02 謙虚なナイトとわたひつじ
ここは珍しい草木が生い茂る山の頂上付近
俺とエルフーンは与えられた任務を果たすために今日も旅を続けていた
「うーむグラシデア…どこにも見当たらないねシュバルゴ このままだと日が暮れちゃうよ」
「おいィ?三日連続で野宿とかちょとsYレならんしょそれは…
大体なぜグラで紫亜とかいう紫陽花っぽい花を探しにこんな山奥まで来なきゃならないのか
俺には理解不能なんだが」
(まったくこいつは相変わらずだな せめてもうちょっと普通に喋れないもんかね)
エルフーンは喧嘩腰なセリフに半ば呆れているようだ
「グラデシアじゃなくてグラシデアだってば 紫色のグラシデアには強い幻覚作用があってね
昔から不死の薬の材料として有名なんだ この辺りの森じゃないと育たないんだってさ
そうそう、幻覚作用といえば 昔からグラシデアの種子を粉末にしたものをこれは煙草だと言い張って売りさばく商人が…」
俺は城に雇われているしがない騎士なんだが今回任された仕事は不死の薬の材料を集めてくることらしい
エルフーンは帝国で有名な薬商人で知識は豊富だが身を守る術が貧弱なので護衛として優秀なナイトが必要といったところかな
まったく無茶な旅だとは思うがすでにいくつかの素材の入手に成功していた
ぶよぶよした奇妙な肉塊の詰まったガラス瓶を見ながら俺は言った
「皇帝は不死の薬を信じているようだがそんなものがないことは確定的に明らか
貧弱一般人によくある死をおそるるがあまり作り出した妄想だということに早く気付くべきだろうな
こんな任務はカカッと終わらせるべき そうするべき」
「キミはいつも言いたい放題だね… 皇帝に向かって貧弱一般人とか言ってたら今頃処刑されてるよ
まあ不死の薬なんてできないってことには私も同意だね
その肉塊、太歳っていうんだけど 粘菌に蝕まれて発酵と再生を繰り返した『食べのこし』の果実の成れの果てさ
この『銀の雫』だって メタルパウダーがメタモンの細胞の影響で変性しただけ…こんなもの薬にもなりゃしない」
「だいたいそんな薬 私はいらないな 不死になりたいって心情がよくわからないよ」
不死の伝説に詳しいこいつがそんなことを言ってきたので俺は意外な顔をして
「ほう、てっきりお前も不死に興味があるのだと思っていたんだが」と尋ねるとエルフーンは
「だってさ一回きりの命の終わりなのに 恐がるなんてもったいないじゃないか
後悔とか虚しさ 苦痛とか満足に染まりながら息を引き取るのも悪くない
で、そういうシュバルゴはどうなんだい 不死身の騎士とかになりたくないの?」とか言ってきた
なるほどこいつが妙に図太いところがあるのは死にもある種の価値を見出しているからなのか
ちなみに俺も不死にあこがれるのはどちらかというと大反対だな
「俺はすでに一流のナイトだからな 不死やら報酬やらに執着するのは見苦しい
不死身なんかに夢を見る暇があったら自分を磨くべき
今の俺はそう言うふうにしてある
頼られる秘訣はここにあるのかも(謙虚)」
「はいはい 頼りにしてますよー って あれは…」
雑木林を抜けた先、辺り一面に紫色のグラシデアが咲き誇っていた