03 謙虚なナイトとわたひつじ
グラシデアの種子を袋に詰めた俺とエルフーンは
ふと空を見てみると今にも雨が振りだしそうっぽいのに気付いた
陽はほとんど沈み 辺りは暗くなっていたので三日連続の野宿を避けるために
全速力で山を駆け下りて普通ではまだ付かない時間できょうきょ宿屋の前まで駆けつけた
入館手続きをしに受付のとこまでいくとエルフーンが不満そうな顔をして
「ただの雇われの兵がレディと同じ部屋に泊まる気?」とか文句を言ってきたんだが
「俺は薬の材料が盗まれたりしないよう守るって役目があるから当たり前
敵がいつ現れるとも限らないし一瞬の油断が命取り
ついでに言うと部屋は一つしか空いてない」と正論を言ってやったらおとなしくなった
和室に案内されたあとでエルフーンは莫大な報酬金と名声にまた一歩近づいたことがよほど嬉しかったんだろうな
「ほら見てよシュバルゴ これで一生をかけても使い切れない量の金塊と銀塊が…!
残りはマーメイドの血液 金丹水晶に 輪廻の火山灰…まだまだ先は長そうだ
城の奴らめ 契約はしっかり守ってもらうぞ 楽しみだなあ」と飛び跳ねていた
だが俺はそんなものに興味がなかったので「まただよ(笑)」と冷めた目で笑った
「報酬に目が眩んだまま仕事をする奴は馬鹿 真のナイトはナイトであることに誇りを持っているからな
謙虚で人気者なナイトは富も名声も欲しがらない
そもそもなぜそこまで金にこだわるのかが謎 リスクが増えるだけでしょ
それに使い切れないほど貰っても無駄」ってやさしく忠告してやったらなんか顔真っ赤にしてコッチにらんで来た
エルフーンは綿を紡いで作り上げた糸で 一瞬のうちに俺を拘束し怒りをあらわにして言った
「おいィ? あまり嘗めた口きいてるとあることないこと上に報告してやってもいいんだが?
雇われていないとナイトやっていけないくせに調子こき過ぎ
あまり調子に乗ってると裏世界でひっそりと幕を閉じることになる」
実際俺は帝国でも結構有名でケンカとかでもたいしてビビる事はまず無かったが生まれて初めてほんの少しビビった
「おいやめろ馬鹿 この話は早くも終了ですね」
そしたらなんか普段の口調に戻って
「まったく、君と喋ってると調子狂うよ」とか言って笑ってた
外ではスコールのような雨が降り始めた 段々と雨雲が集まってきてるような気がする
この時はまだ二人とも茂みの奥に隠れているニョロトノに気付いていなかった