十六小説目 迷子の迷子のアルトくん(迷子の仔猫ちゃん風)
「では、これより遠征を行う!」
「遠征のルール!それは、楽しむこと。それから命を大切にすること!以上!」
「ちょ…。親方様ぁ…。それは余りにも雑じゃありませんか?」
「ホルト!文句を言うのかい?」
「いや、そうではなくて…。」
相変わらずのコントの様な二人。
さて、僕はアリアと共に遠征のベースキャンプてと向かう。
ちなみに、テナはソフラと共に行く。
「じゃあ、行こっか。」
「そうだね!アルトのこと、私が守るからっ!」
女の子が言うセリフなのかなぁ?
普通は男の僕が言うんじゃ…?
「よしっ!行こうっ!」
「オーッ!」
◇こちら、テナ&ソフラ◆
「さて。準備は出来たか?ソフラ。」
「ええ。お待たせしましたね。行きましょう。」
「あぁ。そうするか。」
テナとソフラもまた、ギルドから旅立とうとしている。
テナが小さなバッグを持って、その中に色々と詰め込んでいた。
「…と、どこだっけか。」
「確か、濃霧の森といわれる入り口のあたりにベースキャンプを築くらしいから、そこへ向かえば良いようです。」
「…。オッケー、行こう。」
◆こちらアルト&アリアサイド◇
「かんっぜんに…。」
「ま…。ま…っ!」
「「迷ったぁぁぁぁっっ!!」」
安定の迷子。
方向音痴×方向音痴=100%迷う
こんな方程式が僕の頭のなかをよぎっている。いつの間にか。
「うー。私の力でどうにかならないかなぁ?」
「さすがにならないでしょ…。」
「当たって砕けろっ!せーのっ!」
…やるんかーい
〜♪〜♪♪〜♪〜
必死に歌っているようだ…。けど。
こればかりななんともならない様で…。
「うーんー。どーしよー?」
「…ひとまず少し周りを探してみようか。誰かいたら道を聞いてみよう。」
「そだね。よし、頑張ろっ!」
ー30分後ー
「…。この辺りって、誰も住んでないのかな?ゼェ」
「そ、そうっぽいよね…ゼェ」
周りを見ても草原。草原。
なんにも無いっ!とは、このこのなんだと、しみじみ思う。
さて、どうしたものか…。
「急がないと、キャンプに着かないわよね?い、急ぎましょっ!」
「そうだね。…にしても、誰も…。」
「も、もう少し探してみよう。」
困り果てた僕たちはとりあえずまた辺りをウロウロ。
しかし、空の雲行きも怪しくなってきて、鼻にポタッと雫が落ちてきた。
その雫は多く、強くなってー!
「…雨足が強くなってきたね。…あそこに崖があるから、穴を開けて雨宿りしよう。」
「アルト、頼めるかなぁ?」
「もちろん。い、いくよっ」
ーでやぁー!ー
崖は固かったー。けども、僕の力で何とかなった。
二人が入るのには不自由の無い空間が出来上がった。
「とりあえず、雨宿りだね。…アリアは濡れてないかい?」
「んー。少し濡れちゃったけど、何とかなるかな。自分の体温で温かくできそう。…ア、アルトはその…。さ、寒くない?」
「んー。ちょっと雨に濡れちゃったからなぁ。ちょっとだけ。寒いかも…なんてね。」
「ま、任せて…っ!」
「ア、アリア?」
ぴとっと僕にくっつく。
温かい。さすが、炎タイプのポケモン。
「…どう?温かい?」
「うん。ありがとう。んー、そうだねぇ。ちょっと待ってて。」
僕は雨の降りしきる中、飛び出した。
薪を取りに僕は向かったのだ。
さすがにくっつかれるのはキツいというか何というか…。
テナに申し訳ないというか…。
「ちょ、アルトッ!?」
大きく叫んでいるアリアを後ろに、僕は雨の中に消えていったー。
同時刻、テナ&ソフラサイドー。
「ん…。雨が降ってるな。もう少しでキャンプだろ?急ぐぞ。」
「ええ。洞窟も抜けたので、もう少しかと。」
「そうだな。そろそろ着くと良いんだが…。それにしても、アルトとアリアは無事だろうか?方向音痴の二人だからな。キャンプに着けてると良いんだが。」
「それは、怪しいですけど…。まず、キャンプまで行ってみましょう。どっちにせよ、私たちには出来ないことしか無いので。ギルドの皆さんの力を借りなければ…。」
「そうだな。…少し歩くのを早めるぞ。」
テナが、雨足の強くなってきた中を早歩きで歩く。
ソフラもテナに合わせていそいそと…。
周りには殺風景な景色が広がり続ける。
