03 ナイトメア
最後の悪夢は細心の注意を払って作り上げた
目を覚ました姉は夕日に照らされた血走った目で俺を見て叫んだ
「お前の…お前のせいでユウが死んだ! 私はお前を許さない 絶対に!」
これでいい
弟に理不尽な死を与えた役は俺が引き受けよう
夢の中で 弟を無残な姿に変えたのは俺だ
第三者でいることは許されないほどに 俺はこいつに関わりすぎた
俺には悪夢を見させることができる
お前が進むには やり場のある憎しみと殺意が必要だ
お前の憎悪が俺に届く日は来ない ここでお別れだ
それから 二度と人間には関わらないようにしよう
もう会うことはないだろうと思っていたが 姉は数か月後にここまで辿り着いた
北に遠く離れた地の新月島に 船を借りて やってきた
闘志に満ち溢れていたから てっきり復讐に来たんだと思ってそいつのポケモンたちと戦った
とてもよく鍛えられていた ポケモンリーグで優勝を狙えるほどの一流のトレーナーだ
戦いは途中でぴたりと終わり 姉は涙を流しながら 俺に何度もお礼を言ってきた
「あの時の私には 最後の悪夢が必要だった
私を助けられるのはあなただけだった 本当に ありがとう」
なんだ、気付いてたのか
俺は何度も何度も お前の心を傷つけた
だからあの時の俺は ろくでもない悪役だったと今でもそう思ってる
まあしかし 終わったことはどうでもよくなるくらいに
月明かりに照らされた 姉の笑顔は美しかった
そう、全部終わったことだ お前が命を続けていけるならそれでいい
あの日の夜、お前が埋めた死体は一つだった
そんな余計な記憶は捨ててしまったほうがいいんだろう
遠ざかっていく船を見ながら そんなことを思った
―END―