十五小説目 カルディアの一族
「さて、と。ホルトの長々とした忠告も聞き終えたね、やっと。」
「そうだねぇ。ホルトってば、いっつも長々と…。」
「こらこら。それをホルトご本人に聞かれたなどーすんだよ?遠征取り消しになるかもよ?」
「「それは避けなければっ!」」
「相変わらずお二人は息がぴったりですね。少し羨ましかったりしたり…。しなかったり…。」
ホルトから呼び出されていたと聞いた僕たちは急いでホルトの元へと走ってきたのだけれど…。
結果的に、無駄な時間。とゆーか。
あんなの、探検隊として、普通に気をつけてるとゆーか…。
「このあとどーする?あとはベルの晩ごはん食べて寝るだけだけど…。」
「それだけど、アルト。ちょっと来てくんねぇか?アリアとソフラは、待っててくれ。」
「何で?私たちもついてっちゃダメなの…?」
「アリア。私たちは大人しく待ってましょう?女子で言うなれば、男子に聞かれたくないガールズトークみたいなものですよ。」
「ちょっと理解は出来てねぇが…。ま、そんな感じだ。アルト、来てくれ。」
「う、うん。」
促されるまま、僕はテナについて、サメハダ岩までやってきた。
テナの表情が強張っている。後ろから見ても、その緊張感は伝わってくる。
「呼び出したのは…。二つ用件があるからだ。一つはまぁ、感謝。俺がいない間、アリアを守ってくれてあんがとな。で、重要なのは二つ目。俺の能力と、果たすべき目的の話だ。」
「も、目的…?」
「あぁ。まず、結果論から言うと、アリアの父と母を殺したのは…。俺の両親だ。」
「!?」
僕は、その事実には衝撃を受けた。
ーが。
ゾッとしたのは、テナの表情だった。
冷酷な顔。
でも、その中に悲しみを閉じ込めているような、そんな顔。
その顔に、背筋がゾクッとした。
「俺の両親は、とある者によって操られ、アリアの両親を殺した。また、操った奴も、俺の両親を始末したのだ。親の遺言…。それが「アリアを守れ」ー。それを受け取り、俺は今アリアを守っている。」
「それ、アリアは知ってるの…?」
「いや。恐らくは知らない。まだ幼き時だからな。」
「…そっか…。」
もしも、この事実をアリアが知ったらどうするだろう?
ずっと傍にいてくれたヤツが「実は殺したヤツの子供」だったら、どんな反応をするだろう?
「まぁ、時期が来たらアリアには聞いてもらう。…本当は今すぐにでも本当は知るべき事実なんだがな…。なんせアイツはアルトやソフラと探険隊を組んでいることに嬉しさを感じている…。アリアは孤立を知っている。それがどんなに辛いことか…。だから、皆といる。これを壊したくないんだ…。俺は…。アイツに笑っていてほしい。」
それは同感だ。
アリアの、「周りを元気にするだけの笑顔」は好きじゃない。
アリアが…。心から笑った顔を壊したくはないと思う。僕も。
「それでな、アルト。俺が持っている、力を教えてやろう。これがアイツー…。アリアと一緒にいる、また一つの理由でもある。」
「力…?」
「あぁ。」
ー時は五百年前に遡る。
ペルジスの王政が始まった辺りのことである。
そこには、二匹のポケモンの話である。
まず、一匹目はポカブである。
そのポカブはペルジスの中でも強い力を持つと言われていたポケモンであった。
そして二匹目はツタージャである。
そのツタージャはカルディア一家のポケモンで、カルディア一家というのは、ペルジス一家の側近にあたる一族である。
その二匹は成長し、政治を行うまでになった、ある日のことだった。
ポカブがエンブオーになり、過ごしていた、のどかな日だった。
ペルジスの力の期限が来た。
しかし、エンブオーは創造神へと力を返すのを忘れていた。
正しく言えば、返すことがほぼ不可能だった。
