六小節目 叫び
僕たちはソフラをギルドに置いて、残りの三匹でまた広場を散策することにした。
結局、カクレオン商店と少しを見ただけだから、ね。
と、言うことで。
「ここはガルーラおばちゃんの倉庫よ。ダンジョンに入る前とかに大切な物は預けておくと、負けてしまっても道具は無くならないわよ。あと、依頼の報酬もここに届くわ。」
「便利なんですね。」
「そうね。おばちゃん、毎日張り切ってるから!」
ガルーラおばちゃんはとっても気さくでいい人だった。
少なからず、僕は好きだなぁ…と思った。
あの、どことなく包んでくれるかんじのオーラ?みたいなのが。
「さて、と。一通り見た、かな?」
「そうだねぇ♪ソフラの元に一度戻ろっか。元気になったかもしれないし。」
「そうだな。んじゃ、戻るか。」
ギルドの僕達の部屋で寝ているソフラの元に僕たちは戻ることになった。
ソフラの体調もよくなってると良いな…。
「ソフラ、大丈夫なのかい?」
「はい、おかげさまで。一眠りしたら体調も万全です!広場を行ってみたいので、これから行ってきたいと思います。」
「でも、ほらっ!体調が優れていると思っていても、急に倒れたらヤだし…。」
「ありがとうございます、アリア。ですが、私のせいで依頼などに対応出来なくなると嫌なのです。出来ないものは諦めますが、広場を回ることぐらい出来ます。私だって意外にタフですから。」
ソフラの言葉にアリアもとうとう口を塞ぐ。
まぁ、広場を回ることぐらい良いだろう。
ということで、僕とアリアとソフラでまたまた広場へやって来た。
テナは何やらホルトに呼ばれていって、ごめんな。と謝っていた。
まぁ、テナが一番マトモだし。ポケモンズに対しての連絡はテナの方が良いのだろう。
「やはり、ギルドの側の広場はやはり大きいですね…。あちらは銀行でしょうか?あ、あちらには鑑定所がありますね!目がとても忙しいです!」
「ソフラ!あっちの奥にもあるんだよ?行ってみない?」
「え?はいっ!是非とも行きます!」
ソフラのこのはしゃぎ様ー。とても楽しいようだ。
楽しんでもらえて良かった、といったところか。
奥にはガルーラおばちゃんの倉庫とかがあるな。
ー?
「あそこ、は?」
僕は引っ張られるようにガルーラおばちゃんの倉庫の奥へと行った。
崖ー。何だけど。
何故か。何故か懐かしい。
でも、何でだ?ここに来たのは初めてだ。
なのに、何故?
きっと、これは人間の時に見たことー。あるいは来たことがあるのだろう。
だが、それがー。その全てが分かるとき。
僕は記憶を戻したことになる。
記憶が戻れば、きっとここにはいちゃいけないんだ。
でも、いたい。
ここで、ポケモンズのメンバーとして。
ここに、いたい。
「アルト?どうしたの?」
「?アリア、か。いや、何でもないよ。」
「アルト。顔色が悪いです。何か…何かあったのなら、話してください。もしかしたら、あなたの、人間としての記憶が戻るのですよ?」
「じ、実はねー。」
僕は二人に来たことがある感覚と、あとは思ったことを全て打ち明けた。
もちろん、記憶が戻ったら、ここにはいてはいけないのだと思ったことも。
「…そっかぁ。確かに、アルトは人間で、私はポケモンだよ。アルトに記憶が戻るかもしれない。でもさー。」
ー今はまだ、ポケモンのアルトでいて良いんじゃない?それくらい神様も許してくれるよ!ー
アリアは常に前向きだ。
全てのことをポジティブに考えている。
僕も、見習うべきなのかな…?
