03
「………………………。」
言葉は呪いだ
あの時の約束なんてあいつはもう忘れていて俺を待っていたりはしてない、
俺のこと自体覚えてなくて だからもう会いにいくのもあいつにとっては迷惑で
それを確認することができたら俺もようやくこの記憶から解放される、
そんなことを期待しながら空き家になっていたあいつの家のことについて尋ねてみたんだが…
ハルちゃんはちょっと前に別のとこに引っ越したはずだよ
あの子も変わった子で いつも人を待っているからこの村からは出ないとか言っててね、
ところで…お前さん見かけない顔だがあの子の知り合いかい
リオンは適当に誤魔化したつもりだったが そのお婆さんは何かを察したようで 彼を呼び止めようとした
…待っていてくれたのに 間に合わなかった…
この村に来るのが遅すぎたことを知った青年は
とてもまともに受け答えできる状態ではなく、その場から逃げるようにして走り去った
次にリオンが足を運んだのはあの日無責任な約束を交わした桜の木の下だった
『ずっと待ってるから』
あいつの声が、柔らかな笑顔が、頭から離れない
帰ってくるかどうかわからないのに あの約束を信じて
本当にハルは待っていてくれたんだな
随分と長い間、俺のあの一言があいつを苦しめてしまった
自由を奪ってこの村に閉じ込めてしまった
…別の町に引っ越してそこで暮らしてるならそれでいいんだ
再開の約束を俺が破ってしまったことについてあいつは怒ってるだろうか、泣いてるだろうか
村の人に引っ越した先を聞いてみて…
いや、もう謝りにはいけない 今さらハルの新しい住所を訪ねることはできない
ただ、心から悪かったと思っている
だからこの罪悪感を背負っていくしかないんだ
十年か…あの日から時間が経ちすぎた この木もずいぶんと大きくなったな…
明日の朝 この村を出よう
桜の木の枝が風に吹かれて静かに揺れていた