十一小節目 秘技 放電
「な、何ぃーっ!滝の裏には洞窟があって、そこから水流で温泉まで飛ばされたっ!?」
「うん。それで、プリル。少し聞きたい事があるんだけど…。」
「んー?何かな?」
僕は、少し間を開けて、深呼吸すると、まじまじとプリルの顔を見る。
「うん?」と可愛げに首を傾げる。でもこの人、オスなんだよなぁ…。ちょっと残念なような…。
…じゃなくてっ!
「あの、プリル。君は一度、あの洞窟に行ったことがあるんじゃないのか?」
「バカ言え!あそこに行けとお前たちに命を下したのは他でもない、親方様だぞ?その親方様が行ったことのあるところにわざわざお前たちを行かせる理由などー」
「あー!行った行った!ごめんごめん。忘れてた!」
「親方様!?行ったことがあるのですかっ!?」
「あー、うん。昔だけどねー。今の今まで忘れてたよー。ごめんねぇ〜。」
この時のホルトの心の声ー。
「洞窟を見つけたことは大発見なのに…。親方様が行ったのではないか?と手柄を無いものにしようとしたり…。また、変なヤツを弟子にしてしまったのか…。あぁ、頭が痛い…。」
「やっぱり、行ったことがあったんだね。」
「プリルのシルエットを見たんだっけか?それにしても、不意打ちに来るよな、その…予言みたいな?」
「で、でも…。スリープやルリリ達の時は未来が見えましたが、今回は過去ですよね?…何と言うか、規則性が無いというか…。」
「考えてみればそうだよね…。でもさっ!この力を使いこなせるようになったら、未来も過去も見放題ってことになるよねっ!」
「全く…。そのバカ丸出しの回答はどっから出てくるんだ?」
「バカ丸出しって何よっ!バカって言う方がバカなんだからっ!」
「お前はおこちゃまか!?そんなことで熱くなんなよ!」
「テナ。結構熱くなってませんか?」
「黙れ!ソフラッ!」
「なっ…!そこまで言わなくても良いじゃないですかっ!?」
「あのぉ…。皆様、ちょっと落ち着こうよ」
「「アルトは口を突っ込まないで!(下さい!)」」「突っ込むな!」
「さ、三人同時に言わなくても…。」
この三人の会話を考えてみれば、種をまいたのはテナで、それをアリアが収穫したって感じだな…。
それにしても、どうでもいいし、つか、ホルトが飛んでくるし…。
もう、僕は知らない。
まぁ、案の定。
弟子部屋で叫んで怒って殴り、蹴りあった三匹はホルトにこっぴどくしかられ、僕もご飯無しの刑をくらった。
飛び火だ…。ほんと、巻き込むなよ…。
「完全なるとばっちりだったな。」
「ホントに。僕もご飯抜きだなんて…。あぁ、お腹すいたぁ…。」
「そうですね。いっそのこと、アルトの分だけでも食堂に忍び込んでご飯、取ってきます?そしたらアルトは食べられるじゃないですか。」
「目の前で飯を食ってたら、余計腹が減るだろ。多分、その時はアルトを凄く憎むと思う。」
「だから、とんだとばったりだからねっ!?」
「わーってるって。オレらが騒いだからこうなってんだ腹は減るよなぁ…。」
「…うん…。お腹、空いたねぇ…。」
ー失礼しますわっ!ー
ー失礼するでゲス。ー
聞きなれた声。
これはー!
