05 電気羊は終わらない夢を見るか
〜羊はいない〜
次の日、目が覚めたデンリュウは自分が知らない場所にいることに驚いた
「ここは…どこッスか」
試験官を横向きにしたような狭い個室の中で 体にはコードの先端に取り付けられた針が大量に刺さっていた
身体はずぶ濡れで 昨日の火傷や骨折がなぜか消えている
「頭が痛い… まさか宇宙人にさらわれて宇宙船の中で勝手に治療されて…
なわけないッスよね」
刺さったままのコードを引き抜いて 個室から出てみた
そこは白一色の大広間のようになっていて
周りにはミツハニーの巣のように透明な溶液に満たされた個室がドーム状に並んでいた
「…ちょっと…待ってくださいよ なんなんスか これは…
それじゃあまさか この中は…」
目の前の個室のハッチに付いている取ってを掴んで 引っ張ってみた
バキンという嫌な音と共に ハッチが壊れて外れ、中から透明な液体が流れ出した
「…とっくに お亡くなりになってるみたいッスね」
恐らく夢を見ながら寿命を迎えたのだろう それはもはやなんのポケモンだったかわからない状態だった
「こんなの間違いであってほしい…なんて バシャーモに対して思ったばかりなのに」
広間から少し離れた資料室のような場所で デンリュウはこの船の名を知った
「宇宙船ノア… 住める場所を失ったポケモンたちは他の惑星への移住を試みたが失敗に終わった…
新しい生命維持装置を夢幻機関と名付け 乗組員を延命させることを可能にし…
そっか 第七惑星なんてはじめから存在しなかったんスね」
彼女は自分でも意外なくらいに取り乱したりはしなかった
ただ 心が壊れそうなほどに冷たくなっていくのがわかった
デンリュウは電撃でロックされたドアを壊しながら ノアの機関室まで行ってみた
案の定 エンジンはもう動いてはいなかったが そこには 灰色の煙に包まれて巨大なムシャーナが浮かんでいた
このムシャーナはもう生きてはいない だが船の一部として未だに機能しているようだ
「これが夢幻機関… 呆れた話ッスね 本当に
バイオニクス技術の最後の使い方がこれッスか これが百年以上の間 私たちに夢を見せ続けた
…でも もういい加減に 偽物の夢から覚める頃だと思いませんか」
すべてを失った哀しみに包まれて 彼女は冷たい声でつぶやいた
「…終わらない夢なんて どこにもないんスよ」
電撃がムシャーナを貫き 夢幻機関はついに活動を停止した
宇宙空間を漂っていたノアは 間もなくして すべての乗組員を失った
タイトル『電気羊は終わらない夢を見るか』
テーマ 『夢』と『絶望』
END.