためにポケモンを 人間を殺しているのだろう
十年が過ぎてとうとう戦争が起きた
長い間 膠着状態にあった両国は
それぞれが大層な正義を掲げて 重火器と軍人を前線に送った
この時代はポケモンも重要な戦力と見なされていた
キュウコンの日照りから展開される灼熱の攻めは 敵の得意とする戦術であり
それを妨害できるユキノオーは当然のごとく 戦地に向かわされることとなったのだ
「こんなことに いったい何の意味があるというのだ
始める前から結果はわかっていたはずだ」
条約を破棄して攻め込んできた彼らの国は すでに財政が崩壊しかけているような状態だった
雪に覆われた国境付近の山岳地帯では 疲弊しきった敵兵が 次々に倒れていく
「彼らが降伏しないのならば 私は彼らを殺さなければならない
私はもう 誰の命も潰したくはないのに」
焼け焦げた瓦礫の側に 傷だらけのグレイシアの少年を見つけてしまった
敵に戦う力が残されていないのは一目でわかった
グレイシアはただ怯えた目で私を見ている
こんなことはもう うんざりだった
「頼むから…私の目の前から消えてくれ 雪に隠れてひたすら西へ西へと逃げてくれ」
若いグレイシアは その一言にハッとして 体毛の色を雪と同化させた
「『奴らを生き物と思うな 敵は始末しろ』…か こんな地獄は私には耐えられない」
腹から絞り出すようなその台詞が終わらないうちに グレイシアは急所を狙撃されて倒れた
反射的に私が後方を振り返ると まったく気配のなかった細い木の影から
白いコートを羽織った 栗色の髪の少女が現れた
「何を言ってるのユキノオー 敵はちゃんと生きてるよ …今死なせちゃったけど」
驚きのあまり 声が出なかった
髪は長くなり 容姿も変わっていたが そこにはいたのは あの時の少女だった
「久し振り…十年振りくらい、かな」
少女は静かに 悲しげに笑った