一曲目 はじめまして
三小節目 海岸の洞窟
「アルト…。アルト…!」

目を覚ませば目の前には焦った顔で僕を起こす、アリアの姿があった。

「…?アリア?どうしたの?」
「あの、ね?私の石がドガースとズバットにとられちゃったのっ!」
「?石?」
「うん。不思議な模様のある石。その石の謎を解くのが私の夢なの!って、そんな矢先に取られちゃって…。」
「うん。分かった。テナも起こして行こう。」
「!ありがとう!アルト!」

仲間が、僕を救ってくれた命の恩人の助けなら尚更助けてあげなきゃ。
テナも寝ぼけ眼でもそっと起きる。
ていうか、テナも寝てたんだな。
すごい機嫌が悪そう。…いや、あの目は絶対機嫌が悪い。
寝起きだもんな。

「ごめんね、テナ。」
「いや。目付き悪いけど、怒ってる訳じゃあなあからな。…で、アリア。なんで盗まれてんだよっ!」

あ、怒るんだ。

「怒んないで、テナ。とりあえず、怒るのは石を取り返してからだ。」
「何?やっぱり皆で怒るの…?」
「いや。怒るのはテナだから。僕は帰ってきたら一人で寝てるよ。」
「っ!?アルトォ…。」
「まず、行こう。」

アリアの話だと、盗んだ奴ら(ドガースとズバット)は海岸の洞窟という所に入り込んだようだ。

「海岸の洞窟?あぁ、不思議のダンジョンか。」
「不思議の…ダンジョン?」
「うん。入る度に地形が変わる不思議な所なの。この世界には沢山展開していて、海岸の洞窟もその一つね。一説には時空が歪んだからっていうのがあって、それが一番有力な説なのよ。」
「…しかし。海岸の洞窟は不思議のダンジョンといえども、浅い洞窟だ。ましてや行き止まりだぞ?袋のコラッタじゃないか。」
「だよね。来るのを見越して奇襲作戦とか?」

何やら考えこんでいるようだが、海岸の洞窟に到着。
あ、この海岸の洞窟って僕が倒れていた(漂着していた)海辺のすぐ側だったんだな。
全然気づかなかったけど。

「よし。ここからは気をつけて行くぞ。」
「「うんっ!」」

そう言って、僕たちは海岸の洞窟に足を踏み入れた。



「わぁ、ひんやりしてるわね。」
「そうだね。なんだか…不思議な感覚だ。」
「まさかだとは思うが、ここで記憶が戻ったりとかするのか?」
「うーん…。来た記憶はない、けど。そんな雰囲気もしないし。」
「そうか。」

そもそも僕は、記憶を取り戻すために二人と行動しているって言っても過言ではないんだ。
悪く言えば「利用している」んだ。
記憶を取り戻せば、かなり高い確率で二人と離れることになるだろう。

ー離れたくないー

心のどこかで、囁いた本音。
そう。僕は離れたくないんだよ。
まだ、記憶が戻らなくても良いんじゃないんだろうか。

「あった。奥地だ。」
「…っ!私の、石ー。」
「気を引き締めてくよ。」

奥地は少し広い空洞でその奥は大きく空いていて、そこから海水が、そして朝は光が入ってくるのだという。

「っ!気配がする。…二つの気配。」
「あいつか。回りに気を配れ。」
「うんっ!」

回りに姿を隠している気配がね。
…。

「…!来るっ。」
「何っ!?」

人一倍警戒していたテナに二つの影が当たる。

「うああっ!」
「「テナっ!!」」

テナは丸っぽい影から毒ガスをくらい、その場に倒れこんだ。

「テナ!大丈夫!?」
「馬鹿か、お前は。お前が戦うのを離脱したら…。アルトが一人じゃないか…。」
「…。死んじゃ、ダメだよ…っ!」
「俺が、死ぬかよ…。」

僕は警戒心丸出しで、二つのポケモンを睨み付ける。
どちらも、一歩も動かない。

「アルト。ごめんね。この勝負に勝って、石を取り戻して、テナを連れてギルドに戻るよ。…だから。その、協力して…ちょうだい?」
「ふふっ。断ると思ってたの?」
「いや、そのー。…ううん。アルトなら、きっとオッケーしてくれると思ってたよ。」
「じゃ、まずこれに勝たなきゃな。」

僕たちは一度に目を合わせて、少し笑うと、僕は目の前のズバットに飛びかかった。
マヒを狙って、はっけい。
まぁ、いまひとつなんだけど。
そのころ、アリアは火の粉を打ち続ける。
ドガースはたいあたりってとこか。

「離せぇっ!」
「誰がっ!」

とりあえず、一度に離れると、でんこうせっか。
効果は普通なので、ふつうにダメージがはいるか…。

「グハアッ!」
「よしっ。」

隣を見れば、黒こげになったドガース。
勝ったようだ。

「お前たち、石を返せ。」
「ちっ。あんな石、欲しけりゃくれてやる」

ズバットが石を投げて二匹は逃亡していった。
さて。
テナだ。

「テナ…?テナッ!?」
「テナ。テナ、目を覚ませっ!」

そこには、苦しそうに目を瞑っているテナの姿が。

「テナ…。ねぇ、私がペルジスのアリアを歌ったら…。目を覚ますの?」
「ペルジスの…唄?」
「うん。一度ね、テナがひどい熱で寝込んだときにね…。ペルジスの唄っていうのを歌ったらー。熱がウソのように引いたときがあったのよ…。ねぇ、テナッ!」

そう言うと、アリアはペルジスの唄を歌い始める。鼻唄で。
涙を、ぼろぼろこぼしながらー。

「…ー♪…。」
「テナッ…。」

テナの息が、少し落ち着いたようなー。
…気のせい?
いや、気のせいじゃない。

「…んんっ。」
「「テナッ!」」

テナがムクッと体を起こす。
その目は戸惑いの目だった。

「俺は…。毒ガスをくらってー。」
「勝ったよ。そして、アリアがペルジスの唄を歌ったら。テナの毒が消えたんだよ…。」
「アリア…が?あの高熱の時みたいだな。」
「テナ…。良かったぁ…。」

アリアからはさっきとは比べ物にならないほどの涙をぼろぼろこぼした。
ほっとしたのだろうー。




その後、約束通りにテナにアリアは怒られましたとさ。

■筆者メッセージ
アリアの力。
それは、ペルジスの唄を歌うと発動する。
アリアってー。一体ー?
うに。 ( 2018/02/21(水) 20:24 )