「お腹、空いていると思って。これ、私たちが少しずつ残してポケモンズの分を残していましたのっ!ささ、早く食べて。ここにはいないけど、グレイやハイスも残していたのですよ。皆の意思を噛み締めながら食べるのですよっ!では、私たちも行きますわよ、ビダ。」
「そ、そうでゲスね。じゃあでゲス、ポケモンズ。」
僕たちはご飯に必死にかぶりつきながら、サフラ達に手を振った。
今日の晩御飯は少しばかり、いつもより美味しかったー。
「みーっつ!皆笑顔で明るい元気なギルド!」
「さぁっ!今日もとりかかるよっ!…と、その前に。今日は紹介したい方々がいるんだ。入ってください!」
ホルトがそう言うと地下二階を激臭が包み込む。
鼻が曲がるほど、臭い。
「探検隊のドクローズの皆さんだ。皆もこの時期には何があるか知っているだろう?そう、遠征だ。その遠征に向けて、プロの探検隊を遠征メンバーとして行くという方針で親方様と話がついている。ので、遠征までドクローズの皆さんとギルド生活を送ろうと思う。ので、仲良くな。では、今日もとりかかるよっ!」
「「「「おーっ!」」」」
ドクローズ…。
聞いたことのある名前だったが、思い出したら探検隊の中でもお尋ね者のような存在だったという会話をどこかで聴いた記憶がある。
そして、極めつけはメンバー。
三人のチームなんだが、リーダーはスカタンクというポケモンらしい。残りの二匹は…。
海岸の洞窟にいたあの、ドガースとズバットだった。
あぁ、もう嫌だ。
あいつらとはもう顔を合わせるのも御免被りたかったのに…。
…て、うじうじしてらんないよね…。
今日は何をしようか。
「あの、リーダー。今日から依頼にしばらく行かねぇ。」
「それはまた、どうして?」
「時期が来たら話す。」
とだけ言い残すと、テナは姿を消した。
後程アリアにも聞いたんだけど、何も聞いてないと。うーん…どうしたんだろう?
「まぁ、夜には帰ってくるでしょう。それまで何か依頼とか行ってみましょう。」
「そうだね。アリアもこれでいいかい?」
「う、うんっ!…でも、テナがいないと変な感じだね。」
「ツッコミ不在っていうヤツじゃないかなぁ?」
「よくよく考えたら、マトモな人ってテナ位だよね」
「と、とりあえず行きましょう。ホルトから聞いた話によると、遠征は選抜メンバーで行くそうです。ので、沢山の功績を上げないと連れていって貰えないそうです。ので、頑張りましょう!」
「「おーっ!」」
本日、ポケモンズが取った依頼はリンゴの森へ落とし物を取りに行くという依頼。
リンゴの森は僕たちの実力にピッタリだと思ったからだ。
「ここは草タイプが一杯出るんだよね!私がかんばるよ!」
「お、おう。頼んだぞ、アリア。」
「あ、そういえば。私、一つ新しい技を修得したんですよ?」
「えっ!なになに!?」
「ふふ。後で見せるべき所がきたら、お見せします。…ですが、草タイプに相性は良くないので、足止め程度になるかもしれませんけど…。」
「その口ぶりからして、覚えたのは電気技だね。その技、今日見れるといいね。」
ソフラの習得した技も気になる所だけど、とりあえず進む。
依頼のあった階層は比較的低い。
ので、あっさり突破できるはずー。
なのだがー。
「ひゃーっ!助けてぇーっ!」
「アッ、アリアッ!?」
「とスピアーの群れですねっ!と、とりあえず逃げましょう。」
話によると、ビードルを倒したらこうなったと。
きっとそのビードルはスピアー達の子どもだったのだろう。
にしても、しつこいなぁ。スピアー…。
「いっ…行きますよ…!」
「ま、まさかっ…!」
「新技お披露目かっ!?」
「はっはいっ!」
秘技… 放電っ!
ソフラが急ブレーキをかけて、一瞬の内に大量の電気を放出した。
僕らはそのまま走っていたので電気は浴びなかった…けど。
「ソフラッ!放電するときは言ってよぉっ!」
「ごっごめんなさい!そんなの言ってる暇無くて…。」
「巻いた…のか?」
「ううん。多分増援が来るんだと思う。だからっ…そのっ…逃げよっ!」
「増援くるんだったら…急ぐぞ。」
「はい。」「うん。」
「増援来たぁぁぁっ!」
「嘘っ!?」「ホントですかっ!?」
後ろを振り向くと、さっきの倍近くの量のスピアーが追ってくる。
これはもう、依頼云々じゃない。
早くバッジで戻るか…?