「ありがとう、アリア。元気出た。」
「そっか!どういたしまして!」
「元気が出て良かったです。ただ、すみません。」
ー私も、アルトと同じ感覚を、覚えています。ー
「へ?ソフラも?」
「…はい。何故かは分かりませんが。何となく、来たことがあるような感覚に襲われます。何故…でしょうか?」
「それは、ソフラも記憶を無くす前にここに来たことがあるんじゃあないか?」
「そういうことに…。なりますよね。」
ソフラからの意外なカミングアウト。
まぁ、ソフラも記憶が戻れば何をすべきなのかとか分かるわけだし。
ソフラも、記憶が戻ると良いな…。
ーまだ…。まだ、ポケモンのアルトとして、ポケモンズとして生きたいー。
心の奥で、ポケモンズのアルトが、本音を叫んだ。
人間の、アルトは…。
記憶が戻ることを望むのにな。
まだ、戻りたくない…。まだ、平和にここで生きてたいー。
それが僕の答えだ。
「あれ?ルリリちゃん。買い忘れた物とかあった?」
「いいえ。りんごが少し足りなくて…ありますか?」
「あるよー。はい、25Pだよ。」
あの崖ー。名前はサメハダ岩というらしい。
そこから戻ってきた僕たちは、あの母思いの兄弟の下、ルリリがカクレオン商店でりんごを買い足している姿を見た。
「カクレオンさん、ありがとうございました!」
「いやいや。気を付けて帰ってね!って、あぁっ!」
ルリリが転倒。
持っていたりんごはコロコロ転がって、僕の足元にこつんと当たった。
りんごを拾い上げ、ルリリに渡そうと手に触れたその瞬間!
「ううっ…!」
突如の目眩。
それからー。
「助けてっ!」
その、SOSを求める叫び声。
これは、一体…?
「あ、あのう…?」
「ん?あぁ、ごめんね。目眩が。はい、りんご。」
「ありがとうございます!では、失礼しますね〜」
ルリリは転ばないように気を付けながら、スキップをしながら、広場から出ていった。
「ねぇ、アリア。ソフラ。さっき、(助けてっ!)って声がしなかった?」
「?してないけど。」
「空耳じゃないでしょうか?」
「…。そう。」
いいや、あれは空耳何かじゃない。
あんなにくっきり聞こえるなんて…。
でも、あの二人に聞こえてないってことは…。
一体、何だったんだ?
ギルドに戻ってきたら、テナも交えて広場の出来事を話した。
ルリリの手に触れたら目眩がして、その時に(助けてっ!)と助けを呼ぶ声がしたこと。
「何だろうな。オレはそういうのは知らないな。でも、アリアやソフラには聞こえてなかったのか。で、凄くハッキリ聞こえて、空耳ではないと。もしや、お前ー。」
「!?」
「違法なクスリとか使ってんのか?」
「何でそーゆー発想になるのっ!?」
「わりぃ、わりぃ。だがな、ちょっとはそーゆーのも考えないとな。何かしらの特殊な能力とか?ほら、アリアみたいに。」
確かに、アリアはとある歌を歌うと力が発動する。
海岸の洞窟でテナの毒状態もアリアが歌を歌って治した。
そういう、力が僕にもあるのだろうか?
「まぁ、手がかりが少ない上に本当に空耳かもしれねぇしな。いったんこれは保留にしとこう。ただ、もう一度あったらまた少し考えないとなって事でいいか?アルト。」
「うん。ありがとね、テナ。そういや、さっきホルトに呼ばれてたじゃん。あれって何だったの?」
「あぁ、リーダーを誰にするかって話。まぁ、勿論アルトにしといた。」
「はぁっ!?」
いきなりの告白。
何故僕がリーダーなんだ?
「ほら、だって誰よりお前は人を大切にするからな。そーゆー奴がリーダーに向いてんだよ。前からアリアと話してたしな。」
「うん!だって、ソフラを見つけたときもいち速く走ってたじゃない。それってスッゴク助けたい一心だったんでしょ?」
確かにあの時は助けなきゃって思ってけど。
それはアリアだってー。
「ううん。あなたには仲間を思いやる、そんな優しい心の持ち主だよ。ほら、湿った岩場の時だっていち速く変だっ!って気づいてたんでしょ?」
「それはテナだってー。」
「実はアレ、結構ギリで気づいたんだよな。幼馴染みなのに情けないっ!ってあの後アリアにこっぴどく怒られたしな。つーことでお前が適任なんだよ、リーダー。」
何か、照れるし。
「よろしくね!リーダー!」
リーダーかぁ…
僕に、その資格は、本当にあるのだろうか?
…分かんないよな。
ーアルトー
ーソフラー
「ここらへんだよな、別れたの。何かしらの痕跡が残ってないだろうか…。」
ポケモンの世界の裏では、また一つ、悪事が働いていた。
でもさ。
それは、本当に悪事なのだろうか?
何意味分かんないこと言ってんだ?僕。