十三小節目 バカがつくほどの努力家。
「「「はぁぁぁ〜…。」」」
僕たちはやることもなく、今日を終えた。
と、いうものの。
リンゴの森にセカイイチを取りに行った日の次の日をグダグダと過ごしたのだ。
とても意味の無い日を…。有意義の反対だ。
「今日もテナは帰ってこなかったねぇ…。」
「うん…。ま、帰ってくるでしょ。」
「…はぁ…。ただいま。」
とても聞きなれた声が後ろから聞こえた。
この声は…テナっ!?
「テナッ!?どこ行ってたのっ!?」
「どこって…。修行。」
「心配したんですよ…っ!」
「悪かったって、な?」
人一倍心配していたアリアはテナに飛び付く。
テナも少し驚いた様だったが、手をポンポンとアリアの頭に乗せ、撫でた。
今だけ、アリアから「元気にするための笑顔」という仮面が剥がれて、わんわんと泣き始めた。
「それにしても。テナはまた、お姉さんのところへ修行に行ったのかい?」
「あぁ。とある技を教えてもらいにな。本当はあと数日帰ってこない予定だったんだがな。姉さんのチームが忙しくなって帰れって言われた。」
「そ、そうだったんだ…。お疲れ様。」
「あぁ。だから、オレは寝る。長旅で疲れてんだよ。」
テナに「どこまで行ったのか」とか、「何を修行してきたのか」とかとか。
色々聞きたかったんだけれど…。テナも疲れてるだろうし、今は寝かせてやろうと思った。
結局テナはご飯の時もずっと寝てたのでとりあえず放置。
僕たちが寝るまでずーっと爆睡だったので、ご飯をテナの枕元に置いて僕たちも寝た。
サァァァァ…………
草同士が擦れあう、この音。僕は好きだ。
周りが静かだからこそ、冴える音だからー…。
この音が聞こえれば、周りは静かだから…。
「んんっ…。」
「ん。わりぃ。起こしちまったか。」
「ん?ううん、全然。」
体を起こすと、月が一番良く見える窓に腰かけてリンゴに少しかじりついているテナの姿があった。
月光に照らされたその姿は、少し恐怖すらも感じた。
テナの目が、煌めいている。
「何だか目が冴えちまってな。」
「あんだけ寝たら、ずっと寝てる方が多分疲れるよ。」
「はは、そうだな。」
少しの沈黙。夜でもあるし、何より少し緊張している。
これは多分、僕だけ。
テナは何とも思ってないのだろう。ほら、首を傾げている。
「あの、テナは何の技を習得してきたの?」
「ん?あぁ、リーフブレードっつう技。本当はジャノビーから覚えるのが普通なんだがな。姉…シャルドネのおかげでなんとか。リーフブレード覚えているツタージャって珍しいと思うぞ。」
話を聞けば、リーフブレードを習得するためだけに姉のシャルドネの元へ行ったそうだ。
でも、急に何でだろう。
「また、急に何で習得しに行ったのさ?」
「バカ。それ聞くか?これ言ったらオレのプライドがズタズタになるんだが。」
「そ、そうなのっ!?なら、言わなくてもいい、けど…。でも気になるよなぁ|д゚)チラッ」
「い、言いたくねぇモンは言いたくねぇんだっ!…全く。」
「あはは、ジョーダンジョーダン。頑張ってきたんだね。追い払われてきたって言ってたけど、満足な出来にはなったの?」
「…いや。」
テナの目がキラッと光った。
テナの顔が怖い。
「姉のシャルドネには、追い出された、というよりは「出来上がったからもういいだろう」って言う感じなんだよ。もう少し修行を積みたかったってのが、本心なんだがなぁ…。」
「そうだったんだ。…てことはテナは覚えが良かったんだね。」
「だから、満足出来てねぇって言ってんだよ。」
「テナって更なる高みを目指して、絶対ゴールとか永遠に来ない人だよねぇ」
「…酷くねぇか?」
「ううん。褒めてるよ〜。」
「褒めてるように聞こえないのは何故だ…?」
テナの性格…というかタイプは「何事にもゴールを決めない」タイプ。
果たして、この技を完成させたところでよしとするか否か…っていう人なんだと思う。
この修行に行ったのもきっと自分の力に満足出来てなくて、もっと強く…もっと強く…っ!…てことで多分お姉さん、シャルドネさんの元を訪れたんだと思う。
テナは人一倍口が、機嫌が悪くて。
人一倍努力家なんだと、今分かった。
そこでふと思った。
僕の目標。それはここで穏やかに暮らすことではない。
ニンゲンに戻ること。
でも、その目標を達成したくないと否定してる自分が心のどこかにいる。
本音は、みんなと、ポケモンズの皆と、ギルドの皆と穏やかに、楽しく暮らしたい。
ニンゲンに戻ったところで、この世界のことはきっと忘れない。
こんな、幸せな生活を知ってしまったのだからー。
「?アルト、どうかしたか?」
「え?あ、うん。何でもないよ。…そういえばね、アリアのペルジスの力の事なんだけど…。」
テナの動きが一瞬止まった。
「何か、分かったのか?」
「うん。といっても少しのこと何だけどね。ペルジスの力は本来、水を操る力が変化していったものなんだって。だから、ペルジスの力は別名「アクアシンフォニア」って言うらしいよ。」
「そうか。」とだけそっけのない返事をしたテナは大きなアクビをして、僕の方に向き直った。
起きた直前よりかは怖くない。
むしろ、晴れ晴れした顔をしている。
「長い間、留守にして悪かったな。アリアを、守ってくれてありがとう。」
にっと笑うと、僕の額にちょん、と触れた。
すると、すぐに眠気が…。
「んんっ…。」
「ごめんな、アルト。」
テナの、声が…。遠ざかって…く…。
意識が朦朧とした状態で、少しだけテナの声がした。
一部だけだったけど。
あとは聞き取れなかった。
「オレは成すべきことをする。そのために、オレはここにいるー。」
この言葉が何を意味するのか。
当時の僕は。僕たちは知るよしも無かったのだ。