五小節目 記憶の無い二匹目
いつも通りの朝。
「ポケモンズ。昨日はご苦労だったな。今日は依頼はいいから、広場でも見てくるといい。そうだな…。ビダ!ちょっとこっちこい!」
「は、はいでゲス!」
地下2階を歩いていたビダにホルトは声をかけた。
ビダ。
弟子のうちの一人で、入った順は下から二番目。つまり、僕たちの一つ先輩。
でも、ここの皆は敬語とかを気にせず、気さくに話しかけろ、と言っている。
皆、優しくて良い人たちだ。
「ビダ、今日はポケモンズを連れて広場を案内してくれ。」
「わ、分かったでゲス。じゃ、行くでゲスよ」
「「「うんっ!」」」
僕たちはギルドの近くの広場と言われる所へ足を運んだ。
「ここが、広場でゲス。すぐ側のここがヨマワル銀行。でその奥がカクレオン商店。まぁ、広場から出なければどこへでも行くでゲスよ。見終わったは私に言うでゲス。」
「ありがとう、ビダ。」
「それほどでもないでゲスよ。ほら、み、見に行くでゲス!」
ビダは感謝されるのに慣れてないようだ。
だって、顔が赤い。
ーと。どこから見ようかな…。
「ねぇ、二人とも。カクレオン商店って気になるんだけど…。行ってみてもいいかな?」
「ん?いいと思うけど…。アルト、いいか?」
「僕も実は気になってて…。行こう。」
カクレオン商店かぁ…。
カクレオンが店員なんだろうけど…。
「「いらっしゃいませぇ〜」」
「わぁっ!綺麗な紫ですね。」
「はい〜♪色違いというんですよ〜♪でも、色が違うって、仲間外れにされたりとかして大変なんですよ〜?」
「そう…なんだ。そういえば、アルトの目の色も綺麗な瑠璃色なんですけど…。」
「「ほ、本当ですね…。初めて見ましたね…。」」
僕の目は瑠璃色…。青系統の色らしい。
リオルは、赤い眼だからな…。そう思うと、僕はこの世界のものでは無いのだろうか…。
「カクレオンさん〜!」
「りんご、ありますか?」
「あぁ、マリル君、ルリリちゃん、りんごはあるよ〜はいっ。」
マリルとルリリ。
カクレオン商店によく来る、お母さん思いの兄弟だという。
お母さんが体調を崩していて、それで最近はよくお使いに来るらしい。
「?カクレオンさん、一つりんご多いですよ?」
「あぁ、それかい?それはサービスだよ。お母さん、良くなるといいね〜♪」
「「ありがとうございます!」」
「良い子達だったね!」
「あぁ。親のために、か。俺の場合は姉が母の代わりをしていてくれたからな…。母の記憶が無いんだけどな…。」
「な、なんかごめんね、テナ。」
「いや、謝んなよ。久しぶりに、姉のことを思い出した。姉に、今度会いに行くかな…。」
テナには母がいないのか…。
テナは、強く生きてきたんだ…。
そういう生き方を憧れる訳ではない…けど、強く生きてきたんだ…。
僕も、強くなりたい。力も、精神も…。
ー仲間を。守れるくらいになるまで。ー
「!?アルト、テナ!ちょっとこっち来てっ!」
「アリア!?」
「どうしたんだ!?」
アリアがじっと見る所ー。僕が倒れていた所に黄色のポケモンがいる。
助けなきゃっ!
「海岸に行こう!介抱しなきゃ」
「うんっ!」「あぁ。」
僕の時と、似ている。
「あ、あそこっ!あれは、誰だろう…?」
「…あれは、ピカチュウじゃないか?ここらへんだと珍しいな。」
「ピカチュウ…か。」
駆け寄ると、ピカチュウが倒れている。
寝ているように倒れている。
「ねぇっ。大丈夫?ねぇ、ねぇってばっ!!」
「んん…っ。」
ピカチュウが目を覚ます。
そう思った時にはムクッと体を起こした。
「ここ…は?」
「ここは広場の近くの海岸よ?ねぇ、あなた、記憶ある?」
「きお…く?私はソフラ。後は…分かんない…。」
やっぱり、記憶喪失か…。
僕の時みたいだ。
「…。ギルドに連れて帰ろう。ホルトとかに言えばどうにかなるかもしれない。」
「そうだな。ソフラ、たてるか?」
「はい。ごめんなさい。…うわあっ!」
フラッとバランスを崩したソフラはその場に倒れこんだ。
「肩を貸すから…。大丈夫?」
「本当に、ごめんなさい…。」
ソフラは全体的に衰弱していた。
ギルドまで行くのに、二人の肩を借りずに歩くことは出来なかったー。
「ほう。記憶が無く、海岸に倒れていた…と。だがしかし、ここに連れて来たところでいく宛が無いのだろう?どうしたもんかな…。」
「あの、ホルト。その事なんだけど、ポケモンズの仲間にすれば、ここに住むことが出来ると思うんだけど…。ソフラはどう?私達と探検隊にならない?そうすれば、ここで住むことが出来るんだけど…。」
「探検隊…?」
ソフラは少し黙りこんだ…。
ーは、入ります…っ!ー
「ほ、本当っ!?なら、よろしくね!私はアリア。このツタージャがテナで、リオルなアルト。」
「よろしくね。」
「…よろしくな。」
「よ、よろしくお願いします…っ!」
そうして、ピカチュウのソフラはポケモンズの仲間になった。
「…。アルト…。ソフラ…。どこに、行ったんだーっ!」