01 雪原の老木
空は青く澄み渡り 大地は白い雪で覆われていた
私は陽の光を浴びて静かに目を開け
老いた身体をどうにか動かして 張り付いた氷柱を振り落とした
もはや私の姿は 遠目からは枯れかけた樹にしか見えないだろう
足から伸びた根は私を大地に縛り付け 濁った眼では純白の世界もぼやけて見える
ユキノオーは自分の命がもう長くないことを知っていた
今日は物珍しそうに寄って来ては 昔話をせがんでくるユキカブリもいない
どこにも行けない老人はゆっくりと昔のことを思いだして 今日を過ごすことにした
百年以上生きてきたが トレーナーのポケモンになったのは たった一度だけだった
あの栗色の髪の少女 名前は忘れてしまったが
彼女と過ごした わずかの時は楽しかった
ただ 二人はあまりにも違い過ぎた
最後に交わした会話を 私は今でも夢に見る
「…今朝は冷えるな…」
乾いた雪が風に舞っている
私があの少女と出会った日も こんな景色だった そんな気がする
あの頃の…今でもだが私は人間が嫌いだった
どうも人間と言うのは縄張りやその土地に生きるものたちのルールを
理解することができない生き物らしく
我が物顔で木を切り倒し 土を削って道をつくり川をつくる
さらにはモンスターボールという道具を発明し
我々の仲間を襲い力で屈服させて従えてしまう
ろくでもない奴らだ
その日は洞窟の中に聞きなれない足音が響いていた
次第にこちらに近づいてくるので私は白いため息をついた
「また人間がこの洞窟まで迷い込んだか
ここは私たちの住処だ とっとと消えてもらおう 目障りだ」
人間に言葉が通じないのは知っていたがそれでも
私は懲りずにやってくる人間にうんざりして言った
「…まっしろの…お化け?」
きょとんとした表情でそこにいたのは セーターを着た栗色の髪の小さな女の子だった