01 ナイトメア
もう随分と昔の 俺がまだ死神としての自覚が足りてなかった頃の話だ
俺は一人の人間を悪夢に閉じ込めてやったんだ
悪夢にうなされ続ければ人の心はいつか壊れてしまう
そんなことはわかっていたはずなのに
この島から遠く離れた土地にヤマジという町があって
東のはずれには姉と弟が二人で暮らしていた
たしか苗字は「黒種」とかいったかな
弟は奇妙な病気で苦しんでいて 治す方法もまるでわからない
姉は一人で生活費を稼いで 弟の病をどうにかして治してやりたいと願っていた
そんな二人に悲劇が起こった 悪夢はそこから始まったんだ
……
…
弟はいつものようにうなされて目を覚まし また恐ろしい夢を見たと言って震えていた
弟の悪夢に苦しむ症状は次第に悪化していき 姉はそれをどうすることもできないことを悲しんだ
弟を助けてあげられないことで 気がどうにかなりそうだった
「…ごめんね ユウ」
そうそう 弟はユウという名前だったな
姉は弟を楽にしてあげたかった 姉はとうとう弟の首を絞めた
…楽にしてあげたい一心で…
呆れたセリフだ それは聞こえのいい建前だろう
弟を大事に想ったまま 弟の苦しむ姿をこれ以上見ないで済むための詭弁だ
またお前は間違えた また弟を救えなかった そこでようやく目が覚める
姉は青ざめた顔で俺を見て 現実にあったことを思い出す
弟はあの日 殺された もうこの世にはいないということを
俺には悪夢を見せてやることしかできない
姉は俺に頼んだんだ 弟が生きている夢を見せてくれ
それが悪夢でも構わないから自分をそこに閉じ込めてくれと
弟が生きている夢とは言うが 弟が死にゆく夢にすがりつくなんてどうかしてる
「三日月の羽根が手に入ればきっと助かる」
夢の中のその設定さえも 報われない結末の材料に過ぎない
いつも弟の死が夢の終わりだった
三日月の羽根が手に入ったがすでに手遅れで間に合わなかった
病気を治す薬を与えたら副作用で発作を起こしてそのまま息絶えた
弟を殺して自分も死のうとしたが怖気づいたところで目が覚めた…
悪夢に幸せな結末など訪れない 絶望して目が覚めて再びどん底に突き落とされる
その繰り返し すぐに発狂してしまうと思っていた
だけどそうはならなかった 実に二カ月以上もの間 続いたんだ
俺はそいつの望むままに気のすむまで あるいは気が触れるまで悪夢を繰り返してやろうと決めていた
弟が死んだ日の悲劇は俺の能力が引き金になったのかもしれない
行くあてもなかった俺はそんなあやふやな罪悪感から 姉を悪夢に閉じ込めた
「あなたは優しいのねダークライ…
わたしの我儘に付き合ってくれてありがとう」
目を覚ますと姉はいつもそう言ってくる
感謝されるようなことは何もしていないのに