力を返却されなかった創造神は怒り狂い、ペルジスの王政を一気に崩した。
エンブオーにも、返すことが出来ぬ理由があった。
それは、命の限界であったことだ。
命の限界ー。即ち死。
怒り狂った創造神を止めたのはカルディア一家の家主、ジャローダだった。
ジャローダの力により、創造神は天に帰り、この世界は守られた。
創造神が帰るときに、ペルジス一家とカルディア一家と創造神とで契約を交わした。カルディア一家はこれから先もずっと、ペルジス一家が生き残ることを守るーと。
力を剥ぎ取られたペルジスの王政はみるみる衰退し、やがて政権は交替した。
「俺は、一族の者として。この契約を守り、生きていかなければならない。」
「テナが…。また凄い一族の末裔だったなんて…。ちょっと、スケールが僕的には大きいかも…。」
「はは。そうかもな。…で、俺の力ってのはな。色んな力があんだよ。俺は強い方。…まぁ、触れた者にしか発動しないけどな。こんな感じでな。」
テナが僕の額に触れる。
テナの瞳が紅く光る。それも、鈍く。
「テ…。テナ…?」
「…これが、俺の力の一つだ。」
テナは、アリアを、ペルジスの一族をカルディアの一族の末裔として傍で守っている…。
テナの声が遠退き、やがて聞こえなくなった。
目が覚めたのは、少したってからのことだった。
…ト …ルト…
「アルトッ!起きてってば。」
「んんっ…。ア、アリア?ここは…僕はなんでここに…?」
「んーと、テナがここに連れてきた。ほら、テナに呼び出されて行ったじゃん。」
「テナ、に?」
記憶がぼんやりしている。
テナに呼び出されてー。
「で?何の話したのー?」
「う〜ん〜。記憶が少し混乱してるなぁ…。ちょっと覚えてないや。」
「じゃあ、とっても眠かったんだよ!どう?もう眠くない?」
「うん。ありがと。」
「眠かった」か。まぁ、そーゆーことにしておこう。
「そういえば、テナは?」
「またまたホルトに呼ばれてるよ。何やら、「テナ以外とは話が通じる気がしない」とかなんとか。酷くない?ホルト。」
「それは悪かったな。でも、真実だぞ?全く。」
「「うわぁっ!?」」
アリアの後ろから姿を表したのはホルトとテナだった。
テナは後ろで苦笑いしている。
「明日の遠征だが、チームの組み方について説明していた。アルトとアリアで遠征のキャンプまで来てほしい。また、テナとソフラもチームを組んで行動してくれ。今回の遠征は個々の力量を見てたりするからな。少ないメンバーで行動してもらえるといいからな。…と、言うわけで頼んだぞ。」
「「「「はぁ〜い」」」」
ホルトが「はぁ…」と呆れたような声を出しながら弟子部屋から出ていった。
「明日から遠征か。皆、頑張ろう!」
「そうだね♪テナも、ソフラも!」
「あぁ。」 「はいっ!」
いよいよ、遠征が近づいてきた。
心の中でテンションが上がっている者もいれば、その影で密かに微笑む者もいる。
「今回の遠征では、お宝を奪ってトンズラ…でいいよなぁ?」
「はい、アニキ。」
「…よし、とうとう、明日だ。行くぞ、お前ら!」
「「はい」」
また、別のところで蠢く影。
その影の目的とは…?
「これで、やっと二つ目だ…。…全く、歯車集めも疲れるなぁ。」
「ダーク。黙って次に行くぞ。…次はぁっと。」
「リーフ。確かにアルトやソフラに会いたいのは俺もだかよぉ。そんなに急ぐ必要なんて無いんだぜ?」
「歯車を集めなければ、ディアルガは止まらない。アイツらに会うためにも、これを集めなければ…っ!」
「あー。ハイハイ。次は?熱水の洞窟か?」
「めんどくせぇな。番人いるし。」
「仕方ない。行くぞ。」
二匹のポケモンは暗闇のー。時の止まったような場所でひっそりと話を進めていたー。