02 ナイトメア
姉はずっと一人で迷い続けていた
何をすれば弟が助かるのか、と……いや違うな
どうすればあの日の悲劇から先に進めるのか 迷っていた
弟が死んだこと 自分があの日 狂人を殺めたことを
本当は知っているだろうに
今回の悪夢はいつもと少し違った
静かな夜、突然弟の部屋から叫び声が聞こえた
そこには返り血を浴びて赤く染まった男が立っていて
虚ろな目でなにやら独り言をつぶやいていた
狂人は姉に向かって怒鳴り声と共に刃物を振りかざし…
殺し合いの末、姉は狂人の命を奪った
狂人が 警察に追われてこの町に逃げ込んできただとか
まともな精神状態じゃないときに俺の能力の影響を受けて発狂してしまったとか
そんな情報はもはや過去のものとなった
悲劇を起こした狂人は 粉々に砕けた花瓶と 淡い黄色の花と一緒に倒れて冷たくなっている
姉は荒い呼吸を鎮めようと目を閉じた
目を開けると狂人も 病を治してあげようと思っていた弟も死んでしまっていた
「そうだ…ユウはもういない 悪夢を繰り返してユウの記憶にしがみついていても
何も変わらない まだユウのことがわかるうちに 終りにしなきゃ…」
それまで夢の中でさえ弟の死を頑なに認めなかった姉だが
悪夢はあの日の悲劇に似た状況を再現した
弟の死を受け入れた姉は自らの命を絶った…
そこでそいつは目を覚ます
「悪夢はもう終わりにしようダークライ
弟の夢を見させてくれて嬉しかったよ 今までありがとう」
それが彼女の 悩みぬいた末に辿り着いた答えだった
目に迷いはなかった 淡々と姉に悪夢を見させる暮らしもこれで終わりだ
俺は適当に別れの言葉を言って この家から立ち去ろうとした
それなのに
「…ダークライ… どうしたの? なんで震えて…」
人間と関わったことがなかった俺は ここでようやく自分の過ちに気付いた
発狂の原因は俺が偶然 危険な精神状態にある人間の側にいたからで…
そのことを一人残された姉に話したら こいつは目を輝かせて悪夢にすがりついてきた…
自分の納得した答えが出せるまで ただ望むままに悪夢を繰り返してやった…
弟の死について姉は俺のせいだとは思っていない
だがこれから起こる姉の死は 間違いなく俺のせいだ
ずっと傍観者気取りだった死神はそこで立ち止まった
迷うべきなのは俺のほうだったんだ