「アルト!あそこに依頼された「ふっかつのたね」があるよっ!」
「よしっ!急いであれを取ってバッジで帰るよっ!」
目と鼻の先には依頼された「ふっかつのたね」の姿があるため、あれを取った瞬間戻ろう。という話になった。
取るのはアリア。
アリアがその役を買って出たのだ。
「責任は自分で取る。」だそうで…。
「アリア!取ったか!?」
「うんっ!」
「じゃあ、帰るぞ!」
まばゆい光が三人を照らすと、その姿は一瞬にして消えた。
無事、帰還というわけだ。
「つ…。」
「「「疲れたぁ…」」」
依頼主に種を渡して、弟子部屋に戻ると疲れがどっと出てきた。
体は自然にベッドに横になってしまう。
「疲れたねぇ…。」
「疲れたなぁ…。」
「疲れましたね…。」
「お前達、ちょっといいか?」
疲れたと言っているところにホルトがやって来た。
疲れてるから幻覚なんだろう。
「ホルトが来てるねぇ…。」
「そうだねぇ…。僕たち、メチャメチャ疲れてんだよ…。」
「そう…ですね。ホルトの幻覚が見えるだなんて、酷い疲れなんですよ…。」
「お前達。幻覚じゃないぞ。頼みたいことがあるんだが。」
「幻覚がしゃべってるぅ…。」
「だから、幻覚じゃー。」
「幻覚ぅ。黙ってくれないかなぁ?」
「お前達…そろそろー。」
「お腹、空きましたね…。」
「…っ!お前達っ!黙って聞いておれば…早く体を起こせっ!」
幻覚がぁ…って、これ、本物かよっ!
僕たちは慌てて体を起こす。
大層、ホルトはお怒りだ…。
「全く。スピアーに追いかけられたのは災難だったが、幻覚の区別もつかないのか?全く。」
「ご、ごめんってば…。で、用件は何?」
「あぁ。広場に行ってセカイイチというリンゴが入荷するか聞いてきて貰えないか?あいにく、私は忙しいのでな。」
「え?あぁ、うん。わかった。アリアとソフラは休んでて良いよ。僕が行ってくる。」
「じゃあアルト。頼んだぞ。」
「あっ。ホルト。テナがどこに行ったか知らない?」
「テナか?詳しい事は聞いてないが…。探検隊のクイーンズの元に行くとは聞いていた。クイーンズのリーダーのジャローダはテナの姉らしくてな。」
「…そっかぁ…。ありがと。」
テナは姉の元へ行った…となると、戻ってくるのはいつだろう。
今日は帰ってくるのだろうか…?
とりあえず、今は入荷のことを聞いてこよう。
「セカイイチ、ですか?うーんー。当店では取り扱いの予定は無いですねぇ…。」
「そっか。分かった。」
「お役に立てなくてすみませんねぇ…。これからも、カクレオン商店をごひいきにお願いいたします。」
「うん。」
入荷の目処(めど)は無い…と。
それにしても、セカイイチなんてプリルしか食べないのだから。すぐに減るわけが無いんだけど…。
それも、昨日ハイスが取りに行ったのを見たし…。
まぁ、報告だ。
「ーということ。」
「うむぅ…入荷の目処は無いのかぁ…。分かった、ありがとう。休んでくれ。」
「うん。」
僕は弟子部屋に入った直後、ベッドに横たわり。
すぐに寝息をたてた。
夢では、一匹のポケモンがとある森の歯車みたいなものを取っている所を見た。
すると、森はみるみる枯れていき…。
…いや、枯れるというよりも、成長…時が止まった。と言う方が正しいかもしれない。
そんな、変な夢を見た。