雨が強くなって、霧が立ち込めてくる。
「…。周りが見えなくなってきた。まだ…。まだなのか…っ!」
「…!テナ、キャンプが見えてきましたよっ!」
「ほ、本当だ…!よ、良かった…。」
「おーい!お前たち、何とか着いたんだな。良かった良かった。…と、アルト達を見てないか?」
「や、やっぱり!?やっぱりあの二人は着いてないのですか!?」
「あぁ。もしかして、もしかすると迷子か?」
「そうみたいだな。…俺が探しに…っ」
「待て待てテナ。お前がこの霧のなか出ていってもお前こそ迷子になるだけだ。まず、霧が晴れるまで待つんだ。良いな?」
「…くっ…。」
テナはホルトに言われた言葉を思い返しながら、ただただ俯くしかなかった。
仕方が、無いのだ。
霧は、段々深くなるばかりー。
同時刻、アルトサイドー。
「霧が、出てきたな。少なからず、霧が晴れるまではあの洞窟を出られないよな。」
あまり移動していない所で薪になりそうな木がごろごろと落ちてたので、とりあえずそこで薪を拾ってみる。
ざっと300メートルって所かな。
「霧が深いなぁ…。どうしようかな…。」
霧が深く、数メートルしか周りが見えない。
ので、方向も分からない。方向音痴だけれども。
僕はその場に立ちすくんだ。
肩に雨が落ちているのを感じる。
小雨ではあるものの、顔にも当たるのを感じる。
「はぁ…。」
ほぅ…とついた息は白い。
辺りも寒くなってきたな…。先程よりも、ずっと増して。
「うぅっ…。寒っ。」
ブルッと震える。
首に巻いた朱色のスカーフに顔をうずめる。
「ギルドの匂いがするなぁ…。何だか、温かい感じ…。」
何だか、眠くなってきた…。
うとうとと目を閉じ始める。
意識が遠退いてー。
「霧払いっ!」
どこか、凛々しい声がすぐ聞こえた。
その声が聞こえたと思ったら周りの深い霧が消えていく。
「ありがとな、スワンナ。助かったよ。」
「いいや、あんたらのお陰さね。このくらいお安いご用さ。じゃあね。」
「じゃあな。…ん?凍えてるヤツがいるじゃあねぇか。おーい、大丈夫かー?」
僕が座っていると、二匹のポケモンが近づいてきた。
一匹は全身緑色で、いかにも草タイプって感じのポケモン。
アホ毛じゃないけど、頭から一本、草が生えてる。
んー、言い方が悪いな。…あ、あと口に木の枝みたいなのをくわえている感じ。
もうもう一匹は黒いポケモン。
キツネみたいなポケモンで、口の端には赤いインク?みたいなのがついてる。
爪が鋭そうなポケモン。で、二足歩行。
「おいおい。大丈夫かい?喋れる?どこの子?どこに行こうとしてたの?」
「うるさいダーク。質問攻め過ぎるだろう。」
「あの、僕は大丈夫。…強いて言えば、濃霧の森の入り口まで行くのに迷ってしまって…。それですぐそこの洞窟に雨宿りしてたんだ。」
「おー、そーかそーか。んじゃ連れてってやんよ。いいよな、リーフ。」
「あぁ。俺らの行くところに道中だしな。んじゃ、行くか?」
「ちょっと待って…。そこの洞窟に雨宿りしてる連れがいるんで。そこへ寄って貰えるかなぁ?」
「ん?あーいいぞう。いこいこ」
ダークはテンションを上げて手を上げている。対してリーフは落ち着いている。
何だか、この凸凹コンビは明るくて、好きだな…。
その後、アリアと合流した僕たちはダークとリーフに連れてもらい、何とかキャンプへと着いた。
テナやソフラはとても心配してくれて、僕たちに泣きついて「良かった良かった」と言い続けていた。
ホルトやプリルはダークとリーフに感謝をしていて、「いえいえ」と言ってるダークの姿が印象に残っていた。
僕が顔を上げれば、いつの間にか雨はやみ、大きな虹がかかっていた。
僕たちの、遠征がやっと始まる…!
「なぁ、リーフ。あのリオル、アルトじゃねぇか?」
「まさかだろ?あんなポケモンが、アルトだなんて、有り得ないだろう。」
「でもなぁ、過去の事例にはニンゲンがポケモンになったってこともあったんだぞ?まぁ、その確率もあるってことだよ。」
「…そうだな。その確率も、かぁ。」
「ま、悪魔でもだけどな。…さて、いくぞ。あっつい。」
「そうだな。行くか。」
ムシムシとした洞窟にいたダークとリーフはまた、歩みを進め、やがて暗闇の中に消えていったー。