03 雪原の老木
月日は流れ 少女は私の言葉がわかるようになった
裕福な家庭で育った彼女は 思いやりのある優しい子だと
周りの人たちからそんな風に思われていた
おそらく彼女の両親を含めて
「お母さんたち帰って来ないね ユキノオー
夕方には戻るって言ってたのにもう真っ暗だよ」
少女は暇そうに絵を描いていた
私がポフィンを食べ終えて 横になろうとしたとき
窓の外からかすかに物音が聞こえた
「…? 今向こうから何か聞こえなかったか?」
「お父さんとお母さんが帰ってきたみたい ちょっと鍵を開けてくるね」
少女が階段を下りたとき 窓ガラスが割れる音と 見知らぬ男の奇声が聞こえた
強盗か あるいは薬物中毒者か このままでは彼女の命が危ないと
大急ぎで私が現場に駆け付けたとき
銃声が室内に響き そこには刃物を持った男が血まみれで倒れていて
少女は気味が悪いほどに落ち着いた表情で 強盗の頭部に最後の一撃を放った
「……なんだ これは お前が、やったのか」
少女は安堵のため息をついて言った
「この人がいきなり窓を割って入ってきて ナイフで私を切ろうとしてきたの
人を撃つのは初めてだったけど ちゃんと仕留められて良かった…」
その後少女とどんなやり取りをしたのか よく覚えていない
ただ 私は困惑していた
いくら相手が危険人物だったとはいえ
人を殺したことにまったく動じていない彼女が 恐ろしかった
床に倒れている死体を見ながら 少女は困った顔をしている
「お母さんたちが帰ってきたらなんて言おうか」
その後、少女の両親は 娘のたどたどしい説明を聞かされて 気を失いかけた
銃弾で命を落とした男は 薬物でおかしくなっていたらしい
少女は町の警察に連れていかれたものの 正当防衛ということで罪には問われなかったようだ
彼女が帰ってきた日 私は恐怖心に駆られて逃げだした
「危険を始末するのは当然で そうしなければ私が死んでいた」
何の抵抗もなくそう言い切れる 栗色の髪の少女が怖ろしかった
吹雪の中、氷の洞窟へと向かっていく私を 彼女が呼び止めることはなかった