04
…わけがわからなかった
背中に温かくて柔らかい感触があって 目の前ではヘルガーとワタッコがじゃれあっていて
なぜか女の人に抱きつかれていて、肩を震わせ涙を流しているその人がハルだとわかったところで思考が固まった
「……ハル…?」
「遅い…遅いよリオン……おかえりなさい」
十年振りの再開だった
ずっと顔を合わせてなかったのにハルはあの頃と変わらない笑顔で俺を迎えてくれた
背も伸びて顔立ちも大人びたものになっていたけど
あの頃の容姿の特徴を残したまま成長したような印象を受けた
今は家庭の事情で元の家を離れて親戚の家の近くに引っ越し、畑仕事をやっているそうだ
たしかにハルがこの村から出ていったなんて言われてないし
遠くから訪ねてきた人を誤解させたかもしれないとあれば慌てて呼び止められるわけだ
俺はハルに謝らなくちゃいけない…
あの日守れるかどうかもわからないような約束をしたこと、
その約束のせいでハルをこの土地に閉じ込めてしまったこと
長い間帰りを待たせてしまったこと
ハルが昔の約束なんて忘れているだろうと思ってしまったこと
自分が解放されたいために その約束が過去のものになることを望んでいた部分もあったこと
ずっと直に会って謝りたいと思っていたことを全部話した
ハルはそれを黙って聞いていたが その後の反応は予想していたものとは違っていて
直後にこいつは昔からこういう奴だったということを思い出した
「そんなに…そんなにずっとわたしとの約束で悩んでてくれたんだ…」
ハルは愛おしそうな目で青年を見ていた
「わたしは怒ってなんかないよ リオンはこうしてちゃんとわたしのところへ帰って来てくれたんだから」
ハルのその一言でようやくあの日から解放されたような気がして気持ちが楽になった
…けど本当はそうじゃない
結局のところ俺はハルに捕まったままだ
桜の木が二人をからかうように花びらを舞い散らせていた
-END-