02 雪原の老木
「…なんだお前 ここは子どもが一人で来るような場所じゃないぞ」
見たところモンスターボールも持っていないじゃないか
人間に敵意を持っているものもいるのに 危機感のない奴だ
少女は 恐る恐る私の方に近づいてきた
帰れと言っているのに…
「おもしろーい 凍ってるのにあったかい」
よくわからんが 懐かれてしまったらしい
はじめは片手で触ってくるだけだったのに 私が動かないのをいいことに
いつの間にか白い体毛に顔まで埋めている
「このまま引っ付いていられても困るし 洞窟の奥に行かれるのもまずいしなあ…」
仕方がないので小柄な身体をひょいと持ち上げて 洞窟の外まで連れ出してやった
急に運び出されて こいつはびっくりしたようだが
敵意がないとわかると途端に調子に乗って 「あっち!」とすぐ近くの村を指さした
「たいした距離じゃないだろ 自分で歩け」
なぜ私がわざわざこいつを家まで送り届けてやらねばならんのだ
ぽい、と雪の降り積もったところに放り投げてやろうとしたとき
何か嫌な気配を感じた 雪景色に紛れて フリージオが漂っている
正直 奴らは何を考えているのかよくわからない
水分を凍らせて身体を補強したあとに 人やポケモンの魂を喰らうという噂もある
…たいした距離じゃなかったので 私は少女を家まで送り届けてやった
私の姿を見たこいつの両親は 驚きのあまりしばらく固まっていた
ゆっくりと肩から少女をおろしてやった私に 両親は何度もお礼を言ってきた
早口でなんと言ってるのかさっぱりだったが
少女は私のほうを指さした
「氷の洞窟でね ポケモン捕まえたの!」
おい待て、いつ私がお前のポケモンになったというんだ
モンスターボールすら持っていないくせに
するとそいつはモコモコのセーターからボールを1個取り出した
「ていっ」
私は初めてモンスターボールの中に入る経験をした
まったく窮屈でないのは意外だったものの さっさと出てやろうとした その時
地面に転がったモンスターボールに向かって
必死にお祈りをしている彼女の姿が見えて 私は笑ってしまった
つまらなかったら立ち去ればいい しかしこの時私は初めて
面白そうな人間を見つけた
「カチリ」とボールの閉まる音がした